[G-P-6] X線CTによる礫形状の3次元測定
キーワード:河川礫、海浜礫、3次元形状、X線CT
河川礫や海浜礫などの砕屑物粒子の形状は,それらの堆積環境を知る上で重要な情報源であり.これまで視覚印象図を利用した定性的な検討や写真を使った2次元の画像解析による手法が主に用いられてきた(石渡ほか, 2019).本発表では,医療用CTを用いて,従来の手法では把握することが困難な粒子の実際の3次元形状を短期間且つ大量に取得する方法を検討し,実際に採取した河川礫及び海浜礫の形状測定及び比較を実施したので,その結果を報告する. 今回の測定には,静岡県・大井川沿いの5地点の河床から採取した河川礫と,その大井川から流出する河口及び河口より東側に位置する駿河海岸沿いの5地点から採取した海浜礫を用いた.地点毎に礫の大きさに偏りが生じないように,目開き75mmの篩を通り,且つ目開き19mmの篩を通らない礫(礫径としては中礫に相当)を240~270個選んで採取した.大井川の後背地である赤石山地は,白亜紀~中期中新世の付加体の四万十帯からなるが,採取された礫の種類としては砂岩や泥岩が大半を占め,それ以外に礫岩や頁岩,粘板岩が見られた.実験室に持ち帰った礫は,水道水で軽く洗浄し,礫表面に付着している泥や砂を除去した後に,一つ一つ礫を木箱に並べて数日間自然乾燥させた.礫試料のCT撮影には,東芝メディカルシステムズ社製医療用高精細CT装置 Aquilion Precisionを用いて行い,空間分解能0.25mmのCT画像を0.5mm間隔で撮影した.前述の撮影精度であれば,CT装置の撮影寝台上の横30cm縦90cmの範囲に置かれた試料を一回で撮影できるため,最大百数十個の礫形状データを一度に取得することが可能となっている.今回おこなった礫の測定数は計2400個にもなったが,CT撮影日数は2日と非常に短い期間で済ませることができた.撮影されたCT画像データ群から各礫粒子の3次元形状モデルを構築するための画像処理(礫固体部分とそれ以外の空気を区別する閾値による二値化処理や,礫内の実際の空隙やCT撮影時に生じてしまう偽像による穴空きを埋める処理や,画像内の画素同士の連結性とその連結部分の境界を求める輪郭追跡の解析,連結する画素同士を一つのグループと認識するためのラベリング処理など)や形状パラメータの取得は,ソフトウェアMATLABおよび同ソフトの Signal Processing Toolboxを用いて行った. 河川礫及び海浜礫の形状比較では,従来手法で形状指標としてよく用いられる扁平度や伸長度(ただし従来の2次元での求めた方とは異なり,実際の礫形状に近似させた回転楕円体の各軸の比より求めた)に加えて,3次元形状を計測できたことで計算可能となる球形度や凸包絡度(凹みの少なさ)について,本研究で取得した礫形状データをもとに算出した.すべてのパラメータで礫毎に値がかなりばらつくが,各地点での平均値でみると以下の傾向が見られた.扁平度は河川礫で0.62~0.66の値が得られている一方で,海浜礫では0.67以上の高い値が得られた.伸長度に関しても,海浜礫は河川礫に比べて0.01以上高い値を示した.ただし河川礫よりも低い扁平度や伸長度を示す海浜礫の地点も見られた.一方で礫の球形度と凸包絡度に関しては,河川の上流から下流に向かってそれぞれ0.81から0.84,0.91から0.94へ徐々に増加していき,さらに続いて海岸礫では,大井川河口からの距離に応じて球形度と凸包絡度がそれぞれ0.84から0.88,0.94から0.955と増加する傾向が見られた. 今回紹介した方法により,粒径や扁平度などの従来の形状指標に加えて,3次元形状データに基づいた球形度や凸包絡度などより多くの指標データについて,比較的短期間で数千粒子のデータを取得し,河川礫と海浜礫の形状を比較・検討することができた.このような良質で大量な形状データは,礫の堆積環境や運搬過程における破砕・摩耗作用を理解する上で欠かすことができない重要な情報となる. <参考文献> 石渡明・田上雅彦・谷尚幸・大橋守人・内藤浩行(2019)海岸礫は河川礫より円くて扁平である。日本地質学会News, 22(10), 6-7.