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[T8-O-5] (エントリー)堆積岩物性と応力逆解析から明らかにする宮崎層群の発達史
キーワード:前弧海盆、宮崎層群、圧密、ビトリナイト反射率、応力逆解析
島弧前縁に広がる前弧海盆は、地質学的に長期間安定して存在することから、沈み込み帯の地質情報を連続的に保存すると期待される。これらの運動の記録は、堆積岩物性としてだけでなく、断層などの地質構造として保存される。本研究は、新第三系前弧海盆堆積物の宮崎層群において、最高被熱温度と圧密降伏応力、古応力方向を検討した。それらの結果から、宮崎層群にみられる特異な隆起過程とそれを支配するテクトニクスを考察する。
宮崎層群は、砂岩泥岩互層の岩相が側方に変化するため、砂岩優勢の南部(青島相)、等量の中央部(宮崎相)、泥岩優勢の北部(妻相)の3相に区分されている。泥岩の空隙率は、南部から北部にかけて15%から30%まで増加する(青島相:15.9%,宮崎相:25.5–26.9%,妻相:26.1–31.6%)。
ビトリナイト反射率を用いて、堆積岩の最高被熱温度を検討した。算出された最高被熱温度は、約5–6 Maに堆積した同時異相で比較した場合、南部ほど高い値を示した(青島相:97–116°C,宮崎相:85–99°C,妻相:80–94°C)。また各相において、下部ほど高温である傾向が見られた。
堆積岩の最大有効応力を検討するため、泥岩を対象にK0圧密試験を実施した。泥岩の側方を拘束し鉛直方向に圧密させていくと、泥岩が経験した最大有効応力を圧密降伏応力として算出できる。上述の同時異相で比較した場合、圧密降伏応力は南部ほど明瞭に大きかった(青島相:38.2 MPa,宮崎相:13.8–16.2 MPa,妻相:13.6–15.5 MPa)。圧密降伏応力から計算される堆積物の最大埋没深度は、青島相で3600 m、宮崎相と妻相で1400–1600 mである。宮崎相と妻相の埋没深度は、層序から期待される値とほとんど一致した。したがって、青島相は宮崎層群の深部に由来し、宮崎層群南部が局所的に隆起することでこれらが地表に露出したことが明らかになった。
宮崎層群南部の古応力を復元するため、青島相において76条の小断層を観察し、応力逆解析を実施した。小断層のうち、25条について断層方位・滑り方向・滑りセンスが確認できた。そのほか滑り方向が不明なデータを51条取得した。解析はHough変換による応力逆解法 [1]を用いた。解析の結果、青島相全域において、ほぼ鉛直方向のσ1軸とNW–SE方向のσ3軸が検出された。宮崎層群北部においてもE–WからNW–SE方向のσ3軸が報告されていることから [2]、これは宮崎層群全域に共通すると考えられる。一方で、青島相と宮崎相の境界付近では、上記の応力方向に加えてNE–SW方向のσ3軸が検出された。境界付近の宮崎相においても同様のσ3軸が報告されていることから [2]、この応力方向は青島相と宮崎相の境界に固有のものである可能性が高い。
この境界付近の特異な古応力は、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。宮崎層群全域に見られる古応力は、海溝に直行したσ3軸であり、プレート沈み込みやスラブロールバックに起因すると考えられている [2]。一方で、境界付近で検出された古応力は、σ2軸が九州―パラオ海嶺の沈み込み方向と並行であり、この地域へ海山が沈み込むことによってσ2軸の方向が局所的に変化したことを示唆する。
青島相の局所的な隆起は、南九州地域の反時計回り回転運動と、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。約200万年前、宮崎層群を含む南九州地域は、約30°の反時計回り回転運動を経験した [3]。この際、南九州地域は3つのブロックに分かれて回転し、その境界の1つが宮崎相と青島相の境界に一致する。したがって、青島相は他相と異なるブロック上で独立して運動したと考えられる。また九州―パラオ海嶺は、宮崎層群堆積途中の5 Ma頃に宮崎沖で沈み込み始め、現在は宮崎層群の直下に沈み込んでいる。青島相の局所的な隆起は、海山沈み込みとそれに伴う海山の局所的なアンダープレートによって引き起こされたと解釈できる。
宮崎層群の局所的な隆起とそれに付随する断層運動は、海嶺沈み込みの痕跡を記録している可能性がある。
参考文献
[1] Yamaji+, Journal of Structural Geology 28, 980-990, 2006.
