日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T7[トピック]鉱物資源研究の最前線

[1oral401-12] T7[トピック]鉱物資源研究の最前線

2023年9月17日(日) 09:00 〜 12:15 口頭第4会場 (共北25:吉田南総合館北棟)

座長:安川 和孝(東京大学)、町田 嗣樹(千葉工業大学)

09:30 〜 09:45

[T7-O-2] (エントリー)海洋-堆積物間のNd質量収支ボックスモデルに基づくレアアース泥生成の支配因子の長期変動の検討

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*松波 亮佑1、安川 和孝1、中村 謙太郎1,2、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学、2. 千葉工業大学)

キーワード:レアアース泥、ネオジム、質量収支、ボックスモデル、海底堆積物

レアアースに富む深海堆積物である「レアアース泥」は,新規レアアース資源として開発が期待されている [1].これまでの研究において,レアアース泥の品位や分布にはバリエーションが認められており,こうしたバリエーションを生じさせている因子を理解することは,今後の開発に向けた有望海域を推定する上で重要な手掛かりとなると考えられる.
こうしたレアアース泥の組成バリエーションは,堆積速度や魚類の生産性といった海洋環境の長期変動とそれに伴う海洋-堆積物間の物質収支の変動により生じてきたことが示唆されている [2, 3].これらの知見はいずれも,様々な海域の堆積物試料に対する鉱物学的・地球化学的分析に基づいて得られてきた.その一方で,これらの因子がレアアース泥の生成にもたらす影響について広域的かつ定量的に議論を行うには,数理モデルを用いた理論的アプローチが有効であると期待される.
そこで本研究では,太平洋全域を対象とする海洋-堆積物間のNd質量収支ボックスモデルを構築し,レアアース泥の生成に関連する環境因子について定量的検討を行なった.本モデルでは, 近年注目されている海水-堆積物間のレアアース収支に関する相互作用を組み込み,堆積物から海洋へのレアアースの流出を考慮すると共に,大陸からのダストフラックスと堆積速度を明示的に関連づけるなど,より現実に即したシミュレーションが可能となっている.
構築したモデルを用いて,レアアース泥生成の支配因子を検討した.最初に,モデルの感度分析を行なった結果,大陸縁辺域から海洋へのレアアースの流出がレアアース泥の品位に対して大きな影響を与えることが明らかとなった.次に,様々な地質記録から推定される炭酸塩補償深度や大陸のケイ酸塩岩風化強度,ダストフラックス,および全球的な海水準 (大陸縁辺域の面積に影響する) の長期変動を強制力としてモデルに与え,レアアース泥生成の長期シミュレーションを行なった.その結果,実際の遠洋性堆積物コア試料に見られるレアアース泥品位の増減の傾向を概ね再現できることが明らかとなった.しかしながら,本研究のシミュレーションでは,一部の海域のレアアース泥に特徴的に見られる顕著に大きなレアアース濃度ピークを再現することはできなかった.これを再現するには,堆積物中でレアアースを濃集するBCP (Biogenic Calcium Phosphate) フラックスの寄与をモデルに組み込むなど,海洋生態系の変遷も考慮したモデルへと改良する必要があると考えられる.

[1] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.
[2] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.
[3] Mimura (2021) The University of Tokyo, Ph. D. thesis.