日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

[1poster01-16] T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

2023年9月17日(日) 13:30 〜 15:00 T1_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T1-P-9] 高効率ピークフィッティングパッケージEMpeaksRの地質学分野への展開

*松村 太郎次郎1、中村 佳博1、宮崎 一博1 (1. 国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:スペクトル解析、ハイスループット解析手法、EMアルゴリズム、R言語

重なり合ったスペクトルの特徴から,化学的・物理的な情報を抽出する営みは,長年にわたって,材料科学や地球科学など,広範な分野で利用されてきた.しかし,既存の非線形最小二乗法に基づいた手法では,初期値の敏感さなどに起因する作業の煩雑さから,効率的な解析作業が困難である.加えて,バックグラウンド除去,ピーク本数の決定,といった事前処理も必要であるため,数百本を超えるスペクトルデータの解析には途方も無い作業コストが必要になってしまう.したがって,近年は分光装置の高性能化に呼応するかたちで,作業コストを軽減し,効率的な解析を可能とする新たなスペクトル解析手法への期待が高まっている.

本発表では,高効率なピークフィッティング手法の一つであるSpectrum adapted EM algorithmが実装されたパッケージであるEMpeaksRを紹介し,地質学分野への展開として,岩石中の炭質物結晶から大量に得られた炭質物ラマンスペクトルデータの解析事例を報告する.Spectrum adapted EM algorithm は材料科学分野においてX線光電子分光分析によって得られた大量のスペクトルデータを効率的に解析する手法として,Matsumura et al. (2019)で提案された手法である.この手法はEM algorithmを基本とすることによって収束が保証されているため,既存手法よりも解析作業の自動化に適している.また,シンプルなアルゴリズムであるが故の拡張性にも優れており,一般化されたEM algorithmの一つであるECM algorithmを用いた多様なフィッティングモデルの導入(Matsumura et al. 2021)や,バックグラウンドモデルとの同時最適化(Matsumura et al. 2023)も可能である.上記のMatsumura et al. (2019, 2021, 2023)で提案されたスペクトル解析手法をR言語上で利用できるパッケージが”EMpeaksR”である.EMpeaksRは簡単なコマンド入力によってSpectrum adapted EM algorithmによる効率的なピークフィッティングが実行できる.Spectrum adapted EM algorithmを用いた地質学分野におけるスペクトル解析の展開として,Nakamura et al. (2019)で報告された炭質物のラマンスペクトルデータへの適用事例を紹介しながら,EMpeaksRの導入および,利用手順について解説する.これに加えて,将来的な機能拡張の方向性や,ユーザーインターフェース改善案についても話題提供を行う.

引用文献:
Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2019). Spectrum adapted expectation-maximization algorithm for high-throughput peak shift analysis. Science and Technology of Advanced Materials, 20(1), 733-745.

Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2021). Spectrum adapted expectation-conditional maximization algorithm for extending high–throughput peak separation method in XPS analysis. Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 1(1), 45-55.

Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2023). High-throughput XPS spectrum modeling with autonomous background subtraction for 3 d 5/2 peak mapping of SnS. Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 3(1), 2159753.

Nakamura, Y., Hara, H., & Kagi, H. (2019). Natural and experimental structural evolution of dispersed organic matter in mudstones: The Shimanto accretionary complex, southwest Japan. Island Arc, 28(5), e12318.