9:15 AM - 9:30 AM
[T8-O-2] Application of multiple inverse method to minor faults around the concealed active fault: an example in the 1984 western Nagano earthquake region
Keywords:Concealed active fault, Minor faults, Multiple inverse method, damage zone
【背景・目的】
活断層が確認されていない地域において、マグニチュード6~7クラスの地震が発生することがしばしばある。これらの地震を発生させる断層は、地表には現れず、地下に伏在しているものと考えられる。このような伏在断層は、歴史地震などの記録や地震観測データがない限り、把握することが困難である。 断層周辺に発達するダメージゾーンは、小規模な断層が密集して発達する領域とされることから活断層が地下に伏在する場合でも、その周辺のダメージゾーンは地表まで到達している可能性がある。このようなダメージゾーンに発達する小断層は、主たる断層の活動に伴って形成されると考えられ、伏在する主断層と同様の応力で活動した可能性が高い。そのため、ダメージゾーンに発達する小断層の解析から、地下に伏在する活断層を把握できる可能性がある。 本研究では、伏在断層の存在が既に明らかにされている1984年長野県西部地震の震源地域(Yoshida & Koketsu, 1990)を対象に、地表に分布する小断層のスリップデータ(走向、傾斜、および条線のレイク角、剪断センス)を収集した。このデータを基に、小断層群を動かした応力を多重逆解法で推定し、伏在断層周辺の地表における応力の空間分布を求めるともに、小断層スリップデータから伏在断層のダメージゾーンが把握可能であるかを検討した。
【調査手法】
本研究では極力多くのスリップデータを集めるため、露頭において変位が不明瞭な割れ目面や、ガウジを伴わない割れ目面であっても、条線が認められるものについては小断層としてデータを収集した。割れ目面の条線を頼りに調査を実施するため、調査の際は、溶岩や溶結凝灰岩の露頭において溶結構造や流理構造などと見間違わないように細心の注意を払った。特に、条線が直線的であるか、面が条線の方向に対して湾曲していないかを注意深く観察し、調査を行った。 応力の推定には多重逆解法を用いた。多重逆解法は、断層のすべり方向がせん断応力に平行であるというWallace-Bott仮説に基づき、多数の小断層スリップデータから逆解析的にそれら小断層の運動を説明する応力を検出・分離する手法である(Yamaji, 2000: 佐藤ほか, 2017)。本研究では、条線データの収集地点とデータ数を考慮して調査地域を13の領域(a~m)に区分し、各領域内のスリップデータに対して多重逆解法を適用することで応力の推定を行った。
【結果・考察】
本研究では、地表踏査により344条の小断層スリップデータを収集した。データの大半は割れ目面に発達した条線から得られたものであり、細粒の粘土を挟む破砕帯を伴うものは2地点で認められたのみであった。また、地質体ごとで小断層面の傾向は認められなかった。小断層スリップデータの中には、第四紀の火山岩中のものも含まれており、収集したスリップデータの一部は少なくとも第四紀以降に活動したことを裏付けている。 小断層スリップデータ、領域区分、多重逆解法の結果を図1に示す。検出された応力は領域ごとに大きく異なるが、伏在断層の直上付近に位置する領域b、c、e、kでは、概ねNW-SE~WNW-ESE方向にσ1軸を持つ応力比の低い応力が共通して検出された。Uchide et al. (2022)による本地域を含む広域応力と領域b、c、e、kの平均応力との応力角距離は、いずれも59.26°(Yamaji & Sato, 2019)を下回る。この結果は、伏在断層の直上付近に現在の広域応力と似た応力で活動した小断層が密集していることを示しており、このような密集領域は伏在断層のダメージゾーンに相当すると考えられる。 本地域は、伏在する活断層の活動が地表に大きな影響を及ぼしておらず、明瞭なリニアメントが検出されていない地域である。本研究の結果は、こうした活断層地形が不明瞭な地域であっても地表踏査により小断層データを収集し応力逆解析を実施することで、伏在断層のダメージゾーンを把握できる可能性を示す。
【参考文献】
佐藤ほか(2017): 地質学雑誌, 123(6), 391-402. Uchide et al., (2022): JGR: Solid Earth, 127(6), e2022JB024036. Yamaji, (2000): JSG, 22(4), 441-452. Yamaji & Sato, (2019): JSG, 125, 296-310. Yoshida & Koketsu, (1990): GJI, 103(2), 355-362.
