[T14-P-1] 先新第三紀付加体堆積岩類地に関する質環境特性データの拡充
キーワード:放射性廃棄物、地層処分、先新第三紀、付加体、堆積岩
1. はじめに
原子力発電環境整備機構(NUMO)は,高レベル放射性廃棄物等の安全な地層処分の実現に向け,これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合し,サイトを特定しない段階のセーフティケース(安全性を裏付ける論拠を取りまとめた文書)として包括的技術報告書1)を公表した。ここでは,サイト(調査の対象となる区域や処分場の建設地として選定される区域)の適性をどのように調査・評価して選定するか,そのサイトの特徴を考慮してどのように処分場を設計して安全に建設・操業・閉鎖を行うか,さらに閉鎖後の長期間にわたる安全性をどのように確保するかについて説明している。その中で,処分場の設計及び安全評価の観点から重要となる物質の閉じ込め,水みちの構造,力学強度等に着目してわが国の多様な地質環境の類型化を行い,わが国に広く分布している深成岩類(新第三紀以前),新第三紀堆積岩類,先新第三紀堆積岩類を対象に地質環境モデルを構築し,それに基づき設計した処分場に対する安全評価を行った。これらのうち,先新第三紀堆積岩類については,既存情報から取得できる品質が保証された地質環境特性データが限られていることが課題の一つとして挙げられた。そこで,包括的技術報告書の技術的信頼性の向上に向けて先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを取得・拡充することを目的として,東京電力リニューアブルパワー株式会社神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング試験及び地下水の採取・分析を実施した。
2. 実施内容
神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング孔(孔長25m,鉛直下向き,取得コア径92mm)を2孔掘削し,それを用いた物理検層(キャリパー,BTV,PS),流体検層,水理試験を実施した。また,取得したコア試料を用いて,コア観察,薄片観察,XRD,XRF,熱伝導率試験,比熱試験,密度試験,有効間隙率試験,超音波伝播速度試験,一軸圧縮試験,圧裂引張試験,三軸圧縮試験(CU,CD),透過拡散試験を実施した。さらに,地下トンネル内においては,全体的に湧水量が少なく顕著な湧水箇所は多くないものの,その中でも湧水が確認できた4箇所において地下水を採取し,水質分析(一般水質分析,同位体分析),有機物分析,コロイド分析を実施した。
3. 結果
当地点の岩相は,泥岩・凝灰質泥岩・細粒砂岩・中粒砂岩・チャート・石灰岩・凝灰岩の混在岩からなり,非常に緻密で堅固(真密度2.7g/cm3程度,有効間隙率1.3%程度)であった。また,岩盤の透水係数は,10-14m/sから10-11m/sオーダーであり,包括的技術報告書における先新第三紀堆積岩類の透水係数(統計値:中央値6.7×10-7m/s,対数平均値:4.7×10-7m/s)より4から7オーダー低く,室内透水試験の透水係数(統計値:中央値1.8×10-10m/s,対数平均値5.4×10-10m/s)に近い値が得られた。これは,流体検層等で顕著な水みちが認められなかったことと整合的である。なお,このように非常に透水性が低い岩盤であったため,ボーリング孔からは品質を確保した採水を実施することはできなかった。地下トンネル内の4箇所で採取した地下水の溶存成分に基づく水質タイプ及び同位体比に基づく滞留年代は,坑口に近い箇所ではCa-HCO3型で数十年程度未満を示し,坑口から数km奥の箇所ではNa-Cl型で少なくとも数万年程度以上のものが認められ,前者については天水,後者については堆積時の古海水(またはスラブ起源水)が,地下水の水質形成に寄与している可能性が示唆された。
4. おわりに
神流川発電所地下トンネルにおけるボーリング試験及び地下水の採取・分析を通じて,わが国の品質の保証された先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを拡充することができた。また,既存技術を組合せることにより,先新第三紀付加体堆積岩類の地質構造,熱環境,水理場,力学場,化学場を相互に関連付けて考察するためのデータを取得できることを確認した。以上の成果について,技術報告書2)に取りまとめ公表した。
文献
1) 原子力発電環境整備機構(2021):包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-本編および付属書,NUMO-TR-20-03.(https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/tr180203.html)
2) 横田ほか(2022): 先新第三紀付加体堆積岩類における地質環境特性データの取得,NUMO-TR-22-01. (https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/NUMO-TR-22-01.pdf)
