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[T1-O-8] (エントリー)蛍石(CaF2)の定常摩擦係数:単結晶試料と粉末試料の比較
キーワード:摩擦、蛍石、直接剪断摩擦試験、回転式摩擦試験
断層の強度は岩石や鉱物の摩擦強度によって支配されていると考えられている。これまでの室内実験では、多くの岩石の摩擦係数が0.6~0.85 となるByerlee 則が経験的に知られている。このByerlee 則を含む Amontons-Coulomb の法則は一般に、摩擦係数が真実接触部の降伏強度と剪断強度の比によって決まるという凝着摩擦説 (Bowden and Tabor, 1964) で定性的に説明される。しかし、金属などの摩擦係数の値はこのような単純な関係式に従わず、降伏応力の大きい石英などの地殻主要鉱物については定量的な議論もされていない。そこで、本研究では断層アナログ物質として、石英などと比べてはるかに降伏応力が低く、結晶構造も単純で、水との反応性も低い蛍石 CaF2を用いた。これまで蛍石の摩擦に関してはPin-on-disc 実験 (O'neill et al, 1973) や原子間力顕微鏡 (AFM) を用いた研究 (Niki et al, 2012) はあるものの、蛍石-蛍石の接触面間の摩擦についての報告はない。本研究では、蛍石の単結晶試料と粉末試料について低滑り速度・大変位の摩擦実験を行い、得られた定常状態の摩擦係数を比較した。比較のため、石英や曹長石についても同様の実験を行った。
単結晶試料の実験は直接剪断摩擦試験機を用いて行った。この装置では、エアベアリングによって装置の摩擦を軽減することで、精密に摩擦力を計測することができる。実験試料には天然の単結晶蛍石および人工石英を直径2 mmまたは3 mm の円柱状に成型して用いた。蛍石は (111) または (100) 方向の円柱底面(滑り面)を#400の研磨紙で粗く研磨したものを用いた。基盤には石英ガラスまたは、天然蛍石多結晶体を#400で粗く研磨したものを使用した。法線応力は ~10 MPa、滑り速度は500-1000 μm/s の間で変化させて行った。
粉末試料の実験には新たに開発した回転摩擦試験機 KURAMA を用いた。実験試料には、天然蛍石および天然曹長石を粉砕し、篩にかけた粉末試料 (粒径 73-120 μm)、および市販の石英砂 (粒径 ~70 μm) を用いた。実験は単結晶試料・粉末試料いずれも室温で行い、乾燥条件下と水に飽和した条件下で実験を実施した。本研究では、回転摩擦試験では法線応力を ~200 MPa、滑り速度を1 –1000 μm/s に変化させて実験を行った。
単結晶の実験では、同種物質間の摩擦係数は μ~0.3-0.5 と比較的大きい値を示したが、異種物質間の摩擦係数は μ~0.15-0.3 と比較的小さい値を示した。異種物質間の中でも、石英 on 蛍石 では μ~0.3 程度となったが、蛍石 on 石英ガラス では μ~0.15 と極めて小さい値をとった。また、乾燥条件下の実験では水に飽和させた実験よりデータのばらつきが大きくなった。粉末試料の実験の結果、蛍石・石英・曹長石のすべての実験で μ~0.5-0.6 となり、Byerlee 則に典型的な0.6 と近い値となった。
上記の結果は、同種物質間の凝着力が、異種物質間の凝着力より大きかったことを示唆する。異種物質間の摩擦において、石英 on 蛍石 の場合には、石英の方が硬いため掘り起こしによる摩耗が働いたことが考えられる。一方、蛍石 on 石英ガラス の実験では、μ~0.15 と非常に小さな摩擦係数を示した。これは AFM で計測される蛍石の摩擦係数 μ~0.2 (Niki et al, 2012) と近い値である。このことから、石英ガラスが滑らかな面であったために、原子レベルの摩擦抵抗力を反映した摩擦係数をみていた可能性がある。乾燥条件下の実験では、データのばらつきが大きくなったが、これは直接剪断試験における片当たりの影響が考えられる。水に飽和した条件での単結晶同種物質間の実験では、μ~0.5 となり、粉末試料の μ~0.5-0.6 と近い値を示す。
白雲母や緑泥石などの板状鉱物では、単結晶試料の摩擦係数が粉末試料の摩擦係数より著しく小さいという報告があり、これらは板状鉱物の結晶構造を反映した底面滑りの影響によるものと解釈されている。一方、今回の実験では、バルク鉱物で異方性の小さい蛍石や石英を使用した結果、そのような違いはみられなかった。蛍石や石英では単結晶試料・粉末試料のいずれの場合も、凝着摩擦が主要な摩擦機構であったと考えられる。蛍石は石英より1桁小さい降伏応力をもつが、摩擦係数には大きな違いがなかったことから、真実接触部の剪断強度と降伏強度に相関があるという凝着説に整合的な結果が得られた。
引用文献
Bowden and Tabor (1964) University Press. Oxford.
