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[G1-O-7] 房総半島鮮新統清澄層のタービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩の堆積学的・有機地球化学的特徴
キーワード:タービダイトマッド、半遠洋性泥岩、浮泥、堆積過程、バイオマーカー
深海底で形成される陸源成の泥質堆積物は,イベント的に発生した混濁流によって形成されるタービダイトマッドと,ゆっくりとより定常的に形成される半遠洋性泥に識別されることが知られている.従来,タービダイトマッドは混濁流が最も低濃度の状態で形成されると理解されてきたが,近年,タービダイトマッドの形成においては,その一部は高濃度泥質流体から行われるという解釈(Talling et al., 2012; Stevenson et al., 2014)が提案されており,その堆積プロセスに関しては未解決の部分が残されている.本研究では,これまでの研究により,タービダイトマッドと半遠洋性泥岩が露頭観察で識別されている房総半島中央部の三浦層群鮮新統清澄層を対象に,タービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩の堆積学的(粒度分析,XRDによる鉱物組成)ならびに有機地球化学的(バイオマーカー分析)解析を行い,タービダイトマッドの堆積プロセスについて検討した.
検討対象の層準は,清澄層上部のテフラ鍵層Ky26-1–3間の半遠洋性泥岩と,それに挟在される3枚のタービダイト砂岩に付随するタービダイトマッドである.タービダイトマッドは,粒径や累重関係から,(1)Tdを覆い,一部にラミナを伴う砂質シルト岩は粗粒タービダイトマッド,(2)粗粒タービダイトマッドと半遠洋性泥岩の間に挟在される塊状シルト岩は細粒タービダイトマッドと便宜的に区分される(加瀬ほか,2013).本研究は,この区分に従い,3層準の粗粒タービダイトマッドを下位から順にTc1–Tc3,Tc1–Tc3を覆う細粒タービダイトマッドをそれぞれTf1–Tf3,Tf1–Tf3直上の半遠洋性泥岩をそれぞれHm1–Hm3と識別した.
粒度分析の結果,粗粒タービダイトマッドは級化層理を示し,半遠洋性泥岩と比べて淘汰が良い.細粒タービダイトマッドは半遠洋性泥岩よりも細粒な傾向を示す.一方,半遠洋性泥岩内の平均粒径は一定では無く,ばらつく傾向を示す.
XRD分析の結果,粗粒・細粒タービダイトマッドならびに半遠洋性泥岩を構成する主な粘土鉱物として,スメクタイト,イライト,カオリナイトが認められる.またTc1,Tf1,Hm1の粘土鉱物の重量比を比較した結果,大きな相違は認められない.
バイオマーカー分析の結果,(1)奇数炭素優位性CPI(5.8–9.5)やC30 Hopane異性体比(0.6–0.8)は,全体的に高い値を示すこと,(2)C27 Stanol/Stenol比は,細粒タービダイトマッド(1.7–2.7)が粗粒タービダイトマッド(0.6–0.9)や半遠洋性泥岩(1.1–2.2)と比較して顕著に高い値でピークを示すこと,(3)C27/C27+C29比は,粗粒・細粒タービダイトマッドが半遠洋性泥岩よりもやや低い傾向を示すこと,(4)Alkanolは,Tc1–Hm1およびTc2–Hm2では類似した値を示すが,Tc3はTf3–Hm3と比較して顕著に高い値を示していることが明らかとなった.
CPIやC30 Hopaneの熟成度指標は,いずれも未成熟であることを示すことから,バイオマーカーの相違に続成作用の影響は強く反映されていないことが示唆される.C27 Stanol/Stenol比の結果は,細粒タービダイトマッドが粗粒タービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩と比較して,より還元的な堆積場で形成されたことを示し,より大きい堆積速度での形成が解釈される.C27/C27+C29比およびAlkanolでは,粗粒・細粒タービダイトマッドが,半遠洋性泥岩と比較して,木片や陸上植物由来ワックスを多く含むことで特徴づけられることから,陸源細粒砕屑粒子からの堆積を強く反映していると解釈される.
