日本地質学会第130年学術大会

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T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

[2oral211-18] T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:30 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:三瓶 良和、山口 悠哉(石油資源開発㈱)

15:45 〜 16:00

[T6-O-14] 北海道根室層群の白亜紀/古第三紀境界堆積岩のバイオマーカー分析による古環境復元

*林 和生1、池田 雅志1、沢田 健1、林 圭一2、髙嶋 礼詩3、西 弘嗣4、黒田 潤一郎5、太田 映5 (1. 北海道大学理学院、2. 北海道立総合研究機構、3. 東北大学 総合博物館、4. 福井県立大学 恐竜学研究所、5. 東京大学 大気海洋研究所)

キーワード:K-Pg境界、バイオマーカー、根室層群

【はじめに】白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界)期は生物の大量絶滅がおきたことが広く知られている。これらはデカントラップや隕石衝突による気候変化や物理的な環境破壊によってもたらされており、とくに隕石衝突によるイリジウム(Ir)濃集層やさまざまな指標によってK/Pg境界は特徴づけられる。日本におけるK/Pg境界は北海道白糠丘陵の茂川流布にて報告されているが(Saito et al., 1986)、近年同地域においてK/Pg境界を挟んだ断層のない連続層序が新たに発見された。本研究ではこの連続層序から得られた堆積岩に含まれるバイオマーカーを分析し、当時の古環境復元を試みた。

【試料・分析手法】
北海道浦幌町川流布川の根室層群において2015~2016年、2021年に採集した白亜紀末-古第三系の泥岩試料を用いた。分析手法としては、粉末化した試料を有機溶媒で抽出し、シリカゲルにより分画し、それらをGC-MSで測定した。また本試料はn-アルカンの含有量が多く脂肪族画分の微量成分を同定しやすくするために尿素アダクト法を用いることにより直鎖化合物を除去した。

【結果・考察】酸化還元指標のプリスタン/フィタン比(Pr/Ph)は2.1~3.7であり酸化的環境を示した。一方、還元的環境で生成する炭素数35ホパンがすべての試料から検出された。プリスタンは陸上植物の寄与の指標とも考えられており[2]、堆積場は還元的環境だったと推測される。針葉樹植生指標であるHPP”は中程度から比較的高い値(0.50~0.91)を示し、裸子・被子植物由来テルペノイドを用いた指標(ar-AGI)から復元した被子/裸子植生比は境界期前後で減少する傾向を示した。またHPP”は2度の増加スパイク, ar-AGIは白亜紀層準内で3度の増加スパイクが見られ、これらの急激な増加を示す層準からは木材腐朽菌由来と考えられるペリレンも多量に検出されたため、陸域からの陸源物質の顕著な流入が起きたイベントが2度起きた可能性がある。また渦鞭毛藻由来の三芳香環ステロイドや珪藻由来のHBIアルカンも検出され、それらの変動は逆トレンドをとり、沿岸・浅海域の海洋表層において群集生態系・海洋基礎生産種の変化が起きたと推察した。


【参考文献】

Saito et al., (1986) Nature 323, 253-255.
Rontani et al., (2010) Geocheim. Cosmochim. Acta, 74, 252-263.