[T8-P-2] 応力逆解析における小断層解析法と岩脈法のフォワードモデルの比較
キーワード:応力逆解析、フォワードモデル、小断層解析、岩脈
露頭規模の地質構造の逆解析によって古応力を求める手法として,小断層解析法と岩脈法が広く普及している.両手法は最近半世紀の間に大きく発展し,決定できるパラメタが増えたり,複数の応力を検出できるようになってきた.逆解析手法にはフォワードモデルが必要だが,現在主流となっている手法のフォワードモデルは,小断層と岩脈とで大きく異なっており,それぞれに利点と欠点がある.
小断層解析で用いられるフォワードモデルは,Wallace-Bott仮説(Wallace, 1951; Bott, 1959)である.これは断層の滑り方向が剪断応力と平行であると仮定するもので,構造地質学だけでなく地震学の分野でも広く用いられている.Wallace-Bott仮説の利点は,断層面の方位に関して何ら仮定を設けないことである.これにより,既存の断層の再活動や,岩体中の弱面を利用した活動した断層の解析が可能になっている.なお,その対極にあるのがより古くから用いられている共役断層法である.共役断層法では主応力軸と断層面の成す角が一定であることを期待するので,無傷の岩体に新規に発生した断層しか解析できない.一方で,Wallace-Bott仮説には欠点もある.断層面の方位だけでは応力を何ら制約することができないので,応力の決定精度が低い,摩擦係数を決定できない,複数の応力を検出しようとするときに応力数を決定できないといったことである.
岩脈法では,平板状の岩脈の貫入面に直交する方向に引張応力がはたらいたと考えるのが基本である.それならば最小圧縮主応力(σ3)軸に直交する平行岩脈群のみが形成されるはずだが,実際の岩脈群の方位はばらつく.そこで,引張破壊による岩脈の形成だけでなく,既存の割れ目が開くことも想定して,法線応力から流体圧を差し引いた有効応力が負であれば岩脈が形成されると仮定(Delaney et al., 1986)することで,岩脈群の方位のばらつきが説明される.このフォワードモデルを用いることで,3つの主応力軸と応力比の決定が可能になった.また,σ3軸に直交する方位に近いほど岩脈の頻度が増えると考え,岩脈面の方位分布がBingham分布などの確率分布モデルで近似できるという仮定も用いられる.このモデルを混合確率分布モデルに発展させ,情報量規準を用いることで,複数の応力の自動検出が可能になった.なお,小断層解析の場合も複数の応力の検出は可能だが,断層面の方位分布をモデル化しないために情報量規準を利用できず,応力数を自動決定できない.一方で,岩脈法にも欠点がある.既存の弱面を利用した岩脈はあって良いが,貫入前の弱面の方位分布に偏りがあってはならないという制限がある.例えば堆積岩体の層理面は,方位分布に著しい偏りのある典型的な弱面だが,それを利用して貫入した岩床の頻度が多いことと,逆断層型応力のもとで水平な岩床が多数形成されたこととの区別は難しい.
以上のように,小断層解析法と岩脈法のフォワードモデルには根本的な違いがあり,それぞれに利点と欠点がある.フォワードモデルはあくまで仮定であるので,その仮定が適用する対象において妥当であるかどうか,検証しながら利用する必要がある.一方,各手法でこれまでとは異なるフォワードモデルを用いることで(それが適用対象において妥当であるならば),より高い精度で応力を決定したり,複数の応力の分離に成功できる可能性がある.例えば,小断層解析において断層面の方位分布に何らかの仮定を設けられるならば,応力数や摩擦係数の決定が可能になるだろう.また,岩脈形成時の変位(開き)方向を観測できるならば,応力の決定精度を向上や,流体圧の見積もりが可能になる可能性がある.
Delaney, P.T., Pollard, D.D., Ziony, J.I. and Mckee, E.H., Jour. Geophys. Res., 1986 , 91 , 4920-4938.
Wallace, R.E., Jour. Geol., 1951 , 59 , 118-130.
Bott, M., Geol. Mag., 1959 , 96 , 109-117.
小断層解析で用いられるフォワードモデルは,Wallace-Bott仮説(Wallace, 1951; Bott, 1959)である.これは断層の滑り方向が剪断応力と平行であると仮定するもので,構造地質学だけでなく地震学の分野でも広く用いられている.Wallace-Bott仮説の利点は,断層面の方位に関して何ら仮定を設けないことである.これにより,既存の断層の再活動や,岩体中の弱面を利用した活動した断層の解析が可能になっている.なお,その対極にあるのがより古くから用いられている共役断層法である.共役断層法では主応力軸と断層面の成す角が一定であることを期待するので,無傷の岩体に新規に発生した断層しか解析できない.一方で,Wallace-Bott仮説には欠点もある.断層面の方位だけでは応力を何ら制約することができないので,応力の決定精度が低い,摩擦係数を決定できない,複数の応力を検出しようとするときに応力数を決定できないといったことである.
岩脈法では,平板状の岩脈の貫入面に直交する方向に引張応力がはたらいたと考えるのが基本である.それならば最小圧縮主応力(σ3)軸に直交する平行岩脈群のみが形成されるはずだが,実際の岩脈群の方位はばらつく.そこで,引張破壊による岩脈の形成だけでなく,既存の割れ目が開くことも想定して,法線応力から流体圧を差し引いた有効応力が負であれば岩脈が形成されると仮定(Delaney et al., 1986)することで,岩脈群の方位のばらつきが説明される.このフォワードモデルを用いることで,3つの主応力軸と応力比の決定が可能になった.また,σ3軸に直交する方位に近いほど岩脈の頻度が増えると考え,岩脈面の方位分布がBingham分布などの確率分布モデルで近似できるという仮定も用いられる.このモデルを混合確率分布モデルに発展させ,情報量規準を用いることで,複数の応力の自動検出が可能になった.なお,小断層解析の場合も複数の応力の検出は可能だが,断層面の方位分布をモデル化しないために情報量規準を利用できず,応力数を自動決定できない.一方で,岩脈法にも欠点がある.既存の弱面を利用した岩脈はあって良いが,貫入前の弱面の方位分布に偏りがあってはならないという制限がある.例えば堆積岩体の層理面は,方位分布に著しい偏りのある典型的な弱面だが,それを利用して貫入した岩床の頻度が多いことと,逆断層型応力のもとで水平な岩床が多数形成されたこととの区別は難しい.
以上のように,小断層解析法と岩脈法のフォワードモデルには根本的な違いがあり,それぞれに利点と欠点がある.フォワードモデルはあくまで仮定であるので,その仮定が適用する対象において妥当であるかどうか,検証しながら利用する必要がある.一方,各手法でこれまでとは異なるフォワードモデルを用いることで(それが適用対象において妥当であるならば),より高い精度で応力を決定したり,複数の応力の分離に成功できる可能性がある.例えば,小断層解析において断層面の方位分布に何らかの仮定を設けられるならば,応力数や摩擦係数の決定が可能になるだろう.また,岩脈形成時の変位(開き)方向を観測できるならば,応力の決定精度を向上や,流体圧の見積もりが可能になる可能性がある.
Delaney, P.T., Pollard, D.D., Ziony, J.I. and Mckee, E.H., Jour. Geophys. Res., 1986 , 91 , 4920-4938.
Wallace, R.E., Jour. Geol., 1951 , 59 , 118-130.
Bott, M., Geol. Mag., 1959 , 96 , 109-117.