[2] Yamaji, Tectonophysics 364, 9-24, 2003.
[3] Kodama+, Geology 9, 823-826, 1995.
宮崎層群は、砂岩泥岩互層の岩相が側方に変化するため、砂岩優勢の南部(青島相)、等量の中央部(宮崎相)、泥岩優勢の北部(妻相)の3相に区分されている。泥岩の空隙率は、南部から北部にかけて15%から30%まで増加する(青島相:15.9%,宮崎相:25.5–26.9%,妻相:26.1–31.6%)。
ビトリナイト反射率を用いて、堆積岩の最高被熱温度を検討した。算出された最高被熱温度は、約5–6 Maに堆積した同時異相で比較した場合、南部ほど高い値を示した(青島相:97–116°C,宮崎相:85–99°C,妻相:80–94°C)。また各相において、下部ほど高温である傾向が見られた。
堆積岩の最大有効応力を検討するため、泥岩を対象にK0圧密試験を実施した。泥岩の側方を拘束し鉛直方向に圧密させていくと、泥岩が経験した最大有効応力を圧密降伏応力として算出できる。上述の同時異相で比較した場合、圧密降伏応力は南部ほど明瞭に大きかった(青島相:38.2 MPa,宮崎相:13.8–16.2 MPa,妻相:13.6–15.5 MPa)。圧密降伏応力から計算される堆積物の最大埋没深度は、青島相で3600 m、宮崎相と妻相で1400–1600 mである。宮崎相と妻相の埋没深度は、層序から期待される値とほとんど一致した。したがって、青島相は宮崎層群の深部に由来し、宮崎層群南部が局所的に隆起することでこれらが地表に露出したことが明らかになった。
宮崎層群南部の古応力を復元するため、青島相において76条の小断層を観察し、応力逆解析を実施した。小断層のうち、25条について断層方位・滑り方向・滑りセンスが確認できた。そのほか滑り方向が不明なデータを51条取得した。解析はHough変換による応力逆解法 [1]を用いた。解析の結果、青島相全域において、ほぼ鉛直方向のσ1軸とNW–SE方向のσ3軸が検出された。宮崎層群北部においてもE–WからNW–SE方向のσ3軸が報告されていることから [2]、これは宮崎層群全域に共通すると考えられる。一方で、青島相と宮崎相の境界付近では、上記の応力方向に加えてNE–SW方向のσ3軸が検出された。境界付近の宮崎相においても同様のσ3軸が報告されていることから [2]、この応力方向は青島相と宮崎相の境界に固有のものである可能性が高い。
この境界付近の特異な古応力は、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。宮崎層群全域に見られる古応力は、海溝に直行したσ3軸であり、プレート沈み込みやスラブロールバックに起因すると考えられている [2]。一方で、境界付近で検出された古応力は、σ2軸が九州―パラオ海嶺の沈み込み方向と並行であり、この地域へ海山が沈み込むことによってσ2軸の方向が局所的に変化したことを示唆する。
青島相の局所的な隆起は、南九州地域の反時計回り回転運動と、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。約200万年前、宮崎層群を含む南九州地域は、約30°の反時計回り回転運動を経験した [3]。この際、南九州地域は3つのブロックに分かれて回転し、その境界の1つが宮崎相と青島相の境界に一致する。したがって、青島相は他相と異なるブロック上で独立して運動したと考えられる。また九州―パラオ海嶺は、宮崎層群堆積途中の5 Ma頃に宮崎沖で沈み込み始め、現在は宮崎層群の直下に沈み込んでいる。青島相の局所的な隆起は、海山沈み込みとそれに伴う海山の局所的なアンダープレートによって引き起こされたと解釈できる。
宮崎層群の局所的な隆起とそれに付随する断層運動は、海嶺沈み込みの痕跡を記録している可能性がある。
参考文献
[1] Yamaji+, Journal of Structural Geology 28, 980-990, 2006.
[2] Yamaji, Tectonophysics 364, 9-24, 2003.
[3] Kodama+, Geology 9, 823-826, 1995.