09:00 〜 09:30
[T14-O-1] [招待講演]地層処分において安全確保上少なくとも考慮されるべき事項に関する検討の背景及び経緯
キーワード:放射性廃棄物、地層処分、自然事象、プレートシステム、火山現象
原子力規制委員会は,特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針(平成27年5月22日閣議決定)を受け,「概要調査地区等の選定時に安全確保上少なくとも考慮されるべき事項」(考慮事項)について,令和4年1月から数次にわたり検討及び審議を重ねてきた.
1.検討の範囲
考慮事項の検討対象とする事象の範囲は,次の点を考慮することとした.
・概要調査地区等の選定の際に特に考慮されると考えられる施設の設置場所に関するもの
・廃棄物埋設地に埋設された高レベル放射性廃棄物等(HLW等)を起因として公衆に著しい被ばくを与えるおそれがある事象のうち,廃棄物埋設地の設計(構造及び設備)による対応が困難であり,廃棄物埋設地の設置を避けることにより対応する必要があるもの これらの点を踏まえ,断層等,火山現象,侵食及び鉱物資源等の掘採の4事象を考慮事項の対象とする事象とした.これらの事象が起きた場合に,HLW等を起因として公衆に著しい被ばくを与えると想定されるプロセスを表にまとめた.
2.検討の方向性
表に挙げた自然事象に対して,考慮事項の内容は,以下の点に留意して検討した.
○HLWの放射能特性を踏まえ,中深度処分の規制基準と共通的な事項や,追加して考慮することが必要な事項を整理する.
○将来における地殻変動の方向や速度については,以下に示す我が国における地殻変動の継続性についての科学的知見を踏まえ,現在における傾向と同様であるとの前提を置く.
・表に挙げた自然事象の将来の変遷については不確実性があるものの,過去に生じた事象の発生のメカニズムや周期性などの科学的知見に基づけば,過去に生じた事象が同様の範囲で繰り返し生じる可能性は十分に想定され,当該事象の発生を今後将来の一定の期間外挿することには合理性があるものと考えられる.
・また,プレートシステムの転換に伴って,異なったステージの地殻変動が起こるとされており,このような場合には上記の自然事象の発生の傾向も大きく変化することが考えられる.ただし,プレートシステムの転換には100万年~1000万年以上の期間を要したとされており,今後直ちに地殻変動のステージが変わることは想定できない.
3.我が国における火山の発生メカニズムとその地域性
表で挙げた自然事象のうち,火山現象に関しては特に留意が必要であり,考慮事項の検討に先立ち,我が国における火山の発生メカニズムの特徴やその地域性等に関する科学的・技術的知見の拡充を目的として,火山の専門家からの意見聴取を実施した.意見聴取の結果として,我が国における火山の発生メカニズム等に関する科学的・技術的知見を整理した[1].ポイントは以下の通り.
〇プレート境界に位置する日本列島において、マグマの発生はプレートの特性や運動と深い関係がある.プレートの特性や運動と深い関係があるマグマの発生の傾向が今後10万年程度の間に大きく変化することは想定し難く、これを否定する学説や科学的知見は見当たらない.
〇マグマの発生条件が成立していないと考えられる地域(例えば、東北日本の前弧域)では、今後10万年程度の期間において火山が発生する蓋然性は極めて低い.
〇現時点においてマグマの発生条件の成立を否定できない地域について、新たな火山の発生の蓋然性を評価する場合には、マントルウェッジの対流や沈み込む海洋プレートの特性等を加味した評価モデル等の構築によって評価することが考えられるが、研究段階であり、現時点においては確立された評価方法は見当たらない.
4.考慮事項の考え方
考慮事項の検討対象とした事象について,以下のように考え方を整理した.
(1)断層等 人工バリアの損傷を防止するとともに,地下水流動経路を通じた放射性物質の移動の促進等を防止するとの観点は中深度処分と同様.
(2)火山現象 中深度処分と同様に,噴火やマグマの貫入による廃棄物埋設地の破壊が生じる蓋然性を十分に低減することが必要.加えて,HLWの放射能特性を踏まえ,新たな火山の発生の可能性についても考慮されるべき.
(3)侵食に係る考慮事項の考え方 中深度処分より更に深い深度を確保することが適当.
(4)鉱物資源等の掘採に係る考慮事項の考え方 人為事象としての鉱物資源等の掘採は,中深度処分と地層処分とで差異はない. 原子力規制委員会は「考慮事項」を令和4年8月24日に決定した.全文は原子力規制委員会ホームページ[2]に掲載されている.
