[T8-P-1] 異方性岩石中の岩脈群と古応力の方向の検討:四国中央部,三波川変成岩中の中新統高岩流紋岩の例
キーワード:応力解析、中新世、造構応力、貫入岩
貫入岩の方向からそれらの定置時の古応力を推定する手法は岩脈法と呼ばれる(山路,2012).近年の岩脈法では,貫入面の極の集中方向が古応力の最小圧縮主応力軸に近しいものとみなされる.これは,法線応力の小さい面ほど貫入面として選択されやすいという考えによる.しかし,母岩に強い異方性が存在する場合には貫入方向はそれに支配される場合があり(Gudmundsson, 2020),岩脈法の適用には注意を要する.本研究では,異方性の強い岩石を母岩とする岩脈群と古応力の方向の関係について,フィールドデータを基に検討した高岩流紋岩の岩脈の研究例を紹介する.
高岩流紋岩は,四国中央部に位置する中期中新世の珪長質火成岩体で,主岩体とその周辺部のENE-WSW走向の岩脈群からなる(沢村ほか,1964; 梅原ほか,1991).母岩は,三波川変成作用を被り片理の発達した千枚岩や片岩類で,ENE-WSW方向を軸とするアンチフォームをなす(脇田ほか,2007).高岩流紋岩の岩脈群の方向は,かつて西南日本の広域応力場の研究で参照された(小林, 1979).しかし,その走向が母岩の三波川変成岩類の構造と調和的であることから,この岩脈群をアンチフォームの軸部の引張割れ目に貫入したものとした研究例(沢村ほか,1964)や,母岩中の構造線に貫入したものとみなした例(石井ほか,1957)もあり,本岩脈群と母岩との関係や当時の応力場については再検討が必要であった.そこで我々は高岩流紋岩の岩脈について,分布や貫入姿勢と母岩の構造との関係の精査を行い,岩脈の方向の規制者や古応力状態について検討した.
調査の結果,37枚の貫入岩において母岩との境界構造を観察できた.貫入岩は母岩の地質図規模の褶曲の軸部だけでなく翼部にも認められ,褶曲構造に無関係に貫入していることが明らかとなった.また,母岩の層構造に完全に調和的な貫入岩(岩床)と断層に貫入した貫入岩はそれぞれ1枚ずつで,残りの35枚は母岩の面構造や岩脈定置前の断層を切って貫入していた.これらの結果から本岩脈群の姿勢は母岩の構造(片理面・褶曲構造・断層)に規制されたものではないと判断される.測定した岩脈群の方向に混合ビンガム分布法(Yamaji and Sato, 2011)を適用し,NNW-SSE方向の引張応力を得た.
瀬戸内や四国および紀伊半島中央部には,高岩流紋岩の岩脈群の他にも中期中新世の平行性の良い岩脈群が存在し,それらはみな島弧に平行な方向を持つ(例えば,楠橋・山路,2001;Tatsumi et al., 2001).本研究の結果は,これらの岩脈群の方向が西南日本の地帯構造に規制されたものではなく,島弧直交方向の引張応力場によるものであることを示唆する.
<引用文献>
石井ほか,1957, 地質雑,63, 449‒454. 沢村ほか,1964,高知大学研報,13, 1‒13. 小林,1979,火山第2集,24, 203‒212. 梅原ほか,1991, 岩鉱,86, 299‒304. 楠橋・山路,2001,地質雑,107, 26‒40. Tatsumi et al., 2001, Geophys. J. Int., 144, 625‒631. 脇田ほか,2007,5万分の1地質図幅「伊野」. Yamaji and Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148‒1157. 山路,2012,地質雑,118, 335‒350. Gudmundsson, 2020, Volcanotectonics, Cambridge University Press. 586p.
高岩流紋岩は,四国中央部に位置する中期中新世の珪長質火成岩体で,主岩体とその周辺部のENE-WSW走向の岩脈群からなる(沢村ほか,1964; 梅原ほか,1991).母岩は,三波川変成作用を被り片理の発達した千枚岩や片岩類で,ENE-WSW方向を軸とするアンチフォームをなす(脇田ほか,2007).高岩流紋岩の岩脈群の方向は,かつて西南日本の広域応力場の研究で参照された(小林, 1979).しかし,その走向が母岩の三波川変成岩類の構造と調和的であることから,この岩脈群をアンチフォームの軸部の引張割れ目に貫入したものとした研究例(沢村ほか,1964)や,母岩中の構造線に貫入したものとみなした例(石井ほか,1957)もあり,本岩脈群と母岩との関係や当時の応力場については再検討が必要であった.そこで我々は高岩流紋岩の岩脈について,分布や貫入姿勢と母岩の構造との関係の精査を行い,岩脈の方向の規制者や古応力状態について検討した.
調査の結果,37枚の貫入岩において母岩との境界構造を観察できた.貫入岩は母岩の地質図規模の褶曲の軸部だけでなく翼部にも認められ,褶曲構造に無関係に貫入していることが明らかとなった.また,母岩の層構造に完全に調和的な貫入岩(岩床)と断層に貫入した貫入岩はそれぞれ1枚ずつで,残りの35枚は母岩の面構造や岩脈定置前の断層を切って貫入していた.これらの結果から本岩脈群の姿勢は母岩の構造(片理面・褶曲構造・断層)に規制されたものではないと判断される.測定した岩脈群の方向に混合ビンガム分布法(Yamaji and Sato, 2011)を適用し,NNW-SSE方向の引張応力を得た.
瀬戸内や四国および紀伊半島中央部には,高岩流紋岩の岩脈群の他にも中期中新世の平行性の良い岩脈群が存在し,それらはみな島弧に平行な方向を持つ(例えば,楠橋・山路,2001;Tatsumi et al., 2001).本研究の結果は,これらの岩脈群の方向が西南日本の地帯構造に規制されたものではなく,島弧直交方向の引張応力場によるものであることを示唆する.
<引用文献>
石井ほか,1957, 地質雑,63, 449‒454. 沢村ほか,1964,高知大学研報,13, 1‒13. 小林,1979,火山第2集,24, 203‒212. 梅原ほか,1991, 岩鉱,86, 299‒304. 楠橋・山路,2001,地質雑,107, 26‒40. Tatsumi et al., 2001, Geophys. J. Int., 144, 625‒631. 脇田ほか,2007,5万分の1地質図幅「伊野」. Yamaji and Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148‒1157. 山路,2012,地質雑,118, 335‒350. Gudmundsson, 2020, Volcanotectonics, Cambridge University Press. 586p.