日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質

[1oral601-11] G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質

2023年9月17日(日) 09:00 〜 12:15 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:松崎 賢史(東京大学)、佐藤 大介(産業技術総合研究所)、野田 篤(産業技術総合研究所)、常盤 哲也(信州大学)

09:00 〜 09:15

[G1-O-1] 沖縄トラフ北部陸棚斜面における広域炭酸塩岩の分布の可能性

*青木 智1、南 宏樹1、川村 紀子2、齋藤 京太1、川上 友希1 (1. 海上保安庁、2. 海上保安大学校)

キーワード:沖縄トラフ、メタン湧水、炭酸塩岩

海洋底のメタン湧水に起源をもつ炭酸塩岩は, 多くの大陸縁辺海域でその存在が報告されており[1][2], 海洋底付近における酸化還元環境や生態系等へ影響を与える特異的な場として知られている. 海上保安庁海洋情報部の測量船を用いた沖縄トラフ北部陸棚斜面における地形調査等の結果からは凹凸地形の分布が確認され, 木下式グラブ採泥器による調査では, 陸棚斜面付近の4地点において, 砕屑性粒子を多く含むクラスト状の炭酸塩岩が採取された. これらの内部には明瞭なチャネル構造と, それを埋める炭酸塩のマトリックスが観察された. また, 炭素及び酸素の安定同位体比質量分析の結果, 低いδ13C安定同位体比と高いδ18O安定同位体比が得られた. この結果は, 炭酸塩岩がメタン湧水によって形成されたことを示唆するものである. 炭酸塩岩を硝酸やフッ酸, 過塩素酸で溶解し, ICP-MSを用いて希土類元素の全岩分析を行った. その結果, 炭酸塩岩はC1コンドライトで規格化した希土類元素パターンについて, 軽希土類元素に富み, セリウム(Ce)のアノマリが見られず, 弱い負のユーロピウム(Eu)のアノマリが見られる傾向が確認された. この炭酸塩岩の希土類元素パターンは周辺で得られた堆積物の希土類元素パターンに類似しており, 炭酸塩岩に含まれる砕屑性粒子の寄与を反映していると考えられる. 一方で, 炭酸塩岩のイットリウム/ホルミウム比(Y/Ho)については炭酸塩岩中で堆積物に比べて有意に高い値を示しており, 炭酸塩岩の形成過程において海水からのYの濃縮があったことを示唆する. これらの結果は, 本研究で得られた炭酸塩岩が, 堆積物, メタン湧水及び海水の複合的な寄与により形成されたものである可能性を示している. さらに, 炭酸塩岩が採取された地点では共通して凹凸地形が発達していることが明らかになり, この凹凸地形は沖縄トラフ北部陸棚斜面に沿って南北約300 kmにわたって連続的に存在することから, 本海域では広域にわたって炭酸塩岩が分布していることを示唆している.

References: [1] Ge et al. (2010) Marine Geology 277, 21-30. [2] Skarke et al. (2014) Nature Geoscience, 7(9), 657-661.