10:45 〜 11:00
[T3-O-4] 大学,民間企業,自治体,ジオパークの連携によって再出現した巨大スランプ露頭
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:ジオパークにおいて“地質遺産”の保全は最重要課題だが,地権者の理解や維持・管理の持続的な手法確立,一般市民への普及教育など課題は多い.立山黒部ジオパークでは,新たに見出されたスランプ構造がみられる大露頭を大学,民間企業,自治体,ジオパークの連携によって調査・整備し,一般公開を開始した.その経緯と成果,課題を議論する.※ハイライトとは
キーワード:ジオパーク、ジオサイト、連携、スランプ
立山黒部ジオパーク(以後,立黒)は,『高低差4000 mロマン 富山の中の地球へ行こう』をテーマにした,富山県東部の9市町村にまたがるジオパークである.日本海から北アルプスまで,43のジオサイト,40の文化サイト,28の自然サイトを有しているが,地形的特徴からジオサイトがなかなか見学に行けない山岳地帯に多い感は否めない.そのため市街地から近く,児童生徒の学習にも使え,手軽に見学できるジオサイトの開拓が望まれていた.
今回,富山県中新川郡立山町の中心部から車で15分程の稲村にある産廃場跡地を整備したところ,スランプ構造の全容が観察できる大露頭(南北約80 m,東西約70 m,高さ約30 mの範囲に内向き斜面の崖が「凡」字形に配列している)が出現し,それを一般公開することができた.ここに至るまでの主な経緯は,
2000年頃:最初の地権者により採土場として掘削を開始.
’05年:新上市町誌(新上市町誌編集委員会編,2005)に「折戸凝灰岩層,海底火山灰の堆積した緑色凝灰岩の地層」として,スランプ構造の写真が掲載される.
’05-’10年?:現地権者が瓦の粉砕施設をつくり,稼働するも程なく中止.産廃場に使うがこれも中止.以後,遊休地.
’21年2月:立黒のジオパーク再認定決定.審査員から身近なジオサイトの開発を望まれる.
5月:立黒研究教育部会で予備調査を行い,巨大なスランプ構造が灌木と崖錐堆積物にかなり被覆されているものの,ジオサイトになりうると判断.
6月:地権者に立ち入りの許可を得ると同時に,町役場にジオサイト化に向けて協力を要請.
11月:役場担当から,露頭の学術的評価が欲しいとの要請で,立黒が保柳に現地調査を依頼.保柳から情報を得た荒戸,立黒学術顧問竹内章富山大学名誉教授も加わり現地調査.地元紙が露頭を写真入りで報道.
’22年1月:荒戸がボーリングコア採取の許可を得たい旨.地権者との交渉をジオパークに依頼.同時に,荒戸が代表を務める『海底地すべりモデルの構築:日高沖「静内海底地すべり堆積体」の発生機構と運動様式』(科研費番号 19H02397)の研究チームに,当該露頭の調査研究を提案.立黒が地権者にボーリングコア採取を説明.許可を得る.
4月:勉強会を実施し,崖錐堆積物を取り除けば,スランプの構造を立体的に研究できる大露頭が出現する可能性が議論される.
5月:町民向け現地説明会の実施と地元紙,ケーブルテレビの報道.
6月:現地調査を実施し,重機を使って整備工事を行い,研究を進めることを確認.これを受けて,立黒が地権者に調査方法を説明,実施の承諾を得る.
7月:町役場に露頭整備にあたる業者の紹介を依頼し,それに基づき見積もりを徴取.
8月:露頭の整備,調査,整備後の立黒の利用に関して,地権者,荒戸が所属する秋田大学,立黒で覚書を締結.
9月:整備工事開始し,十日程で終了.その後,予備調査.ステップ設置,底面のトレンチの工事を追加で依頼.
10月:チームでの調査.地元小学5・6年生全員が見学.
11月:チームでの調査.分析用試料の採取.説明看板の内容の検討を開始.下旬にステップの撤去とトレンチの埋め戻し.
12月:ワークショップの開催.解説看板の土台の設置.
’23年4月:解説看板,安全ポールコーンの設置.同時に立入禁止の柵を撤去し,一般公開の開始.
5月:立黒ジオガイド向け現地研修会の開催.
調査は継続中.
露頭の調査開始から一般公開まで極めて順調であったは要因は,
・科研費の一部を露頭整備に使用し,そのまま見学対象となった.
・地権者との交渉や町役場と現場周辺住民への説明,調査前後の整備及び撤収作業の立ち合いは立黒が担当.
・露頭が県道のすぐ脇にあり,駐車スペースも十分で,大型重機による作業が可能.
・露頭整備を請け負った業者が現場から車で15分の距離で,高所作業車,発電機,排水ポンプ,高圧洗浄機など急な要望にも対応.
・地権者との覚書の締結で,現場の大規模な改変が可能となる.
