日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

[2oral201-10] T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

2023年9月18日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:白石 史人(広島大学)、足立 奈津子(大阪公立大学)

09:15 〜 09:30

[T6-O-2] 堆積環境の違いを反映した炭素同位体比の差異に基づく層序対比の新手法 -アブダビ沖セノマニアン階炭酸塩堆積物の事例-

*山本 和幸1、高柳 栄子2、アルジュネイビ マリアム3、アルファルファン ザハラ3、佐藤 時幸4、辻 喜弘1、井龍 康文2 (1. 株式会社INPEX、2. 東北大学、3. ADNOC Offshore、4. 秋田大学)

キーワード:炭素同位体比層序、炭酸塩プラットフォーム、クリノフォーム、セノマニアン、アラビアプレート

白亜紀セノマニアン期のアラビアプレート上には,浅海性炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地が形成され,炭酸塩堆積物が厚く堆積した.本研究の検討対象であるアラブ首長国連邦アブダビ沖に位置する油田では,30年以上の長い間,同堆積物よりなる貯留層から原油の生産が続けられている.しかしながら,同貯留層の岩相は極めて不均質であり,地震探査で認められる音響インピーダンス境界も不明瞭なため,その構造は不明確であった.そこで本研究では,同貯留層の構造を解明するために,炭酸塩堆積物の炭素同位体比層序を検討し,その解釈に際し新たな視点に基づく層序対比を試みた結果,良好な結果が得られたので報告する. 本研究で用いたコア試料は,炭酸塩プラットフォームから陸棚内堆積盆地までを網羅する6本の坑井より連続的に採取された.地球化学分析用試料は,大型の生砕物化石やセメント,スタイロライト,溶解シームを避けて採取した.全ての試料の鉱物組成および微量元素含有量(Sr,FeおよびMn)を求め,続成作用による同位体組成改変の有無を確認した.炭素同位体比は546試料を分析し,炭素同位体比層序を高解像度(約1 m間隔)で解析した.Sr同位体比は,全岩試料および保存状態が良好な厚歯二枚貝化石の殻試料から採取した204試料を分析し,堆積年代を求めた.また,炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地の炭酸塩堆積物と,それらの上位に塁重する海成頁岩から得られた計212試料の石灰質ナンノ化石生層序も併せて検討した. 炭素同位体比の分析結果を坑井間で比較すると,同位体比の平均値には坑井ごとの差異が認められたが,同位体比の時系列変化には陸棚内堆積盆地の1坑井を除く全ての坑井で明瞭な変動が認められなかった.この状況では,炭素同位体比の時系列変動パターンに基づく通常の層序対比を実施することは困難である. そこで,炭素同位体比の新しい層序対比手法を確立するために,アラビアプレート上のアプチアン階の炭素同位体比層序のデータを統合して考察した.アラビアプレート上では,セノマニアン期に形成された炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地と同様の堆積システムがアプチアン期においても形成された.アプチアン階の炭素層位体比層序は同時代の炭酸塩堆積物を貯留層とする多数の油田群において確立されている.その結果,アプチアン階の炭素同位体比は,全球規模の炭素循環システムが大きく変動した海洋無酸素事変に伴う明瞭な時系列変動パターンを示し,同一層準において,炭酸塩プラットフォームから陸棚内堆積盆地に向かって炭素同位体比が側方に減少する傾向が有意であることが分かった.これは,陸棚内堆積盆地に比べて炭酸塩プラットフォーム頂部における生物活動が活発であったため,後者周辺の海水から選択的に軽い炭素(12C)が取り除かれたことを反映していることに起因する. このアプチアン階の貯留層内で認められた同一層準における炭素同位体比の側方への変化が,セノマニアン階でも同様に生じたと考えて層序対比を試みた.その結果,炭酸塩プラットフォームと陸棚内堆積盆の構造が復元され,同堆積盆地の中心に向かって前進するクリノフォームの存在が明らかになった.このクリノフォームの解釈は,岩石コア試料の岩相や地震探査データの解釈とも矛盾しない.一方,炭酸塩プラットフォーム頂部からその前縁部に前進したクリノフォームに向かって炭素同位体比は漸増傾向がみられた.これは,クリノフォームの前進により陸棚内堆積盆地が徐々に小さくなり,外洋との海洋循環が弱まって閉鎖的になることで,有機炭素の埋没量が増加したためであると考えられる. このクリノフォームの前進を駆動した強制海退は,アラビアプレート東縁部でのオマーンオフィオライトのオブダクションに関連する構造隆起に起因すると考えられる.Sr同位体比層序ならびに石灰質ナンノ化石の生層序を複合的に検討した結果,この構造隆起により,チューロニアン階は全て欠如して大きなハイエイタスが形成されていることが判明した. 得られた全ての結果を統合的に解釈すると,炭酸塩プラットフォームは上方に塁重しながら成長した後,側方にクリノフォームが前進して陸棚内堆積盆地が埋積され,最終的に長期間陸上干出したことが示された.炭素同位体比の新しい層序対比手法の適用により,これまで長年不明なままであった貯留層の構造を解明することが出来た.炭素同位体比の時系列変動パターンに基づく通常の層序対比手法とは異なり,本研究で示された手法は,炭素同位体比が堆積環境によって異なる点を利用して層序対比を試みたものである.炭酸塩プラットフォームと陸棚内堆積盆地という同様の地質セッティングであれば,地域や時代が異なっていても,本研究の層序対比の手法は適用可能であると考えられる.