日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T7[トピック]鉱物資源研究の最前線

[1oral401-12] T7[トピック]鉱物資源研究の最前線

2023年9月17日(日) 09:00 〜 12:15 口頭第4会場 (共北25:吉田南総合館北棟)

座長:安川 和孝(東京大学)、町田 嗣樹(千葉工業大学)

11:00 〜 11:15

[T7-O-8] (エントリー)南鳥島EEZにおけるマンガンノジュールの化学層序に基づく成長史の解読

*武居 史也1、中村 謙太郎1,2、町田 嗣樹2、安川 和孝1、大田 隼一郎1,2、藤永 公一郎2,1、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学、2. 千葉工業大学)

キーワード:マンガンノジュール、µXRF 分析、元素マッピング、化学層序、南鳥島

CoやNiは、リチウムイオン電池などに使用され、今後も世界的に需要が増加すると考えられる重要な資源である。しかし、これらの鉱物資源は生産国の政情不安や資源ナショナリズム等の問題が指摘されており、新しい供給源の開発が求められている[1]。海底鉱物資源の1つであるマンガンノジュールは、CoやNiなどの重要な金属を高濃度で含んでいるため、こうした有用元素の新たな供給源として期待されている[2]。

2010年、YK10-05航海によって、日本最東端の南鳥島の排他的経済水域(EEZ)の東部でマンガンノジュールの密集域が発見され、試料の採取が行われた[3]。この発見を受けて、2016年には国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学、千葉工業大学などによってYK16-01航海が実施された。YK16-01航海では、南鳥島EEZ内の8地点でマンガンノジュールの潜航調査が行われ、広大なマンガンノジュールの密集域が東部から南東部にわたって発見された[4, 5]。また、その翌年の2017年には、JAMSTEC、東京大学、千葉工業大学などによってさらに広域的なマンガンノジュールの分布調査を目的としたYK17-11C航海が実施された。YK17-11C航海では、YK16-01航海で未調査であったEEZ内北部とEEZ外の海域を含む全8回の潜航調査が行われ、新たなマンガンノジュールの密集域が複数の地点で確認された[6]。

南鳥島EEZのマンガンノジュールは、鉱物組織や化学組成の特徴が同海域の鉄マンガンクラストとよく一致しており[7]、これらはいずれも海水起源であると指摘されている[3]。海水起源のマンガンノジュールは、海水中に存在する鉄マンガン酸化物が直接沈殿し、中心の核から鉄マンガン酸化物層が順次成長することで層構造を形成することが知られている。また、マンガンノジュールの成長速度は非常に遅く、1〜5 mm/Myr程度と考えられている[8]。そのため、マンガン酸化物層の微細な構造や化学組成には、長期間にわたる海洋環境の変化やイベントが記録されていると考えられている[9]。したがって、マンガンノジュールの鉄マンガン酸化物層の特徴を明らかにすることにより、過去の海洋環境を理解することができると期待される。また、詳細な岩石学的および化学的解析によって、どの海域に有用な元素が濃集しているかを推定することで、高品位の海域を特定することも期待される。

これまで、南鳥島EEZのマンガンノジュールの層構造に関するいくつかの研究が行われてきている。Machidaら[3]は、南鳥島EEZのマンガンノジュールの酸化物層を岩石学的に分類した。また、Nakamuraら[10]はX線CTの値に基づいて酸化物層を分類した。さらにMachidaら[11]は、µXRF分析によって得られた化学組成の特徴を用いて鉄マンガン酸化物層を細分化することで、南鳥島EEZのマンガンノジュールにおいて合計9層の層序を識別し、マンガンノジュールのより詳細な化学層序を定義した。

これまでの先行研究から、µXRF分析をより多くのマンガンノジュールに対して適用することで、南鳥島EEZ内の様々な海域のマンガンノジュールについて詳細な層区分とキャラクタリゼーションが可能となり、それらの成長の過程を詳細に解析することができると考えられる。そこで本研究では、南鳥島EEZ全体で採取されたマンガンノジュールに対して包括的なµXRF分析を行うことで、南鳥島EEZのマンガンノジュールの成長史を明らかにすると共に、その形成を支配する過去の海洋環境を考察することを目的とする。発表では、多数のマンガンノジュール試料に対して層区分を解析した結果と、その結果をもとに同海域のマンガンノジュールの成因および形成を支配する要因について議論する。

引用文献
[1] 経済産業省 (2021) プレスリリース. [2] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews, 51, 1-14. [3] Machida. et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 539-555. [4] 石井ほか (2016) 深田地質研究所年報, 17, 1-28. [5] JAMSTEC (2016) プレスリリース. [6] 町田ほか (2017) 日本地質学会第124年学術大会. [7] Nozaki et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 527-537. [8] Halbach et al. (1983) Nature, 304, 716-719. [9] 臼井 朗 (1998) 地質ニュース, 493, 30-41. [10] Nakamura et al. (2021) Minerals, 11, 1110. [11] Machida et al. (2021) Island Arc, 30, e12395.