[T1-P-16] (エントリー)根尾谷断層最新すべり面及びその近傍における方解石の形成過程
キーワード:根尾谷断層、鉱物充填、方解石
活断層での鉱物充填過程を知るためには、活動直後ではなく活動からある程度時間が経過した断層を対象とすることが望ましい.根尾谷断層は1891年の濃尾地震を引き起こしてから132年が経過しており,鉱物充填過程を調べるのにふさわしいと考えられる.
根尾谷断層では2019年に原子力規制庁によりNDFP-1とNDFD-1の2本のボーリング掘削が行われた.これらのボーリングコアには,濃尾地震の際に変位を生じた最新すべり面が含まれており,地下における最新すべり面を観察・分析することができる.矢田部ほか(2021)は根尾谷断層最新すべり面の断層ガウジにおいてX線CT観察,粉末X線回折分析,および蛍光X線分析を行い,断層活動により最新すべり面で密度低下が起こり,その後時間経過とともに方解石が析出し密度回復が行われると考察した.しかしながら,最新すべり面の断層ガウジ中における方解石の産状は確認されておらず,方解石の形成が断層活動に伴うものか明確にはされていない.そこで本研究は,最新すべり面を含む断層ガウジをより細かなスケールで観察することで,方解石の産状を観察し,その形成過程を解明することを目的とする.
NDFP-1とNDFD-1は濃尾地震の際に根尾谷断層に沿って6 mの縦ずれ変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥で掘削された.NDFP-1の掘削長は140.3 mであり,掘削深度110.8 mで最新すべり面を貫通する.NDFD-1の掘削長は524.8 mであり,掘削深度387.7 mで最新すべり面を貫通する.掘削の方向は南西であり,水平面上では両者は断層にほぼ垂直に交わる.掘削地付近の地質はジュラ紀付加体である美濃帯であり,泥岩基質メランジュ,砂岩泥岩互層,石灰岩,チャート,玄武岩が主に分布している.
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて最新すべり面内及びその周辺の断層ガウジに含まれる方解石の産状を観察し,エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により元素マッピングを行った.その結果,Caは最新すべり面内ではフラグメント状に分布するのに対し,最新すべり面近傍では脈状に分布することが認められた.BSE像にて最新すべり面内の方解石のフラグメントを観察すると,その形状は亜円形であり,自形性を有していない.また,最新すべり面近傍でCaが脈状に観察された領域においてBSE像による観察とSEM-EDXによる元素マッピングを行った結果,方解石が脈状に観察された領域の中心部には自形性を有しない方解石が存在し,その周りに基質と自形からやや自形性を有する細粒な方解石が存在することが明らかとなった.
最新すべり面内の方解石のフラグメントが亜円形であることは,断層活動により方解石の破砕が繰り返されたことを示唆している.最新すべり面近傍の細粒な方解石の周囲が断層ガウジであるにもかかわらずこの方解石が自形からやや自形性を有することは,この方解石が断層活動時に断層ガウジに生じた亀裂に新たに晶出したものであることを示唆している.最新すべり面近傍の自形性を有しない方解石は,この方解石が細粒な方解石より古い時代に晶出したことを示唆している.
亀裂での方解石の形成過程は,断層活動によりCaを豊富に含む地下水が供給され亀裂に細粒な自形性を有する方解石として晶出した,などが推定される.
根尾水鳥の断層岩の断層活動開始時の深度について考察すると,これまでの断層活動が断層ジョグの内側を6 m隆起させた濃尾地震と同様であると仮定すれば,最新すべり面近傍で自形からやや自形性を有する方解石が認められたのは断層ジョグの外側であることから,この地点においては断層による鉛直方向の移動はないものと見なすことができる.また中田ほか(2018)から,根尾水鳥における河川の下刻は根尾市場・根尾長嶺の上位段丘面と河床面の高低差から60~100 m,あるいは根尾川沿いの山の尾根と河床面の高低差から920 mと推定されることから,断層ジョグの外側の断層岩は現在より地表面から数百m程度深い地点に存在していたことが推定される.よって,広域応力場による隆起沈降を除外すれば,この地点における断層活動開始後の方解石の充填は現在とほぼ同程度の深度で行われた可能性がある.
以上より,根尾谷断層の最新すべり面を伴う断層ガウジ中では濃尾地震後に方解石の充填は行われていない可能性が高い.また,最新すべり面近傍の断層ガウジでは濃尾地震より前の断層活動で生じた亀裂への方解石の充填が,現在とほぼ同程度の深度で行われたと考えられる.
