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[T4-O-7] 日本の中新世花崗岩から作成されたジルコンの母岩判別図
キーワード:ジルコン、中新世花崗岩、微量元素
花崗岩は地球を特徴づける岩石の一つであり、その成因解明に向けてこれまで多くの先行研究が報告されてきた。大陸地殻上部は概ね花崗岩質であるとされており、2000年代以降大陸形成史を議論する上で砕屑性ジルコンが注目を集めている。砂岩中に含まれる砕屑性ジルコンの年代分析は、既に消失した地質体の年代情報を提供するため、日本列島の構造発達史の解明において大きな役割を果たしてきた(Aoki et al., 2012; Isozaki et al., 2017など)。一方で、砕屑性ジルコンを供給した母岩組成情報については理解が進んでいない事が研究現状といえる。砂岩に含まれる砕屑性ジルコンの大半は花崗岩に由来し、本研究は花崗岩中のジルコンを判別できる方法を模索する。花崗岩を分類する方法は多々あるが、Sawaki et al. (2022)では花崗岩をI-, S-, M-, A-型に分類する方法に着目し、西南日本に分布する中新世花崗岩の各型に含まれるジルコンの化学組成を調べた。その結果、Nb/P、Ta/P、Ce/Pの組み合わせることでジルコンを供給した母岩の花崗岩型判別を可能であると提唱した。しかし、特にS型花崗岩については扱った岩石が大峯地域のみであり、判別図の一般性が十分に検証されたとは言えない。そこで本研究では鹿児島県に産出する中新世花崗岩を用い、上記判別図の更新を行う。
鹿児島県に産する中新世花崗岩のうち、南大隅岩体、高隅山岩体、紫尾山岩体から岩石を採取した。Nakada & Takahashi (1979)によると前二者はS型花崗岩、紫尾山岩体はI型花崗岩に分類される。構成鉱物、主要元素、微量元素組成の観点から言って、南大隅岩体及び高隅山岩体はS型花崗岩の特徴を有している事が再確認できた。紫尾山岩体はI型花崗岩の特徴も有する一方で、ferroan、高(Nb+Y)濃度、高Ga/Alといった特徴を併せ持つ。Whalen & Hildebrand (2019)の分類に当てはめるとA1型に分類されるため、ここでは暫定的にI-A遷移型として扱う。花崗岩から分離したジルコンをEpofix樹脂に埋め込み、カソード像にて内部構造を観察した結果、inheritedジルコンはほとんど観察されなかった。各ジルコンの微量元素濃度は学習院大学のLA-ICP-MSを用いて測定した。その際包有鉱物には細心の注意を払い、包有鉱物の照射が疑われる分析は除外した。
南大隅岩体及び高隅山岩体中のジルコンはやや低いNb/P, Ce/Pによって特徴づけられた。これは、S型花崗岩マグマ中でのジルコン晶出が遅い事に由来すると考えられる。つまり、早期晶出したイルメナイトにNb、モナザイトにCeが選択的に分配されたために残存マグマ及びそこから晶出するジルコン中ではこれら元素に枯渇したと考えられる。また、これら元素の枯渇度合いは大峯地域のS型花崗岩中ジルコンほどではなく、S型花崗岩中ジルコンが持ち得る組成幅はSawaki et al. (2022)で想定されていたよりは広いと結論づけられる。紫尾山岩体中のジルコンはNb/P-Ce/P図上でI型とA型花崗岩中ジルコンの中間にプロットされた。紫尾山岩体花崗閃緑岩の全岩Zr濃度は概ね200 μg/g以上と高いため、マグマ中でのジルコン晶出が早期であったと想定される。そのため、早期の共生鉱物の晶出影響に鈍く、全岩組成の特徴がそのままジルコン組成にも反映されたと推察される。
上記判別図では、ジルコンの組成領域は全岩化学組成および早期の共生鉱物によって決定される。本研究で議論するイルメナイトやモナザイトは日本の中新世花崗岩に限った花崗岩の共生鉱物種ではないため、判別図としての一般性は損なわれないと考えられる。上記I-, S-, M-, A-型花崗岩中ジルコンの組成領域は互いに重複している部分も存在するため、どんなジルコンでも完璧に分けられるわけではない。しかし、特徴的な化学組成を持つジルコンだけでも母岩推定ができれば、日本列島の構造発達史の解明に貢献できると思われる。
[引用文献] Aoki et al. (2012) Geology, 40(12), 1087-1090. Isozaki et al. (2017) Journal of Asian Earth Sciences, 145, 565-575. Sawaki et al. (2022). Island Arc, 31(1), e12466. Nakada & Takahashi (1979) 地質学雑誌, 85(9), 571-582. Whalen & Hildebrand (2019) Lithos, 348, 105179.