参考文献
[1] 原子力規制庁: 令和4年度第10回原子力規制委員会, 資料2, 地層処分において安全確保上少なくとも考慮されるべき事項に関する検討(第3回目)-火山の専門家への意見聴取結果-. 令和4年5月18日 (2022)
[2] https://www.nra.go.jp/data/000402076.pdf
1.検討の範囲
考慮事項の検討対象とする事象の範囲は,次の点を考慮することとした.
・概要調査地区等の選定の際に特に考慮されると考えられる施設の設置場所に関するもの
・廃棄物埋設地に埋設された高レベル放射性廃棄物等(HLW等)を起因として公衆に著しい被ばくを与えるおそれがある事象のうち,廃棄物埋設地の設計(構造及び設備)による対応が困難であり,廃棄物埋設地の設置を避けることにより対応する必要があるもの これらの点を踏まえ,断層等,火山現象,侵食及び鉱物資源等の掘採の4事象を考慮事項の対象とする事象とした.これらの事象が起きた場合に,HLW等を起因として公衆に著しい被ばくを与えると想定されるプロセスを表にまとめた.
2.検討の方向性
表に挙げた自然事象に対して,考慮事項の内容は,以下の点に留意して検討した.
○HLWの放射能特性を踏まえ,中深度処分の規制基準と共通的な事項や,追加して考慮することが必要な事項を整理する.
○将来における地殻変動の方向や速度については,以下に示す我が国における地殻変動の継続性についての科学的知見を踏まえ,現在における傾向と同様であるとの前提を置く.
・表に挙げた自然事象の将来の変遷については不確実性があるものの,過去に生じた事象の発生のメカニズムや周期性などの科学的知見に基づけば,過去に生じた事象が同様の範囲で繰り返し生じる可能性は十分に想定され,当該事象の発生を今後将来の一定の期間外挿することには合理性があるものと考えられる.
・また,プレートシステムの転換に伴って,異なったステージの地殻変動が起こるとされており,このような場合には上記の自然事象の発生の傾向も大きく変化することが考えられる.ただし,プレートシステムの転換には100万年~1000万年以上の期間を要したとされており,今後直ちに地殻変動のステージが変わることは想定できない.
3.我が国における火山の発生メカニズムとその地域性
表で挙げた自然事象のうち,火山現象に関しては特に留意が必要であり,考慮事項の検討に先立ち,我が国における火山の発生メカニズムの特徴やその地域性等に関する科学的・技術的知見の拡充を目的として,火山の専門家からの意見聴取を実施した.意見聴取の結果として,我が国における火山の発生メカニズム等に関する科学的・技術的知見を整理した[1].ポイントは以下の通り.
〇プレート境界に位置する日本列島において、マグマの発生はプレートの特性や運動と深い関係がある.プレートの特性や運動と深い関係があるマグマの発生の傾向が今後10万年程度の間に大きく変化することは想定し難く、これを否定する学説や科学的知見は見当たらない.
〇マグマの発生条件が成立していないと考えられる地域(例えば、東北日本の前弧域)では、今後10万年程度の期間において火山が発生する蓋然性は極めて低い.
〇現時点においてマグマの発生条件の成立を否定できない地域について、新たな火山の発生の蓋然性を評価する場合には、マントルウェッジの対流や沈み込む海洋プレートの特性等を加味した評価モデル等の構築によって評価することが考えられるが、研究段階であり、現時点においては確立された評価方法は見当たらない.
4.考慮事項の考え方
考慮事項の検討対象とした事象について,以下のように考え方を整理した.
(1)断層等 人工バリアの損傷を防止するとともに,地下水流動経路を通じた放射性物質の移動の促進等を防止するとの観点は中深度処分と同様.
(2)火山現象 中深度処分と同様に,噴火やマグマの貫入による廃棄物埋設地の破壊が生じる蓋然性を十分に低減することが必要.加えて,HLWの放射能特性を踏まえ,新たな火山の発生の可能性についても考慮されるべき.
(3)侵食に係る考慮事項の考え方 中深度処分より更に深い深度を確保することが適当.
(4)鉱物資源等の掘採に係る考慮事項の考え方 人為事象としての鉱物資源等の掘採は,中深度処分と地層処分とで差異はない. 原子力規制委員会は「考慮事項」を令和4年8月24日に決定した.全文は原子力規制委員会ホームページ[2]に掲載されている.
参考文献
[1] 原子力規制庁: 令和4年度第10回原子力規制委員会, 資料2, 地層処分において安全確保上少なくとも考慮されるべき事項に関する検討(第3回目)-火山の専門家への意見聴取結果-. 令和4年5月18日 (2022)
[2] https://www.nra.go.jp/data/000402076.pdf