原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書.
矢田部ほか(2021)日本地質学会学術大会講演要旨集.
中田ほか(2018)1:25,000活断層図「谷汲」 国土地理院.
根尾谷断層では2019年に原子力規制庁によりNDFP-1とNDFD-1の2本のボーリング掘削が行われた.これらのボーリングコアには,濃尾地震の際に変位を生じた最新すべり面が含まれており,地下における最新すべり面を観察・分析することができる.矢田部ほか(2021)は根尾谷断層最新すべり面の断層ガウジにおいてX線CT観察,粉末X線回折分析,および蛍光X線分析を行い,断層活動により最新すべり面で密度低下が起こり,その後時間経過とともに方解石が析出し密度回復が行われると考察した.しかしながら,最新すべり面の断層ガウジ中における方解石の産状は確認されておらず,方解石の形成が断層活動に伴うものか明確にはされていない.そこで本研究は,最新すべり面を含む断層ガウジをより細かなスケールで観察することで,方解石の産状を観察し,その形成過程を解明することを目的とする.
NDFP-1とNDFD-1は濃尾地震の際に根尾谷断層に沿って6 mの縦ずれ変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥で掘削された.NDFP-1の掘削長は140.3 mであり,掘削深度110.8 mで最新すべり面を貫通する.NDFD-1の掘削長は524.8 mであり,掘削深度387.7 mで最新すべり面を貫通する.掘削の方向は南西であり,水平面上では両者は断層にほぼ垂直に交わる.掘削地付近の地質はジュラ紀付加体である美濃帯であり,泥岩基質メランジュ,砂岩泥岩互層,石灰岩,チャート,玄武岩が主に分布している.
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて最新すべり面内及びその周辺の断層ガウジに含まれる方解石の産状を観察し,エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により元素マッピングを行った.その結果,Caは最新すべり面内ではフラグメント状に分布するのに対し,最新すべり面近傍では脈状に分布することが認められた.BSE像にて最新すべり面内の方解石のフラグメントを観察すると,その形状は亜円形であり,自形性を有していない.また,最新すべり面近傍でCaが脈状に観察された領域においてBSE像による観察とSEM-EDXによる元素マッピングを行った結果,方解石が脈状に観察された領域の中心部には自形性を有しない方解石が存在し,その周りに基質と自形からやや自形性を有する細粒な方解石が存在することが明らかとなった.
最新すべり面内の方解石のフラグメントが亜円形であることは,断層活動により方解石の破砕が繰り返されたことを示唆している.最新すべり面近傍の細粒な方解石の周囲が断層ガウジであるにもかかわらずこの方解石が自形からやや自形性を有することは,この方解石が断層活動時に断層ガウジに生じた亀裂に新たに晶出したものであることを示唆している.最新すべり面近傍の自形性を有しない方解石は,この方解石が細粒な方解石より古い時代に晶出したことを示唆している.
亀裂での方解石の形成過程は,断層活動によりCaを豊富に含む地下水が供給され亀裂に細粒な自形性を有する方解石として晶出した,などが推定される.
根尾水鳥の断層岩の断層活動開始時の深度について考察すると,これまでの断層活動が断層ジョグの内側を6 m隆起させた濃尾地震と同様であると仮定すれば,最新すべり面近傍で自形からやや自形性を有する方解石が認められたのは断層ジョグの外側であることから,この地点においては断層による鉛直方向の移動はないものと見なすことができる.また中田ほか(2018)から,根尾水鳥における河川の下刻は根尾市場・根尾長嶺の上位段丘面と河床面の高低差から60~100 m,あるいは根尾川沿いの山の尾根と河床面の高低差から920 mと推定されることから,断層ジョグの外側の断層岩は現在より地表面から数百m程度深い地点に存在していたことが推定される.よって,広域応力場による隆起沈降を除外すれば,この地点における断層活動開始後の方解石の充填は現在とほぼ同程度の深度で行われた可能性がある.
以上より,根尾谷断層の最新すべり面を伴う断層ガウジ中では濃尾地震後に方解石の充填は行われていない可能性が高い.また,最新すべり面近傍の断層ガウジでは濃尾地震より前の断層活動で生じた亀裂への方解石の充填が,現在とほぼ同程度の深度で行われたと考えられる.
原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書.
矢田部ほか(2021)日本地質学会学術大会講演要旨集.
中田ほか(2018)1:25,000活断層図「谷汲」 国土地理院.