日本地質学会第129年学術大会

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セッションポスター発表

T2.[トピック]新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで

[8poster14-20] T2.[トピック]新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで

2022年9月11日(日) 09:00 〜 13:00 ポスター会場 (ポスター会場)


フラッシュトーク有り 9:00-10:00頃/ポスターコアタイム 11:00-13:00

[T2-P-5] (エントリー)愛媛県千原鉱山周辺の三波川帯の地質と桜樹屈曲の運動像

*崎 海斗1、遠藤 俊祐1 (1. 島根大学)

【zoomによるフラッシュトーク有り】9/11(日)9:15-9:20

キーワード:中央構造線、桜樹屈曲、三波川変成岩

【はじめに】 四国の中央構造線(MTL)は,西条市湯谷口西方から東温市音田にかけて南北走向・西傾斜となり,桜樹屈曲と呼ばれる.桜樹屈曲南方には,中新統の久万層群や石鎚層群が広く分布し,日本海拡大期の前弧地殻内変形に関する多くの研究が行われている.基盤の地質構造に関して,桜樹屈曲以西の三波川変成岩の構造的上位には唐崎マイロナイトが分布する低角構造が保存されているなど,桜樹屈曲を境に違いがみられる.桜樹屈曲北部は現在の応力場で右横ずれ活断層の重信川断層と川上断層のあいだの圧縮性ジョグに相当する一方,それより南方に貫入する土谷流紋岩体(14 Ma)は顕著な破砕は受けておらず,桜樹屈曲中部~南部(千原鉱山周辺)は中期中新世以前の地殻変動史を保存していると考えられる.今回,この地域から新たに見出した桜樹屈曲のMTL露頭と変成斑れい岩について報告する.

【地質】 本地域の三波川変成岩の層序は見かけ下位から,泥質片岩卓越層(A unit),苦鉄質片岩卓越層(B unit),珪質片岩を挟む泥質片岩層(C unit)に区分でき,これらはまとめて四国中央部の白滝ユニットに対比できる.この基本層序は,東西軸の横臥褶曲の繰り返しによる極めて複雑な地質構造を示す.三波川変成岩の主延性変形は,南北走向の桜樹屈曲近傍でも四国の一般傾向と同じく東西伸長線構造を示す.変成作用は一部の苦鉄質片岩に藍閃石+緑れん石が出現し,泥質片岩はざくろ石を含まない緑泥石帯高温部の変成度が大部分を占めるが,面木山周辺域は泥質片岩が粗粒化し,ざくろ石が出現する.C unitは面木山稜線からMTL沿いに分布する.MTL沿いのC unit最上位にカタクレーサイト化した変成斑れい岩を見出した.この変成斑れい岩は,残留鉱物として単斜輝石と褐色~緑色ホルンブレンド,変成鉱物としてアクチノ閃石~フェリウィンチ閃石+緑れん石+アルバイトを含む.桜樹屈曲部のB unitとC unitの境界は西落ち高角正断層となっており,これは千原鉱山坑内で記載された正断層群(Kanehira 1959)に関係づけられる. 土谷流紋岩体の貫入面東側に桜樹屈曲のMTL露頭を2箇所発見した.2箇所のうち北側の露頭は和泉層群由来の未固結破砕帯で,主断層面は中角西傾斜,P-Y複合面構造から上盤南南西ずれを示す.南側の露頭は苦鉄質片岩と和泉層群の泥岩の地質境界で,主断層面は極めて低角な北西傾斜,P-Y複合面構造から上盤南西ずれを示す.

【議論】 本地域の三波川変成岩の構造的最上位を占める変成斑れい岩は,角閃石や単斜輝石の組成から原岩形成後にグラニュライト相~角閃岩相の冷却を経て,周囲の結晶片岩と同等の三波川変成作用を受けている.明確な三波川変成作用の証拠をもたない唐崎マイロナイトの一員と考えるのは難しい.また,四国西部に分布する139-135 Ma火山弧型変成斑れい岩(Kawaguchi et al. 2022)との関係も明らかでないが,本地域の変成斑れい岩も産状から上盤(大陸下部地殻)から取り込まれた可能性が高い. 千原鉱山の東西に伸長したキースラーガー鉱床は桜樹屈曲に向かい西落ち高角正断層により段階的に変位しており(Kanehira 1959),本研究により地表でも同様の固結断層を確認した.少なくともある時期に桜樹屈曲は正断層として活動したことを示すと考えられる.また,桜樹屈曲から直接得られた上盤南西~南南西ずれ(左横ずれ~正断層成分を含む左横ずれ断層)の運動は,付近の土谷流紋岩が破砕を受けていないため,14 Ma以前と考えられるが,未固結断層であるため深部のものではない.久万層群および石鎚層群の形成期間(18~14 Ma)に,弧平行(ENE-WSW)伸長テクトニクス(楠橋・山路2001),弧垂直短縮テクトニクス(砥部衝上),弧垂直伸長テクトニクス(石鎚時階)の変遷があったとされる.前二者のどちらかの応力場での運動と考えられるが,より詳しい時期の制約や桜樹屈曲の成因との関係は今後の課題である.

引用文献 Kanehira, K. (1959) Jour. Fac. Sci. Univ. Tokyo, Sec. 2, 11, 308-339. Kawaguchi et al. (2022) Geosci. J. 26, 37–54. 楠橋・山路(2001)地質雑誌,107, 26-40.