[T1-P-6] (エントリー)五島列島,中通島地域に分布する花崗岩とそれに伴う苦鉄質岩の全岩化学組成
キーワード:五島列島、花崗岩、希土類元素
長崎県五島列島は日本列島の背弧域南西部に位置する。その地質は主に新第三紀中新世の中期-前期にできた五島層群堆積岩類,中期にできた凝灰岩,五島花崗岩類,流紋岩,第四紀完新世-更新世にできた玄武岩で構成されている。1)このうち,五島花崗岩類は福江島,久賀島,若松島,中通島に分布する。五島花崗岩類は花崗閃緑岩,花崗閃緑斑岩,文象斑岩の3種類からなる。五島列島と対馬の火成岩類の放射年代はおよそ15 Maと報告されており,これは大陸から日本列島が分離し日本海が形成された年代とほぼ同時期である。2) 3) また花崗岩体中に存在する有色鉱物から構成される苦鉄質岩は,堆積岩や変成岩から影響を受けた外来的な捕獲岩とする説,あるいは花崗岩の活動に先立って起こった塩基性火成活動に由来する噴出岩や輝緑岩が花崗岩の影響を受けたものとする説,花崗岩と同じ由来のもので花崗岩マグマの初期結晶作用の濃集物とする説,融点の低い花崗岩マグマ中に融点の高い塩基性マグマが入り,急冷周縁部を持つ溶岩が生じ苦鉄質岩を形成する説など様々な起源が提唱4)されており,苦鉄質岩の形成は花崗岩体の形成に深くかかわっていると考えられている。また,対馬には五島列島と同時期の花崗岩類が分布している。Shin(2009)5)によれば対馬で確認された中期中新世の花崗岩類には,優白色花崗岩と灰色花崗岩がある。優白色花崗岩はEM(エンリッチマントル)Ⅰ型マグマに由来する苦鉄質マグマが下部地殻に注入にしたことよる部分溶融で生じた珪長質マグマ起源であり,灰色花崗岩はこの珪長質マグマが地殻上部の上昇してきた苦鉄質マグマと混ざり合い形成されたものである。また,これらのマグマの形成は日本海の膨張に伴い地殻が薄くなったことと高温マントル物質の上昇に起因することが示唆された。本研究では,五島列島のなかでも詳細な研究が行われていない中通島北部,立串・矢堅目崎地域における花崗岩体とそれに伴う苦鉄質岩について全岩化学組成を分析するとともにその成因を考察した。中通島は五島列島北部に位置しており,五島層群に属する青砂ヶ浦層と,飯ノ瀬戸層,堆積岩や閃緑岩に貫入した五島花崗岩類が分布する。6)中通島から花崗岩とそれに伴う苦鉄質岩の主成分,微量成分元素ならびに希土類元素組成について蛍光X線分析装置及び誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定した。SiO₂の含有量は花崗岩が(65.3-73.8wt%),苦鉄質岩が(58-64.5wt%)で,花崗岩,苦鉄質岩ともにSiO₂の含有量の増加に伴いFe₂O₃,TiO₂の含有量は減少した。また,苦鉄質岩のみSiO₂含有量の増加に伴いMgOの含有量が減少した。また花崗岩,苦鉄質岩ともにAl₂O₃/(CaO+Na₂O+K₂O)比は0.84-1.13と低く,メタアルミナスからややパーアルミナスな組成を示す。微量成分元素は花崗岩,苦鉄質岩ともにSiO₂の増加に伴いTh,Zrの含有量が増加した。また,苦鉄質岩のみSiO₂の増加に伴いYの含有量が増加した。対馬の優白色花崗岩ではその他の西南日本外帯と比較してBa含有量が高く,Pbの含有量が低いという特徴的な傾向を示した。5)中通島の花崗岩のBa,Pbの含有量について同様に比較したところ,Baに関してはその他の西南日本外帯と類似した傾向を示したものの,Pbの含有量は平均16ppmと対馬の例と同様にその他の西南日本外帯の平均値(22-25ppm)より低い値を示した。希土類元素の存在度パターンはほとんどの花崗岩,苦鉄質岩がLREEに富み,小さな負のEu異常を示す。La/Yb比は花崗岩が1.9-5.8であるのに対し,苦鉄質岩は2.9-6.4と少し高かったものの,対馬の灰色花崗岩のような幅広い範囲(3.0-12.7)は示さなかった5)。 1) 河田清雄, 鎌田泰彦, 松井和典, 地域地質報告5万分の1地質図幅鹿児島 1994, 6p. 2) Ishikawa, N.; Tagami, T. J. Geomag. Geoelectr. 1991, 43, 229–253. 3)Ishikawa, N.; Torii, M.; Koga, K. J. Geomag. Geoelectr. 1989, 41, 797–811. 4) 田結庄良昭,岩石鉱物学会誌 1984, 79, 133. 5) Shin, K.-C.; Kurosawa, M.; Anma, R.; Nakano, T. Resource Geology. 2009, 59, 25–50. 6)松井和典,今井功,片田正人,地質調査所月報 1961, 67(790), 35-37.