原子力発電環境整備機構(NUMO)は,高レベル放射性廃棄物等の安全な地層処分の実現に向け,これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合し,サイトを特定しない段階のセーフティケース(安全性を裏付ける論拠を取りまとめた文書)として包括的技術報告書1)を公表した。ここでは,サイト(調査の対象となる区域や処分場の建設地として選定される区域)の適性をどのように調査・評価して選定するか,そのサイトの特徴を考慮してどのように処分場を設計して安全に建設・操業・閉鎖を行うか,さらに閉鎖後の長期間にわたる安全性をどのように確保するかについて説明している。その中で,処分場の設計及び安全評価の観点から重要となる物質の閉じ込め,水みちの構造,力学強度等に着目してわが国の多様な地質環境の類型化を行い,わが国に広く分布している深成岩類(新第三紀以前),新第三紀堆積岩類,先新第三紀堆積岩類を対象に地質環境モデルを構築し,それに基づき設計した処分場に対する安全評価を行った。これらのうち,先新第三紀堆積岩類については,既存情報から取得できる品質が保証された地質環境特性データが限られていることが課題の一つとして挙げられた。そこで,包括的技術報告書の技術的信頼性の向上に向けて先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを取得・拡充することを目的として,東京電力リニューアブルパワー株式会社神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング試験及び地下水の採取・分析を実施した。
2. 実施内容
神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング孔(孔長25m,鉛直下向き,取得コア径92mm)を2孔掘削し,それを用いた物理検層(キャリパー,BTV,PS),流体検層,水理試験を実施した。また,取得したコア試料を用いて,コア観察,薄片観察,XRD,XRF,熱伝導率試験,比熱試験,密度試験,有効間隙率試験,超音波伝播速度試験,一軸圧縮試験,圧裂引張試験,三軸圧縮試験(CU,CD),透過拡散試験を実施した。さらに,地下トンネル内においては,全体的に湧水量が少なく顕著な湧水箇所は多くないものの,その中でも湧水が確認できた4箇所において地下水を採取し,水質分析(一般水質分析,同位体分析),有機物分析,コロイド分析を実施した。
3. 結果
当地点の岩相は,泥岩・凝灰質泥岩・細粒砂岩・中粒砂岩・チャート・石灰岩・凝灰岩の混在岩からなり,非常に緻密で堅固(真密度2.7g/cm3程度,有効間隙率1.3%程度)であった。また,岩盤の透水係数は,10-14m/sから10-11m/sオーダーであり,包括的技術報告書における先新第三紀堆積岩類の透水係数(統計値:中央値6.7×10-7m/s,対数平均値:4.7×10-7m/s)より4から7オーダー低く,室内透水試験の透水係数(統計値:中央値1.8×10-10m/s,対数平均値5.4×10-10m/s)に近い値が得られた。これは,流体検層等で顕著な水みちが認められなかったことと整合的である。なお,このように非常に透水性が低い岩盤であったため,ボーリング孔からは品質を確保した採水を実施することはできなかった。地下トンネル内の4箇所で採取した地下水の溶存成分に基づく水質タイプ及び同位体比に基づく滞留年代は,坑口に近い箇所ではCa-HCO3型で数十年程度未満を示し,坑口から数km奥の箇所ではNa-Cl型で少なくとも数万年程度以上のものが認められ,前者については天水,後者については堆積時の古海水(またはスラブ起源水)が,地下水の水質形成に寄与している可能性が示唆された。
4. おわりに
神流川発電所地下トンネルにおけるボーリング試験及び地下水の採取・分析を通じて,わが国の品質の保証された先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを拡充することができた。また,既存技術を組合せることにより,先新第三紀付加体堆積岩類の地質構造,熱環境,水理場,力学場,化学場を相互に関連付けて考察するためのデータを取得できることを確認した。以上の成果について,技術報告書2)に取りまとめ公表した。
文献
1) 原子力発電環境整備機構(2021):包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-本編および付属書,NUMO-TR-20-03.(https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/tr180203.html)
2) 横田ほか(2022): 先新第三紀付加体堆積岩類における地質環境特性データの取得,NUMO-TR-22-01. (https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/NUMO-TR-22-01.pdf)