[T7-P-5] 大島半島北部夜久野オフィオライトにおける大深度ボーリングコアの岩相層序と帯磁率
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/11(日)9:35-9:40
キーワード:夜久野オフィオライ、大島半島、ボーリングコア、帯磁率、X線CT
はじめに:夜久野オフィオライトは,岡山県の井原地域から福井県の大島半島にわたって分布する,上部地殻からマントルまでの層序を保った,古生代後期の複合火成岩体である[1].オフィオライト最下部のマントルかんらん岩は,大島半島の南部と東端部に,大島岩体,待ちの山岩体として分布する[1].2014 - 2018年,大島半島北部の大飯発電所敷地内において実施された深度1000 mを超えるボーリングにより,かんらん岩まで到達する連続的なコア試料が得られた.本発表では,これらの岩相記載と,コア試料の帯磁率およびX線CTの結果から得られた知見について報告する.
岩相記載:本コアの岩相は,深度0 - 623 mの地殻セクション,623 - 1005 mのマントルセクションに大別される.地殻セクションでは,浅部に頁岩,玄武岩-ドレライト(以下,ドレライト類と呼称),中部にドレライト類,深部に斑レイ岩が認められた.ドレライト類には,ドレライトゼノリスを含む珪長質~苦鉄質貫入岩や,変質によって二次的に形成されたと考えられるエピドーサイトが認められた.例えば,中部のドレライト類の鉱物組み合わせは,主に斜長石,緑簾石,マグネタイト,石英,緑泥石であったが,エピドーサイトでは主に緑簾石,石英に変化していた.斑レイ岩には,塑性および脆性変形を被った剪断変形組織が認められた.これらの地殻セクションは,上位から下位にむかって温度の上昇する中圧型の変成作用を被っており,緑色片岩相から緑簾石角閃岩相をへて,角閃岩相に到達していることが観察された.マントルセクションでは,浅部にハルツバーガイト,ダナイト,輝石岩,深部にウェールライトおよび輝石岩が認められた.かんらん岩類には,かんらん石が保持された新鮮部が認められる一方で,一部,二次的な蛇紋岩化作用が認められた.例えば,ウェールライトの鉱物組み合わせは,主にかんらん石,単斜輝石,クロムスピネルであるが,蛇紋岩化作用を強く被ると,主に蛇紋石,マグネタイト,角閃石となっていることが観察された.
物性値の測定結果:コア試料の帯磁率測定の結果,地殻セクションのドレライト類は0.222 - 186×10-3 SIであり,変質部は新鮮部よりも低い値を示した.珪長質~苦鉄質貫入岩は0.04 - 0.518×10-3 SIであった.斑レイ岩は0.134 - 0.258×10-3 SIであった.マントルセクションのハルツバーガイトは5.34 - 16.4×10-3 SI,ダナイトは18.4 - 44.7×10-3 SI,輝石岩は2.17 - 39.9×10-3 SIであった.蛇紋岩は10.1 - 96.1×10-3 SIであった.変質した試料の一部には,数cmスケールの帯磁率の不均質性が認められた.X線CTの結果,変質した試料には幅数mmのマグネタイトの濃集脈などが,三次元的に発達していることが観察された.CT値と密度の関係式[2]から,コア試料の三次元的な密度変化を1ピクセル0.07 mmの画素サイズのCT画像を用いて決定した.
考察:帯磁率に対する二次的な変質作用の影響を評価するため,新鮮部と変質部が共存するドレライト類およびウェールライト試料を対象に,帯磁率と岩石組織の関係について考察した.変質程度が異なる試料について,帯磁率と薄片観察より得られた各鉱物の体積比との相関をとると,帯磁率とマグネタイトの体積比に強い正の相関が認められた.従って,ドレライト類が変質すると,マグネタイトが緑簾石の形成のために消費されることで,帯磁率が低下すると考えられる.また,かんらん岩が変質すると,かんらん石の分解によってマグネタイトが増加するために,帯磁率が増加すると考えられる.変質した試料でみられた帯磁率の不均質性は,X線CTの結果から,三次元的に発達するマグネタイトなどの濃集脈の影響と考えられる.これらにもとづき,全てのボーリングコアの帯磁率層序から貫入岩や変質作用の影響を取り除くと,帯磁率の一部に周期的な変化が認められた.この変化は,火成作用によって形成された鉄酸化物などの量比と相関する可能性があり,オフィオライトを形成したマグマの化学組成の変化と対応する可能性がある.
