日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

J1. ジュニアセッション

[1poster69-93] J1. ジュニアセッション

2023年9月17日(日) 13:30 〜 15:00 Jr._ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[J1-P-12] 温度記録計と簡易火山ガス希釈法による指宿火山群の火山ガス調査

★日本地質学会ジュニアセッション優秀賞★

*学校法人池田学園 池田中学・高等学校1 (1. 学校法人池田学園池田中学・高等学校)

研究者氏名:(地質気象班)松ヶ角優花,長瀬楽々,近森たお,角倉暖野,井上結友,吉井 由,鎌田美舞菜,陳 敏儀,河元千代乃,黒瀬こころ,土門里桜,上本竜也,川田代航汰

 我々は火山ガスの組成比や噴気温度を観測し,測定法の確立や他火山との比較を行い噴火の前兆を捉えたいと考えた。そこで研究フィールドに指宿火山群(湯峰権現噴気帯・スメ谷噴気帯・鰻池スメ広場噴気帯)(図1)を選び,観測を行った。
 時間分解能の高い噴気温度を観測するため,市販の室温記録計の温度センサーを取り外してガラス管で保護し,温度センサー部に延長ケーブルを取り付け,本体保護のため密閉容器にいれ,自動温度記録計「スメ度ん」(図2)を作成した。天ぷら油と熱電対温度計を用い校正実験を行ったところ,決定係数R2値がほぼ1となったことから使用可能と分かった(図3)。回収時には熱電対温度計で実測し補正する。
 火山ガス観測のため市販のガスセンサーの使用を考えたが,高温で多量の水蒸気が主成分の火山ガスの直接観測は想定されていないため冷却し,周囲の空気で希釈する方法を考えた。一昨年年度は希釈密閉容器を使用していたが,希釈空気の体積測定やガス検知管の併用が難しかったため,昨年度はポリエチレン袋を用いた希釈ポリ袋「KGロック」(図4)を作成した。これにより希釈空気の測定が安易になり,容器に火山ガスを入れるときや検知管で測定する際の体積変動を抑えられるようになった。火山ガスをシリンジで採取し湿布で冷却した後ガスセンサーと希釈空気を入れた「KGロック」に移し換算式を用い希釈前の火山ガス濃度を求める。測定する成分は岩崎らの経験則を参考にCO2・H2S・SO2とし,凝縮体積から水蒸気量を求めた。SO2の検知管はH2Sに感度があるため,検知管でH2Sを除去し測定する気象庁沢田の連結法を用いた。
 (図5)は2022年6月12日~10月29日までの10分おきのデータを示し,縦軸が温度,横軸が経過時間である。(図6)は指宿市のアメダスデータを示し,折れ線グラフが気温,棒グラフが降水量,横軸が経過時間である。この期間の噴気温度はほぼ100℃と一定で,気温や降水量による大きな変動はほとんどないとわかる。しかし火山ガスの噴気量が少ない際に外気の影響を受けたり,大量の降水があった際に噴気孔に土砂や水が入り大きく温度が低下したりすることがあった。火山ガスの体積変動から目分量で水蒸気体積(図7)を求めたところ3地点とも80~96%であり,標準偏差は3程度であることから変動は小さくほぼ一定であるとわかった。平均値をとったところCO2(図8)は10000ppm前後,H2S(図9)は300ppm程度とわかった。またCO2,H2Sともに鰻池スメ広場>スメ谷>湯峰権現の順で値が大きいことがわかった。検知管でSO2を測定(図10)したところ0.1ppm以下であり,捕集した際の凝結水にSO2が溶けている可能性を指摘され分析を行ったところ湯峰権現>スメ谷>鰻池スメ広場の順に値が大きかったため,凝結水にSO2が多く溶け込んでおり検知管の値は低く出ていると考えられる。これらの結果により指宿火山群の火山ガスの組成はH2O>>CO2>H2S>>SO2とわかった。先行研究の箱根火山(大涌谷)と指宿火山群を比較するため指宿火山群のCO2/H2S比を求めたところ(図11),指宿火山群のCO2/H2S比の値は1~20であったのに対し箱根火山は20~60の値であることから,指宿火山群は箱根火山に比べ比較的火山活動が活発ではない状態で安定しているとわかった。
 今後は「スメ度ん」の改良や,火山ガスの常時自動観測装置の作成に取り組み,将来の火山防災につながる基礎データの蓄積を行いたい。

キーワード:火山ガス・自動温度記録計・簡易希釈法・火山ガス組成比