日本地質学会第130年学術大会

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T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

[1oral201-07] T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

2023年9月17日(日) 10:00 〜 12:15 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:澤木 佑介(東京大学)、磯崎 行雄(東京大学)、佐藤 友彦

11:30 〜 11:45

[T4-O-6] 篠山層群の砕屑性ジルコン年代と西南日本白亜紀弧内層の層序見直し:関門層群との対比

*堤 之恭1、長谷川 遼2、磯﨑 行雄3 (1. 国立科学博物館地学研究部、2. 富士フイルムビジネスイノベーション(株)、3. 東京大学大学院総合文化研究科)

キーワード:篠山層群、砕屑性、ジルコン年代、関門層群、弧内堆積物

日本列島の白亜紀整然層は,前弧・弧内・背弧堆積物の3種に分類される.弧内・背弧堆積物は一般に陸成層からなり,これまで対比精度が劣る非海棲生物化石と凝灰岩・火山岩の放射年代のみが年代推定手段だった.篠山層群は兵庫県に産する非海成相白亜系で,下部の大山下層と上部の沢田層からなる(坂口, 1960; 林ほか, 2017).軟体動物化石により,大山下層は北部九州の関門層群脇野亜層群下部若宮層に(田村, 1990),また沢田層は上部若宮層に(Ota, 1960)各々対比され,K-Ar年代とFT年代により篠山層群の堆積年代はジュラ紀末チトニアン~白亜紀セノマニアンとされてきた(松浦・吉川, 1992).しかし,カイエビおよび貝形虫の記載に加え,大山下層下部の凝灰岩から106 ± 9 Ma (1σ)(アルビアン)というFT年代が報告され,その堆積年代の下限は従来示されていたよりも大幅に若くなった(林ほか, 2010).また,同凝灰岩および沢田層最下部の安山岩からそれぞれ112.1 ± 0.4 Ma,106.4 ± 0.4 Ma (95% conf.; Kusuhashi et al., 2013;アルビアン) というジルコンU-Pb 年代が報告された(図A).
 篠山層群の堆積年代の確認と砕屑物の来歴,さらに他の弧内堆積物との比較のため,新たに砕屑性ジルコン年代の測定を行った.大山下層中部から得た砂岩の年代分布は最若ピーク以外が卓越する背弧海盆的なパタンをもち,YC1σは105.9 ± 1.5 Maを示した.一方で,沢田層下部~中部から得た砂岩はほぼ最若ピークのみが卓越する弧内堆積盆地的なパタンをもち,YC1σは98.3 ± 0.6 Ma(セノマニアン)を示した(図B).
 大山下層中部のYC1σは沢田層最下部の安山岩の年代と誤差範囲で一致し,大山下層の中部以降の堆積速度が速く,その年代が約106 Maであることを示している.一方,沢田層下部~中部のYC1σは98 Maと,下部の安山岩と年代的にかなり離れる.これらの結果は篠山層群が,アルビアン前期の泥質で凝灰岩を挟む大山下層下部,アルビアン後期安山岩に覆われる砂泥質な大山下層中部~沢田層下部,そしてセノマニアン以降の沢田層中部~上部という,年代の異なる三つの層序単元から構成されることを示唆する.
 大山下層下部の凝灰岩の年代は,関門層群脇野亜層群熊谷層(上部若宮層相当)の凝灰岩の年代111.8 ± 1.3 Ma(95% conf.; Miyazaki et al., 2019)と誤差範囲で一致し,大山下層下部と上部若宮層との対比は妥当である.一方で,下関亜層群下部の塩浜層砂岩のYC1σは101.3 ± 0.9 Maを示す(堤ほか, 2023).おそらく山口県の下関亜層群は,篠山層群の沢田層下部の106 Ma安山岩に対応する部分を欠くのであろう.しかし,長崎の西彼杵半島/五島列島間の江島では,下関亜層群相当の安山岩層が102.0 ± 1.2 Ma(95% conf.; Tsutsumi & Tani, 2022)の花崗閃緑岩に貫入されており,安山岩の年代は102 Ma以前なので,江島の安山岩は沢田層下部のそれに対比可能である.このように,篠山層群と関門層群とは大局的によく対比されることが確認された.山口県の関門層群のみが106 Ma火山岩の存在を欠く事実は,西南日本の白亜紀中葉以降のテクトニクスを考察する上での制約条件の一つとなる.

林ほか(2017)地雑 123, 747-764.; 林ほか(2010)地雑 116, 283-286.; Kusuhashi et al. (2013) Proc. Royal Soc. B 280, 20130142.; 松浦・吉川(1992)地雑 98, 635-643.; Miyazaki et al. (2019) Int. Geol. Rev. 61, 649-674.; Ota (1960) Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. C 9, 187-209.; 坂口(1960)大阪学芸大紀要 8, 34-46.; 田村(1990)熊大教育紀要, 自然科学 39, 1-47.; 堤ほか(2023)鉱物科学会要旨.; Tsutsumi & Tani (2022) Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C 48, 1-14.