[G-P-26] 火山ガラスの化学組成に基づくテフラ対比への統計的アプローチ:PERMANOVAの適用
キーワード:テフラ対比、火山ガラス、化学組成、対数比解析、順列多変量分散分析
テフラ対比は,層序学的方法と岩石学的方法の総合的検討に基づいて行われ,後者の具体的な方法として,全鉱物組成分析,火山ガラスや鉱物の化学組成分析,屈折率測定などがある.このうち火山ガラスの化学組成データを用いる方法については,化学組成データの検査,変換,探索,検定という流れを経て,層位・層準や記載岩石学的特徴を交えて対比を行うという方法が提示されている(Lowe et al., 2017).ここで検査とは,外れ値や誤入力されたデータを削除・修正すること,変換とは,分析値を別の形に変換すること,探索とは,対比される可能性のあるテフラの組み合わせを抽出すること,検定とは,対比される可能性のあるテフラの火山ガラスの化学成分の多変量分布が等しいかどうかを検証することである.立石ほか(2023)は,北陸地方に分布する鮮新―更新統テフラを例に,この解析手順に含まれるいくつかの不明点(①変換において対数比解析を行うべきか,②解析において重視すべき化学成分は何か,③検定において推奨される方法は何か)について検討した.その結果,①②についてはある程度の結論が得られたが,③についての検討は十分とは言い難い.本研究では,複数地点で採取された姶良Tnテフラ(AT)と鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)の主成分化学組成を用いて,順列多変量分散分析法:PERMANOVA (Anderson, 2001)の有効性を検証した.PERMANOVAは,多変量データにおいて複数の群間に差があるかどうかを分析するための非パラメトリックな統計手法である.具体的には,群のラベルをランダムに置換したデータセットを繰り返し作成し,それぞれの距離行列から算出したF統計量の分布と,元の群の距離行列から得られるF統計量を比較し,群間に差がないという仮説が成り立つかどうかを決定する.結果はF統計量・R2値・p値で示され,F統計量とR2値が大きく,p値が小さい場合,仮説は棄却される.
ATは鹿児島県霧島市春山原・鹿児島県霧島市白蔵原シラス台地・富山県中新川郡立山町千垣で,K-Ahは鹿児島県姶良市蒲生・鹿児島県霧島市隼人町見次・鹿児島県指宿市岩本で採取された試料を用いた.これらの試料は,富山県のものを除いて,東京都立大学の「日本列島テフラ標準試料」よりご提供いただいた.火山ガラスの主成分化学組成分析は,富山大学のEPMA(JEOL: JXA-8230)を用いて行った.検査を通過した化学組成データ(50点以上)に対し,Rとそのライブラリpairwise.adonisを使用して総当りPERMANOVAを実行した.なお,化学組成データは対数比解析(alr:有心対数比変換,規格化成分:Al2O3)を適用した/しない2種類のデータセットを用意した.
総当りPERMANOVAの結果,対数比解析を施したデータセットでは,AT同士とK-Ah同士の場合のみ,群間に差がないと判断され,それ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.一方,対数比解析を適用しないデータセットでは,K-Ah同士は差がないと判断される結果となったが,AT同士を含むそれ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.以上から,火山ガラスの化学組成データを用いたテフラ対比における定量的な検定方法として,対数比解析とPERMANOVAが有効である可能性が示された.PERMANOVAは多変量正規分布を前提としないため,データの分布に依らず適用可能という点で大きな利点がある.今後,他のテフラでも同様の検討を進め,引き続きその有効性を検証していく.
引用文献:
Anderson, M.J. (2001) Austral Ecology, Vol. 26, No. 1, pp. 32-46.
Lowe et al. (2017) Quaternary Science Reviews, Vol. 175, pp. 1-44.
立石ほか(2023)日本地球惑星科学連合2023年大会,HQR03-P01.
ATは鹿児島県霧島市春山原・鹿児島県霧島市白蔵原シラス台地・富山県中新川郡立山町千垣で,K-Ahは鹿児島県姶良市蒲生・鹿児島県霧島市隼人町見次・鹿児島県指宿市岩本で採取された試料を用いた.これらの試料は,富山県のものを除いて,東京都立大学の「日本列島テフラ標準試料」よりご提供いただいた.火山ガラスの主成分化学組成分析は,富山大学のEPMA(JEOL: JXA-8230)を用いて行った.検査を通過した化学組成データ(50点以上)に対し,Rとそのライブラリpairwise.adonisを使用して総当りPERMANOVAを実行した.なお,化学組成データは対数比解析(alr:有心対数比変換,規格化成分:Al2O3)を適用した/しない2種類のデータセットを用意した.
総当りPERMANOVAの結果,対数比解析を施したデータセットでは,AT同士とK-Ah同士の場合のみ,群間に差がないと判断され,それ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.一方,対数比解析を適用しないデータセットでは,K-Ah同士は差がないと判断される結果となったが,AT同士を含むそれ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.以上から,火山ガラスの化学組成データを用いたテフラ対比における定量的な検定方法として,対数比解析とPERMANOVAが有効である可能性が示された.PERMANOVAは多変量正規分布を前提としないため,データの分布に依らず適用可能という点で大きな利点がある.今後,他のテフラでも同様の検討を進め,引き続きその有効性を検証していく.
引用文献:
Anderson, M.J. (2001) Austral Ecology, Vol. 26, No. 1, pp. 32-46.
Lowe et al. (2017) Quaternary Science Reviews, Vol. 175, pp. 1-44.
立石ほか(2023)日本地球惑星科学連合2023年大会,HQR03-P01.