まとめと今後の展望:大島半島北部において,オフィオライト層序を保持した連続的なボーリングコアが得られた.本研究では,当該コアの岩相記載を実施し,帯磁率やX線CTを組み合わせることで,岩石が被った代表的な変質作用と帯磁率の関係を議論した.二次的な影響を減じた帯磁率層序に認められる周期的な変化は,マグマ組成の変化に対応する可能性がある.今後,これらの岩石の化学分析を実施し,本オフィオライトを形成したマグマ組成の経時変化について議論したい.
[1] Ishiwatari, 1985, Journal of Petrology;
[2] 岩森ら, 2020, 岩石鉱物科学
岩相記載:本コアの岩相は,深度0 - 623 mの地殻セクション,623 - 1005 mのマントルセクションに大別される.地殻セクションでは,浅部に頁岩,玄武岩-ドレライト(以下,ドレライト類と呼称),中部にドレライト類,深部に斑レイ岩が認められた.ドレライト類には,ドレライトゼノリスを含む珪長質~苦鉄質貫入岩や,変質によって二次的に形成されたと考えられるエピドーサイトが認められた.例えば,中部のドレライト類の鉱物組み合わせは,主に斜長石,緑簾石,マグネタイト,石英,緑泥石であったが,エピドーサイトでは主に緑簾石,石英に変化していた.斑レイ岩には,塑性および脆性変形を被った剪断変形組織が認められた.これらの地殻セクションは,上位から下位にむかって温度の上昇する中圧型の変成作用を被っており,緑色片岩相から緑簾石角閃岩相をへて,角閃岩相に到達していることが観察された.マントルセクションでは,浅部にハルツバーガイト,ダナイト,輝石岩,深部にウェールライトおよび輝石岩が認められた.かんらん岩類には,かんらん石が保持された新鮮部が認められる一方で,一部,二次的な蛇紋岩化作用が認められた.例えば,ウェールライトの鉱物組み合わせは,主にかんらん石,単斜輝石,クロムスピネルであるが,蛇紋岩化作用を強く被ると,主に蛇紋石,マグネタイト,角閃石となっていることが観察された.
物性値の測定結果:コア試料の帯磁率測定の結果,地殻セクションのドレライト類は0.222 - 186×10-3 SIであり,変質部は新鮮部よりも低い値を示した.珪長質~苦鉄質貫入岩は0.04 - 0.518×10-3 SIであった.斑レイ岩は0.134 - 0.258×10-3 SIであった.マントルセクションのハルツバーガイトは5.34 - 16.4×10-3 SI,ダナイトは18.4 - 44.7×10-3 SI,輝石岩は2.17 - 39.9×10-3 SIであった.蛇紋岩は10.1 - 96.1×10-3 SIであった.変質した試料の一部には,数cmスケールの帯磁率の不均質性が認められた.X線CTの結果,変質した試料には幅数mmのマグネタイトの濃集脈などが,三次元的に発達していることが観察された.CT値と密度の関係式[2]から,コア試料の三次元的な密度変化を1ピクセル0.07 mmの画素サイズのCT画像を用いて決定した.
考察:帯磁率に対する二次的な変質作用の影響を評価するため,新鮮部と変質部が共存するドレライト類およびウェールライト試料を対象に,帯磁率と岩石組織の関係について考察した.変質程度が異なる試料について,帯磁率と薄片観察より得られた各鉱物の体積比との相関をとると,帯磁率とマグネタイトの体積比に強い正の相関が認められた.従って,ドレライト類が変質すると,マグネタイトが緑簾石の形成のために消費されることで,帯磁率が低下すると考えられる.また,かんらん岩が変質すると,かんらん石の分解によってマグネタイトが増加するために,帯磁率が増加すると考えられる.変質した試料でみられた帯磁率の不均質性は,X線CTの結果から,三次元的に発達するマグネタイトなどの濃集脈の影響と考えられる.これらにもとづき,全てのボーリングコアの帯磁率層序から貫入岩や変質作用の影響を取り除くと,帯磁率の一部に周期的な変化が認められた.この変化は,火成作用によって形成された鉄酸化物などの量比と相関する可能性があり,オフィオライトを形成したマグマの化学組成の変化と対応する可能性がある.
まとめと今後の展望:大島半島北部において,オフィオライト層序を保持した連続的なボーリングコアが得られた.本研究では,当該コアの岩相記載を実施し,帯磁率やX線CTを組み合わせることで,岩石が被った代表的な変質作用と帯磁率の関係を議論した.二次的な影響を減じた帯磁率層序に認められる周期的な変化は,マグマ組成の変化に対応する可能性がある.今後,これらの岩石の化学分析を実施し,本オフィオライトを形成したマグマ組成の経時変化について議論したい.
[1] Ishiwatari, 1985, Journal of Petrology;
[2] 岩森ら, 2020, 岩石鉱物科学