日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T8[トピック]フィールドデータにおける応力逆解析総決算

[1poster28-37] T8[トピック]フィールドデータにおける応力逆解析総決算

2023年9月17日(日) 13:30 〜 15:00 T8_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T8-P-3] 応力逆解析の解にもとづく応力軌跡描画

*山路 敦1、本間 健一郎2、越谷 信3 (1. 京都大学、2. 岩手県庁、3. 岩手大学)

キーワード:応力場、岩脈、鉱脈、白亜紀、北部北上帯

応力軌跡図は、テクトニクス研究の基本的な材料である。現在の応力場であれば、多数地点での水平最大主応力ないし水平最小主応力の方向から、容易にそうした図を描くことができる。しかし、地質学的過去の応力場をあつかう場合は、次の理由でそれは必ずしも容易ではない。すなわち、一ヶ所でえられたデータセットから複数の応力がえられることがしばしばあるにもかかわらず、それらの応力が働いていた時代が不明確なことが多いということである。あつかう対象が断層であれ裂罅であれ方解石双晶であれ、いまやひとつのデータセットから複数の応力を検出する手法がある。隣り合う2地点それぞれで2つの応力が検出されたとすると、どの応力とどの応力を同時期のものとみなすか、それとも、同時期の応力はないと考えるべきか。古応力の軌跡描画では、応力解析で検出された応力達のグルーピングの問題が浮上するのである。
 そこで、北部北上帯北西部の大島造山期の岩脈と鉱脈から決定した古応力を材料として、上記の問題にたいする答えを提示する。上記の意味のグルーピングにどんな客観的基準を考えればよいかという問いに答えるheuristicな描画法である。
 応力インバージョンにより規格化応力テンソル(主軸の方向と応力比の情報のみをになう)がえられるので、似たテンソルを同時代のものとして応力軌跡線でむすぶというのが、われわれの基本方針である。このとき応力角距離(Yamaji & Sato, 2006)を規格化応力テンソル間の非類似度の使用として使う。すなわち、検出された規格化応力テンソルのすべての組み合わせで応力角距離を計算し、60°よりそれが小さければ同じ時代のものとみなす。この基準を満たすテンソルを紐付けると、応力解析の解のネットワークができる。紐を次々にたどってゆくと、はじめ異時階のものと考えてた解につながる不合理な結びつきも現れる。その場合は、応力角距離の小さい方を選ぶ。こうした手続きにより、与えられたデータセットから誰もが同じ応力軌跡図を描くことができる。
 北部北上帯のデータからは、3つの時期の軌跡図が描かれ、岩脈の切断関係からそのうち2つは新旧関係が定まった。大島造山期の火山弧のトレンドを基準に考えると、島弧と平行な引張りのあと、島弧と直交する引張りが働いたことがわかった。前者はおそらく、造山帯の重力崩壊をあらわすか、または、横ずれテクトニクスをあらわすものである。後者は火成活動末期のものである。
【文献】Yamaji & Sato (2006) Geophys. J. Int. 167, 933-942.