鹿児島県に産する中新世花崗岩のうち、南大隅岩体、高隅山岩体、紫尾山岩体から岩石を採取した。Nakada & Takahashi (1979)によると前二者はS型花崗岩、紫尾山岩体はI型花崗岩に分類される。構成鉱物、主要元素、微量元素組成の観点から言って、南大隅岩体及び高隅山岩体はS型花崗岩の特徴を有している事が再確認できた。紫尾山岩体はI型花崗岩の特徴も有する一方で、ferroan、高(Nb+Y)濃度、高Ga/Alといった特徴を併せ持つ。Whalen & Hildebrand (2019)の分類に当てはめるとA1型に分類されるため、ここでは暫定的にI-A遷移型として扱う。花崗岩から分離したジルコンをEpofix樹脂に埋め込み、カソード像にて内部構造を観察した結果、inheritedジルコンはほとんど観察されなかった。各ジルコンの微量元素濃度は学習院大学のLA-ICP-MSを用いて測定した。その際包有鉱物には細心の注意を払い、包有鉱物の照射が疑われる分析は除外した。
南大隅岩体及び高隅山岩体中のジルコンはやや低いNb/P, Ce/Pによって特徴づけられた。これは、S型花崗岩マグマ中でのジルコン晶出が遅い事に由来すると考えられる。つまり、早期晶出したイルメナイトにNb、モナザイトにCeが選択的に分配されたために残存マグマ及びそこから晶出するジルコン中ではこれら元素に枯渇したと考えられる。また、これら元素の枯渇度合いは大峯地域のS型花崗岩中ジルコンほどではなく、S型花崗岩中ジルコンが持ち得る組成幅はSawaki et al. (2022)で想定されていたよりは広いと結論づけられる。紫尾山岩体中のジルコンはNb/P-Ce/P図上でI型とA型花崗岩中ジルコンの中間にプロットされた。紫尾山岩体花崗閃緑岩の全岩Zr濃度は概ね200 μg/g以上と高いため、マグマ中でのジルコン晶出が早期であったと想定される。そのため、早期の共生鉱物の晶出影響に鈍く、全岩組成の特徴がそのままジルコン組成にも反映されたと推察される。
上記判別図では、ジルコンの組成領域は全岩化学組成および早期の共生鉱物によって決定される。本研究で議論するイルメナイトやモナザイトは日本の中新世花崗岩に限った花崗岩の共生鉱物種ではないため、判別図としての一般性は損なわれないと考えられる。上記I-, S-, M-, A-型花崗岩中ジルコンの組成領域は互いに重複している部分も存在するため、どんなジルコンでも完璧に分けられるわけではない。しかし、特徴的な化学組成を持つジルコンだけでも母岩推定ができれば、日本列島の構造発達史の解明に貢献できると思われる。
[引用文献] Aoki et al. (2012) Geology, 40(12), 1087-1090. Isozaki et al. (2017) Journal of Asian Earth Sciences, 145, 565-575. Sawaki et al. (2022). Island Arc, 31(1), e12466. Nakada & Takahashi (1979) 地質学雑誌, 85(9), 571-582. Whalen & Hildebrand (2019) Lithos, 348, 105179.