【謝辞】
本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
活断層が確認されていない地域において、マグニチュード6~7クラスの地震が発生することがしばしばある。これらの地震を発生させる断層は、地表には現れず、地下に伏在しているものと考えられる。このような伏在断層は、歴史地震などの記録や地震観測データがない限り、把握することが困難である。 断層周辺に発達するダメージゾーンは、小規模な断層が密集して発達する領域とされることから活断層が地下に伏在する場合でも、その周辺のダメージゾーンは地表まで到達している可能性がある。このようなダメージゾーンに発達する小断層は、主たる断層の活動に伴って形成されると考えられ、伏在する主断層と同様の応力で活動した可能性が高い。そのため、ダメージゾーンに発達する小断層の解析から、地下に伏在する活断層を把握できる可能性がある。 本研究では、伏在断層の存在が既に明らかにされている1984年長野県西部地震の震源地域(Yoshida & Koketsu, 1990)を対象に、地表に分布する小断層のスリップデータ(走向、傾斜、および条線のレイク角、剪断センス)を収集した。このデータを基に、小断層群を動かした応力を多重逆解法で推定し、伏在断層周辺の地表における応力の空間分布を求めるともに、小断層スリップデータから伏在断層のダメージゾーンが把握可能であるかを検討した。
【調査手法】
本研究では極力多くのスリップデータを集めるため、露頭において変位が不明瞭な割れ目面や、ガウジを伴わない割れ目面であっても、条線が認められるものについては小断層としてデータを収集した。割れ目面の条線を頼りに調査を実施するため、調査の際は、溶岩や溶結凝灰岩の露頭において溶結構造や流理構造などと見間違わないように細心の注意を払った。特に、条線が直線的であるか、面が条線の方向に対して湾曲していないかを注意深く観察し、調査を行った。 応力の推定には多重逆解法を用いた。多重逆解法は、断層のすべり方向がせん断応力に平行であるというWallace-Bott仮説に基づき、多数の小断層スリップデータから逆解析的にそれら小断層の運動を説明する応力を検出・分離する手法である(Yamaji, 2000: 佐藤ほか, 2017)。本研究では、条線データの収集地点とデータ数を考慮して調査地域を13の領域(a~m)に区分し、各領域内のスリップデータに対して多重逆解法を適用することで応力の推定を行った。
【結果・考察】
本研究では、地表踏査により344条の小断層スリップデータを収集した。データの大半は割れ目面に発達した条線から得られたものであり、細粒の粘土を挟む破砕帯を伴うものは2地点で認められたのみであった。また、地質体ごとで小断層面の傾向は認められなかった。小断層スリップデータの中には、第四紀の火山岩中のものも含まれており、収集したスリップデータの一部は少なくとも第四紀以降に活動したことを裏付けている。 小断層スリップデータ、領域区分、多重逆解法の結果を図1に示す。検出された応力は領域ごとに大きく異なるが、伏在断層の直上付近に位置する領域b、c、e、kでは、概ねNW-SE~WNW-ESE方向にσ1軸を持つ応力比の低い応力が共通して検出された。Uchide et al. (2022)による本地域を含む広域応力と領域b、c、e、kの平均応力との応力角距離は、いずれも59.26°(Yamaji & Sato, 2019)を下回る。この結果は、伏在断層の直上付近に現在の広域応力と似た応力で活動した小断層が密集していることを示しており、このような密集領域は伏在断層のダメージゾーンに相当すると考えられる。 本地域は、伏在する活断層の活動が地表に大きな影響を及ぼしておらず、明瞭なリニアメントが検出されていない地域である。本研究の結果は、こうした活断層地形が不明瞭な地域であっても地表踏査により小断層データを収集し応力逆解析を実施することで、伏在断層のダメージゾーンを把握できる可能性を示す。
【参考文献】
佐藤ほか(2017): 地質学雑誌, 123(6), 391-402. Uchide et al., (2022): JGR: Solid Earth, 127(6), e2022JB024036. Yamaji, (2000): JSG, 22(4), 441-452. Yamaji & Sato, (2019): JSG, 125, 296-310. Yoshida & Koketsu, (1990): GJI, 103(2), 355-362.
【謝辞】
本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。