塊状な細粒タービダイトマッドは,混濁流の後流により細粒な砕屑粒子が濃集し,粗粒タービダイトマッドを堆積させた流体よりも高濃度になることで,急速な堆積作用で形成されたと解釈される.細粒タービダイトマッド中には粘土粒子の粒状構造(Aggregate of clay particles: ACP; Kase et al., 2016)が認められ,ACPはfluid mud(>10 g/L)を特徴づけるFace-to-Face aggregate(Nishida et al., 2013)に類似することから,細粒タービダイトマッドの形成においては,混濁流からの最終的な堆積過程でfluid mudと同程度の泥質流体の形成が行われた可能性が考えられる.
文献
加瀬ほか,2013,堆積研;Kase et al., 2016, Sedimentology; Nishida et al., 2013, Mar. Geol.; Stevenson et al., 2014, Sedimentology; Talling et al., 2012, Sedimentology.
検討対象の層準は,清澄層上部のテフラ鍵層Ky26-1–3間の半遠洋性泥岩と,それに挟在される3枚のタービダイト砂岩に付随するタービダイトマッドである.タービダイトマッドは,粒径や累重関係から,(1)Tdを覆い,一部にラミナを伴う砂質シルト岩は粗粒タービダイトマッド,(2)粗粒タービダイトマッドと半遠洋性泥岩の間に挟在される塊状シルト岩は細粒タービダイトマッドと便宜的に区分される(加瀬ほか,2013).本研究は,この区分に従い,3層準の粗粒タービダイトマッドを下位から順にTc1–Tc3,Tc1–Tc3を覆う細粒タービダイトマッドをそれぞれTf1–Tf3,Tf1–Tf3直上の半遠洋性泥岩をそれぞれHm1–Hm3と識別した.
粒度分析の結果,粗粒タービダイトマッドは級化層理を示し,半遠洋性泥岩と比べて淘汰が良い.細粒タービダイトマッドは半遠洋性泥岩よりも細粒な傾向を示す.一方,半遠洋性泥岩内の平均粒径は一定では無く,ばらつく傾向を示す.
XRD分析の結果,粗粒・細粒タービダイトマッドならびに半遠洋性泥岩を構成する主な粘土鉱物として,スメクタイト,イライト,カオリナイトが認められる.またTc1,Tf1,Hm1の粘土鉱物の重量比を比較した結果,大きな相違は認められない.
バイオマーカー分析の結果,(1)奇数炭素優位性CPI(5.8–9.5)やC30 Hopane異性体比(0.6–0.8)は,全体的に高い値を示すこと,(2)C27 Stanol/Stenol比は,細粒タービダイトマッド(1.7–2.7)が粗粒タービダイトマッド(0.6–0.9)や半遠洋性泥岩(1.1–2.2)と比較して顕著に高い値でピークを示すこと,(3)C27/C27+C29比は,粗粒・細粒タービダイトマッドが半遠洋性泥岩よりもやや低い傾向を示すこと,(4)Alkanolは,Tc1–Hm1およびTc2–Hm2では類似した値を示すが,Tc3はTf3–Hm3と比較して顕著に高い値を示していることが明らかとなった.
CPIやC30 Hopaneの熟成度指標は,いずれも未成熟であることを示すことから,バイオマーカーの相違に続成作用の影響は強く反映されていないことが示唆される.C27 Stanol/Stenol比の結果は,細粒タービダイトマッドが粗粒タービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩と比較して,より還元的な堆積場で形成されたことを示し,より大きい堆積速度での形成が解釈される.C27/C27+C29比およびAlkanolでは,粗粒・細粒タービダイトマッドが,半遠洋性泥岩と比較して,木片や陸上植物由来ワックスを多く含むことで特徴づけられることから,陸源細粒砕屑粒子からの堆積を強く反映していると解釈される.
塊状な細粒タービダイトマッドは,混濁流の後流により細粒な砕屑粒子が濃集し,粗粒タービダイトマッドを堆積させた流体よりも高濃度になることで,急速な堆積作用で形成されたと解釈される.細粒タービダイトマッド中には粘土粒子の粒状構造(Aggregate of clay particles: ACP; Kase et al., 2016)が認められ,ACPはfluid mud(>10 g/L)を特徴づけるFace-to-Face aggregate(Nishida et al., 2013)に類似することから,細粒タービダイトマッドの形成においては,混濁流からの最終的な堆積過程でfluid mudと同程度の泥質流体の形成が行われた可能性が考えられる.
文献
加瀬ほか,2013,堆積研;Kase et al., 2016, Sedimentology; Nishida et al., 2013, Mar. Geol.; Stevenson et al., 2014, Sedimentology; Talling et al., 2012, Sedimentology.