130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics【EDI】

[2oral113-21] T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics

Mon. Sep 18, 2023 3:00 PM - 5:30 PM oral room 1 (4-11, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Tomoki Taguchi, Shunsuke ENDO(Shimane Univ.)

4:15 PM - 4:30 PM

[T2-O-13] (entry) Subduction plate interface shear stress distribution and its time evolution at deep slow earthquake depths: example from the Sanbagawa belt, Southwest Japan

*【ECS】Yukinojo KOYAMA1, Simon Richard WALLIS1, Takayoshi NAGAYA2, Mutsuki AOYA3 (1. Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, 2. Department of Environmental Science, Tokyo Gakugei University, 3. Graduate School of Science & Technology, Tokushima University)

Keywords:Quartz, Dynamic recrystallization, Stress, Subduction interface, Deep slow earthquakes

沈み込み帯のプレート境界部(沈み込み境界)にかかる応力は物質の変形をもたらし、地震や摩擦・剪断熱の発生を支配するため、地震現象や沈み込み帯熱進化のモデル構築において必須の情報である。なかでも最大剪断応力は物質の変形に最も大きく影響する要素であるが、その正確な推定は難しい。例えば、直接掘削では最大剪断応力を含む完全な応力場の情報を取得し得るが、取得可能範囲は最大でも深さ数㎞にとどまる。そのため、より深い領域では、脆性・延性変形による摩擦・剪断熱を変数としたモデル計算によって地殻熱流量の測定値を再現することでプレート境界面上の最大剪断応力推定が行われている。しかし地殻熱流量の測定は地殻流体や海底水温変動などに強く影響されるため、摩擦・剪断熱に起因する成分の正確な抽出は難しい。また測定地点数によっては十分な空間分解能が得られず、結果として沈み込み帯傾斜方向の推定応力値は最大で数倍も変化し得るうえに、沈み込み帯走向方向の応力分布は不明である。また上記手法で得られる応力は観測期間中の値であり、沈み込み帯の熱進化など、数千万年に及ぶ地質学的議論に応用するには時間スケールの乖離も問題となる。
 過去に沈み込み境界の直下を構成し、現在は地表に露出する岩体は、沈み込み境界での変形に関わる情報を長い時間をかけて保存する。また、沈み込み帯における位置関係がよく保存された岩体を用いることで、沈み込み境界の傾斜・走向方向ともに高い空間分解能で情報を取得することが可能である。本研究では岩体の変形記録を読み解くことで、沈み込み境界の応力分布の推定を試みた。
 西南日本に位置する三波川沈み込み型変成帯、汗見川流域を対象地域とし、傾斜方向の応力分布を推定した。三波川帯ではマントルウェッジ由来の蛇紋岩と海洋地殻由来の片岩が隣接し、過去の沈み込み境界が露出していると考えられる。主要な造岩・変形鉱物である石英の動的再結晶粒子に着目し、c軸の結晶方位分布を用いた石英開口角温度計により推定した変形温度と、先行研究による岩体の温度圧力履歴を比較することで、岩体の変形時期と変形深さを推定した。さらに変形温度と石英動的再結晶粒子の結晶粒径を応力計に代入し、岩体の受けた最大剪断応力を推定した。結果、粒径測定面や応力計の違いによる影響を含めても、平面応力場では、深さ17–27 kmの領域では最大剪断応力がいずれも16–41 MPaの範囲に収まり、深さによらず一定であることが示された。必要な歪量を考慮すると、石英動的再結晶粒子は最低でも数万年かけて形成されると考えられる。本研究結果は、より適切な時間スケールと高い空間分解能を持った情報として、沈み込み帯の熱進化モデリングへの境界条件を提供するものである。
 さらに本研究では、四国中央部三波川帯の広範囲にわたって同様の分析を行い、走向・傾斜方向の応力分布や、時間変化を検討中である。現在のところ、最高変成温度と岩体の変形温度の差が約100℃未満であれば、深さ17–27 kmの領域では15–40 MPa程度の、一定の最大剪断応力が示されている。これはピーク変成時から岩体上昇の初期にかけて、走向・傾斜方向ともに、沈み込み境界にかかる応力が一定であったことを示唆する。一方で、最高変成温度と岩体の変形温度の差がより大きいサンプルは、変形深さ条件が12-16 kmと浅く、最大剪断応力は30–65MPaと高い値を示すことも分かってきた。これは岩体の上昇が進むにつれて、岩石の大部分において変形が終了し、変形が局所化していたことを示唆する。
 三波川沈み込み帯の推定熱構造は、深部スロー地震が活発に生じる西南日本沈み込み帯の熱構造と類似しており、三波川沈み込み帯でもスロー地震が発生していた可能性が示唆される。また、本研究で用いた岩石試料の変形深さ17–27 kmは、三波川沈み込み帯においてはマントルウェッジ直上に相当し、これは典型的な深部スロー地震の発生領域である。さらに、深部スロー地震の発生に伴う応力変化は極めて小さく無視できる。従って本研究結果は、沈み込み帯熱進化モデリングのみならず、深部スロー地震発生時の最大剪断応力条件としても応用が期待される。