一方,残る問題点は,
・すでに泥岩部が剥離し始めており,何もしなければ10数年で整備前の状態に戻ると思われるが,保全する費用の目処が立っていない.
・以前の施設の残骸を撤去しきれていない.
ジオサイトにはその保全が求められるので,この露頭をジオサイトとして維持するためには,上記問題点の解消が必要である.
謝辞:同地での調査と一般公開を快諾くださった英修興産有限会社と,調査作業諸事にご協力頂いた有限会社きんたに心より感謝申し上げます.
文献:新上市町誌編集委員会編,2005,新上市町誌.上市町,921p.
今回,富山県中新川郡立山町の中心部から車で15分程の稲村にある産廃場跡地を整備したところ,スランプ構造の全容が観察できる大露頭(南北約80 m,東西約70 m,高さ約30 mの範囲に内向き斜面の崖が「凡」字形に配列している)が出現し,それを一般公開することができた.ここに至るまでの主な経緯は,
2000年頃:最初の地権者により採土場として掘削を開始.
’05年:新上市町誌(新上市町誌編集委員会編,2005)に「折戸凝灰岩層,海底火山灰の堆積した緑色凝灰岩の地層」として,スランプ構造の写真が掲載される.
’05-’10年?:現地権者が瓦の粉砕施設をつくり,稼働するも程なく中止.産廃場に使うがこれも中止.以後,遊休地.
’21年2月:立黒のジオパーク再認定決定.審査員から身近なジオサイトの開発を望まれる.
5月:立黒研究教育部会で予備調査を行い,巨大なスランプ構造が灌木と崖錐堆積物にかなり被覆されているものの,ジオサイトになりうると判断.
6月:地権者に立ち入りの許可を得ると同時に,町役場にジオサイト化に向けて協力を要請.
11月:役場担当から,露頭の学術的評価が欲しいとの要請で,立黒が保柳に現地調査を依頼.保柳から情報を得た荒戸,立黒学術顧問竹内章富山大学名誉教授も加わり現地調査.地元紙が露頭を写真入りで報道.
’22年1月:荒戸がボーリングコア採取の許可を得たい旨.地権者との交渉をジオパークに依頼.同時に,荒戸が代表を務める『海底地すべりモデルの構築:日高沖「静内海底地すべり堆積体」の発生機構と運動様式』(科研費番号 19H02397)の研究チームに,当該露頭の調査研究を提案.立黒が地権者にボーリングコア採取を説明.許可を得る.
4月:勉強会を実施し,崖錐堆積物を取り除けば,スランプの構造を立体的に研究できる大露頭が出現する可能性が議論される.
5月:町民向け現地説明会の実施と地元紙,ケーブルテレビの報道.
6月:現地調査を実施し,重機を使って整備工事を行い,研究を進めることを確認.これを受けて,立黒が地権者に調査方法を説明,実施の承諾を得る.
7月:町役場に露頭整備にあたる業者の紹介を依頼し,それに基づき見積もりを徴取.
8月:露頭の整備,調査,整備後の立黒の利用に関して,地権者,荒戸が所属する秋田大学,立黒で覚書を締結.
9月:整備工事開始し,十日程で終了.その後,予備調査.ステップ設置,底面のトレンチの工事を追加で依頼.
10月:チームでの調査.地元小学5・6年生全員が見学.
11月:チームでの調査.分析用試料の採取.説明看板の内容の検討を開始.下旬にステップの撤去とトレンチの埋め戻し.
12月:ワークショップの開催.解説看板の土台の設置.
’23年4月:解説看板,安全ポールコーンの設置.同時に立入禁止の柵を撤去し,一般公開の開始.
5月:立黒ジオガイド向け現地研修会の開催.
調査は継続中.
露頭の調査開始から一般公開まで極めて順調であったは要因は,
・科研費の一部を露頭整備に使用し,そのまま見学対象となった.
・地権者との交渉や町役場と現場周辺住民への説明,調査前後の整備及び撤収作業の立ち合いは立黒が担当.
・露頭が県道のすぐ脇にあり,駐車スペースも十分で,大型重機による作業が可能.
・露頭整備を請け負った業者が現場から車で15分の距離で,高所作業車,発電機,排水ポンプ,高圧洗浄機など急な要望にも対応.
・地権者との覚書の締結で,現場の大規模な改変が可能となる.
一方,残る問題点は,
・すでに泥岩部が剥離し始めており,何もしなければ10数年で整備前の状態に戻ると思われるが,保全する費用の目処が立っていない.
・以前の施設の残骸を撤去しきれていない.
ジオサイトにはその保全が求められるので,この露頭をジオサイトとして維持するためには,上記問題点の解消が必要である.
謝辞:同地での調査と一般公開を快諾くださった英修興産有限会社と,調査作業諸事にご協力頂いた有限会社きんたに心より感謝申し上げます.
文献:新上市町誌編集委員会編,2005,新上市町誌.上市町,921p.