10:15 〜 10:30
[T4-O-2] 飛騨帯研究のレビュー:最近の進展と今後の視点
キーワード:飛騨変成作用、飛騨花崗岩、宇奈月結晶片岩類、飛騨ナップ、大和構造線
飛騨帯は、かつては日本列島の先カンブリア時代基盤とされたが、プレート造山論が普及する中、結晶片岩類から時計回りの中圧型PTtパスや約250Maの変成年代が判明し、北中国・南中国地塊間の衝突境界東方延長とされるようになった(例えばHiroi, 1981; 1983)。日本列島の主体が約5億年間成長してきた付加体であることがわかると、飛騨帯は海洋側の古生代・中生代付加体などに衝上した異地性ナップと説明されるようになった(Komatsu, 1990; 相馬・椚座, 1993)。本講演では、CHIME, SHRIMP, LA-ICPMS法で得られた大量のU-Pb年代に基づくその後の飛騨帯研究の進展についてレビューし、今後の視点を提案する。
飛騨帯は、泥質/塩基性/石灰質片麻岩類と飛騨古期花崗岩、宇奈月結晶片岩類からなる飛騨変成岩類と、それらに貫入する200-180Maの飛騨新期花崗岩からなる。古期花崗岩のU-Pb年代は250−240Maのものが多いが、様々な程度に片麻岩化しており、またかつて新期花崗岩の模式地とされた岩体からも約280MaのSHRIMP年代が得られたので(椚座ほか, 2010)、飛騨変成作用時ないしそれ以前の変成岩とみなされる。宇奈月結晶片岩類の原岩は、石炭紀コケムシ化石を産する石灰岩やバイモーダル火成岩類、十字石を産するパーアルミナス泥岩などリフトを含む大陸縁辺起源の堆積岩である。飛騨変成岩類や新期花崗岩のジルコンには、時に1.9−1.8Gaの砕屑性のコアがあり(Cho et al., 2021)、飛騨帯は先カンブリア時代大陸地塊ではないことが再確認された。
飛騨変成作用は、約1億年間に及んだ長期のプロセスであった。塩基性片麻岩原岩や古期花崗岩の年代は約270Maから増え、250-240Maに集中する。またジルコン再結晶部の年代は約240Maであり(Cho et al., 2021)、衝突開始時の熱構造変化から変成作用のピーク年代と考えられる。熱水起源のウラニナイトのCHIME年代は240Maと200Maに集中し(椚座・金子, 2001)、前者はジルコンの再結晶年代に一致する。K-ArやRb-Sr法による年代240−220Maは変成作用の後退期を示し、新期花崗岩は変成帯の上昇途中に貫入した。これらについて1000万年程度の時間差の考察も可能だが、長期の造山過程中での温度や流体組成の時空間変化として捉えることも重要である。一方、新期花崗岩貫入は飛騨変成作用での説明は困難であり、太平洋側からのプレート沈み込みに関係したマグマ活動と考えられる。また白亜紀前期手取層群(庵谷礫岩層)の約220Ma A-type花崗岩礫(Isozaki et al., 2023)の起源は、大和構造線(YTL)に沿ったテクトニクス面からの検討が必要である。
今後に向けて次の3点を指摘する。1)飛騨帯の石灰質の単斜輝石片麻岩形成には、高温での石灰岩と含角閃石岩の機械的混合反応が必要であり、大陸縁辺堆積層が圧縮応力場に取り込まれたことを示す。飛騨片麻岩類と宇奈月結晶片岩類の原岩の構成や年代は、海域の縮小期の大陸縁辺での堆積場特定に関わる。飛騨帯からのU-Pb年代に、南中国地塊に特徴的な600−1200Maの年代を欠くことは重要である。2)東アジアプレート古地理復元のために、大・南中国(GSC)+ニポニデス造山帯(飛騨外縁帯など)、その大陸側の飛騨帯+その延長部、そして中央アジア造山帯の3者関係を広域的に再検討する必要がある。飛騨帯などの動きを反映した手取層群や相当層の後背地や古流系復元が重要である。3)YTL形成の一部として飛騨ナップ・テクトニクスを再検討する。YTLは日本では飛騨帯ナップの先端にあたるが、ロシア・中国国境や朝鮮半島でどのような様相を呈するのかは未解明である。
