[T1-P-2] Talc formation and shear concentration in subduction mélanges
Keywords:Metasomatism, Shear zone, Serpentinite mélange, Subduction zone
沈み込みプレート境界は、地殻およびマントルの岩石の混合場であり、構造性メランジュで覆われていると考えられる(Bebout & Penniston-Dorland, 2016)。メランジュを構成する岩石の物性は、プレート境界の変形やすべり現象に直接的な影響を与える。特に滑石などの力学的に弱い鉱物の形成は、岩石の剪断強度を著しく低下させるため、地震やスロー地震の発生との関連が注目されている(Moore & Lockner, 2007; Spandler et al., 2008; Tarling et al., 2019; Hirauchi et al., 2020; Hoover et al., 2022など)。本研究は、神居古潭変成帯および西彼杵変成帯の蛇紋岩-交代岩メランジュにおける滑石形成と剪断集中を記載する。
神居古潭変成帯の常盤山メランジュは、蛇紋岩や泥質岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で200–350℃、0.4–1.0 GPa、緑簾石青色片岩ブロックで360–480℃、0.8–0.85 GPaと見積もられている(榊原ほか, 2007; Takeshita et al., 2023)。蛇紋岩マトリックスには局所的に滑石片岩の剪断帯が発達し、塊状蛇紋岩→スケーリーファブリックを持つ蛇紋岩→滑石岩→滑石片岩という、岩相と変形の発達段階を読み取れる。スケーリーファブリックのすべり面は微細な滑石脈で特徴づけられることから、蛇紋岩の剪断変形に伴う交代作用が滑石脈を形成し、滑石脈がすべりを担うことで剪断変形の集中が生じたと考えられる。
西彼杵変成岩類の三重メランジュおよび西樫山メランジュは、主にアクチノ閃石片岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で440–520℃、1.3–1.4 GPa、ヒスイ輝石岩ブロックで>400℃、>1.3 GPaと見積もられている(Shigeno et al., 2005; 森部, 2013; Mori et al., 2019)。アクチノ閃石片岩マトリックスは、全体が剪断帯になっており蛇紋岩や滑石片岩のレンズを含む。全岩化学組成解析は、アクチノ閃石片岩が滑石化した蛇紋岩と苦鉄質変成岩の混合物を原岩とした交代岩であることを示唆する。
神居古潭変成帯と西彼杵変成帯のメランジュでは、交代作用を受けたマトリックスに剪断変形が集中している。剪断帯には滑石が介在しており、すべりや岩石混合の促進に重要な役割を果たしたと考えられる。蛇紋岩の滑石化は、固相体積減少と脱水(=流体体積増加)を伴う。この流体体積増加は固相体積減少より大きいため、滑石化は間隙水圧を上昇させる傾向にある。このことも岩石強度の低下につながり、滑石自体の力学的な弱さとともに剪断の集中と促進に寄与した可能性がある。
文献
Bebout, G.E., Penniston-Dorland, S.C. (2016). Lithos240–243:228–258.
Hirauchi, K. et al. (2020). Earth Planet Sci Lett 531: 115967.
Hoover, W.F. et al. (2022). Geophys Res Lett 49:e2022GL101083.
Moore, D.E., Lockner, D.A. (2007). Int Geol Rev 49:401–415.
Mori, Y. et al. (2019). Jour Mineral Petrol Sci, 114, 170–177.
森部陽介 (2013). 熊本大学修士論文, 199 P.
榊原正幸ほか (2007). 地質学雑誌 113 補遺, 103–118.
Shigeno, M. et al. (2005). Jour MineralPetrol Sci, 100:237–246.
Spandler, C. et al. (2008). Contrib Mineral Petrol 155:181–198.
Takeshita, T. et al. (2023). Jour Metamorph Geol 41: 787–816.
Tarling, M.S. et al. (2019). Nature Geosci 12:1034–1042.
神居古潭変成帯の常盤山メランジュは、蛇紋岩や泥質岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で200–350℃、0.4–1.0 GPa、緑簾石青色片岩ブロックで360–480℃、0.8–0.85 GPaと見積もられている(榊原ほか, 2007; Takeshita et al., 2023)。蛇紋岩マトリックスには局所的に滑石片岩の剪断帯が発達し、塊状蛇紋岩→スケーリーファブリックを持つ蛇紋岩→滑石岩→滑石片岩という、岩相と変形の発達段階を読み取れる。スケーリーファブリックのすべり面は微細な滑石脈で特徴づけられることから、蛇紋岩の剪断変形に伴う交代作用が滑石脈を形成し、滑石脈がすべりを担うことで剪断変形の集中が生じたと考えられる。
西彼杵変成岩類の三重メランジュおよび西樫山メランジュは、主にアクチノ閃石片岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で440–520℃、1.3–1.4 GPa、ヒスイ輝石岩ブロックで>400℃、>1.3 GPaと見積もられている(Shigeno et al., 2005; 森部, 2013; Mori et al., 2019)。アクチノ閃石片岩マトリックスは、全体が剪断帯になっており蛇紋岩や滑石片岩のレンズを含む。全岩化学組成解析は、アクチノ閃石片岩が滑石化した蛇紋岩と苦鉄質変成岩の混合物を原岩とした交代岩であることを示唆する。
神居古潭変成帯と西彼杵変成帯のメランジュでは、交代作用を受けたマトリックスに剪断変形が集中している。剪断帯には滑石が介在しており、すべりや岩石混合の促進に重要な役割を果たしたと考えられる。蛇紋岩の滑石化は、固相体積減少と脱水(=流体体積増加)を伴う。この流体体積増加は固相体積減少より大きいため、滑石化は間隙水圧を上昇させる傾向にある。このことも岩石強度の低下につながり、滑石自体の力学的な弱さとともに剪断の集中と促進に寄与した可能性がある。
文献
Bebout, G.E., Penniston-Dorland, S.C. (2016). Lithos240–243:228–258.
Hirauchi, K. et al. (2020). Earth Planet Sci Lett 531: 115967.
Hoover, W.F. et al. (2022). Geophys Res Lett 49:e2022GL101083.
Moore, D.E., Lockner, D.A. (2007). Int Geol Rev 49:401–415.
Mori, Y. et al. (2019). Jour Mineral Petrol Sci, 114, 170–177.
森部陽介 (2013). 熊本大学修士論文, 199 P.
榊原正幸ほか (2007). 地質学雑誌 113 補遺, 103–118.
Shigeno, M. et al. (2005). Jour MineralPetrol Sci, 100:237–246.
Spandler, C. et al. (2008). Contrib Mineral Petrol 155:181–198.
Takeshita, T. et al. (2023). Jour Metamorph Geol 41: 787–816.
Tarling, M.S. et al. (2019). Nature Geosci 12:1034–1042.