Niki et al. (2012) Tribology Online.
O'neill et al. (1973) Journal of Materials Science.
単結晶試料の実験は直接剪断摩擦試験機を用いて行った。この装置では、エアベアリングによって装置の摩擦を軽減することで、精密に摩擦力を計測することができる。実験試料には天然の単結晶蛍石および人工石英を直径2 mmまたは3 mm の円柱状に成型して用いた。蛍石は (111) または (100) 方向の円柱底面(滑り面)を#400の研磨紙で粗く研磨したものを用いた。基盤には石英ガラスまたは、天然蛍石多結晶体を#400で粗く研磨したものを使用した。法線応力は ~10 MPa、滑り速度は500-1000 μm/s の間で変化させて行った。
粉末試料の実験には新たに開発した回転摩擦試験機 KURAMA を用いた。実験試料には、天然蛍石および天然曹長石を粉砕し、篩にかけた粉末試料 (粒径 73-120 μm)、および市販の石英砂 (粒径 ~70 μm) を用いた。実験は単結晶試料・粉末試料いずれも室温で行い、乾燥条件下と水に飽和した条件下で実験を実施した。本研究では、回転摩擦試験では法線応力を ~200 MPa、滑り速度を1 –1000 μm/s に変化させて実験を行った。
単結晶の実験では、同種物質間の摩擦係数は μ~0.3-0.5 と比較的大きい値を示したが、異種物質間の摩擦係数は μ~0.15-0.3 と比較的小さい値を示した。異種物質間の中でも、石英 on 蛍石 では μ~0.3 程度となったが、蛍石 on 石英ガラス では μ~0.15 と極めて小さい値をとった。また、乾燥条件下の実験では水に飽和させた実験よりデータのばらつきが大きくなった。粉末試料の実験の結果、蛍石・石英・曹長石のすべての実験で μ~0.5-0.6 となり、Byerlee 則に典型的な0.6 と近い値となった。
上記の結果は、同種物質間の凝着力が、異種物質間の凝着力より大きかったことを示唆する。異種物質間の摩擦において、石英 on 蛍石 の場合には、石英の方が硬いため掘り起こしによる摩耗が働いたことが考えられる。一方、蛍石 on 石英ガラス の実験では、μ~0.15 と非常に小さな摩擦係数を示した。これは AFM で計測される蛍石の摩擦係数 μ~0.2 (Niki et al, 2012) と近い値である。このことから、石英ガラスが滑らかな面であったために、原子レベルの摩擦抵抗力を反映した摩擦係数をみていた可能性がある。乾燥条件下の実験では、データのばらつきが大きくなったが、これは直接剪断試験における片当たりの影響が考えられる。水に飽和した条件での単結晶同種物質間の実験では、μ~0.5 となり、粉末試料の μ~0.5-0.6 と近い値を示す。
白雲母や緑泥石などの板状鉱物では、単結晶試料の摩擦係数が粉末試料の摩擦係数より著しく小さいという報告があり、これらは板状鉱物の結晶構造を反映した底面滑りの影響によるものと解釈されている。一方、今回の実験では、バルク鉱物で異方性の小さい蛍石や石英を使用した結果、そのような違いはみられなかった。蛍石や石英では単結晶試料・粉末試料のいずれの場合も、凝着摩擦が主要な摩擦機構であったと考えられる。蛍石は石英より1桁小さい降伏応力をもつが、摩擦係数には大きな違いがなかったことから、真実接触部の剪断強度と降伏強度に相関があるという凝着説に整合的な結果が得られた。
引用文献
Bowden and Tabor (1964) University Press. Oxford.
Niki et al. (2012) Tribology Online.
O'neill et al. (1973) Journal of Materials Science.