文献:Cho et al. (2021)GSF 12, 101145; Hiroi(1981)Tectonophysics 76, 317-333; Hiroi(1983)CMP 82, 334-350; Isozaki et al. (2023) Is. Arc 32, e12475 ; Komatsu (1990) In Ichikawa et al.(Eds.), IGCP project, 224, 25–40; 椚座・金子 (2001) 地質学会見学旅行案内書, 137-156; 椚座ほか (2010) 地質雑 116 Suppl, 83-101; 相馬・椚座 (1993) 地質学論集 42, 1-20
飛騨帯は、泥質/塩基性/石灰質片麻岩類と飛騨古期花崗岩、宇奈月結晶片岩類からなる飛騨変成岩類と、それらに貫入する200-180Maの飛騨新期花崗岩からなる。古期花崗岩のU-Pb年代は250−240Maのものが多いが、様々な程度に片麻岩化しており、またかつて新期花崗岩の模式地とされた岩体からも約280MaのSHRIMP年代が得られたので(椚座ほか, 2010)、飛騨変成作用時ないしそれ以前の変成岩とみなされる。宇奈月結晶片岩類の原岩は、石炭紀コケムシ化石を産する石灰岩やバイモーダル火成岩類、十字石を産するパーアルミナス泥岩などリフトを含む大陸縁辺起源の堆積岩である。飛騨変成岩類や新期花崗岩のジルコンには、時に1.9−1.8Gaの砕屑性のコアがあり(Cho et al., 2021)、飛騨帯は先カンブリア時代大陸地塊ではないことが再確認された。
飛騨変成作用は、約1億年間に及んだ長期のプロセスであった。塩基性片麻岩原岩や古期花崗岩の年代は約270Maから増え、250-240Maに集中する。またジルコン再結晶部の年代は約240Maであり(Cho et al., 2021)、衝突開始時の熱構造変化から変成作用のピーク年代と考えられる。熱水起源のウラニナイトのCHIME年代は240Maと200Maに集中し(椚座・金子, 2001)、前者はジルコンの再結晶年代に一致する。K-ArやRb-Sr法による年代240−220Maは変成作用の後退期を示し、新期花崗岩は変成帯の上昇途中に貫入した。これらについて1000万年程度の時間差の考察も可能だが、長期の造山過程中での温度や流体組成の時空間変化として捉えることも重要である。一方、新期花崗岩貫入は飛騨変成作用での説明は困難であり、太平洋側からのプレート沈み込みに関係したマグマ活動と考えられる。また白亜紀前期手取層群(庵谷礫岩層)の約220Ma A-type花崗岩礫(Isozaki et al., 2023)の起源は、大和構造線(YTL)に沿ったテクトニクス面からの検討が必要である。
今後に向けて次の3点を指摘する。1)飛騨帯の石灰質の単斜輝石片麻岩形成には、高温での石灰岩と含角閃石岩の機械的混合反応が必要であり、大陸縁辺堆積層が圧縮応力場に取り込まれたことを示す。飛騨片麻岩類と宇奈月結晶片岩類の原岩の構成や年代は、海域の縮小期の大陸縁辺での堆積場特定に関わる。飛騨帯からのU-Pb年代に、南中国地塊に特徴的な600−1200Maの年代を欠くことは重要である。2)東アジアプレート古地理復元のために、大・南中国(GSC)+ニポニデス造山帯(飛騨外縁帯など)、その大陸側の飛騨帯+その延長部、そして中央アジア造山帯の3者関係を広域的に再検討する必要がある。飛騨帯などの動きを反映した手取層群や相当層の後背地や古流系復元が重要である。3)YTL形成の一部として飛騨ナップ・テクトニクスを再検討する。YTLは日本では飛騨帯ナップの先端にあたるが、ロシア・中国国境や朝鮮半島でどのような様相を呈するのかは未解明である。
文献:Cho et al. (2021)GSF 12, 101145; Hiroi(1981)Tectonophysics 76, 317-333; Hiroi(1983)CMP 82, 334-350; Isozaki et al. (2023) Is. Arc 32, e12475 ; Komatsu (1990) In Ichikawa et al.(Eds.), IGCP project, 224, 25–40; 椚座・金子 (2001) 地質学会見学旅行案内書, 137-156; 椚座ほか (2010) 地質雑 116 Suppl, 83-101; 相馬・椚座 (1993) 地質学論集 42, 1-20