日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

[2oral211-18] T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:30 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:三瓶 良和、山口 悠哉(石油資源開発㈱)

16:30 〜 16:45

[T6-O-16] 北部北太平洋アラスカ沖における過去1000万年間の海洋基礎生産および陸源物質供給の変動

*星 恒太郎1、福村 朱美1、沢田 健1,2 (1. 北海道大学理学院自然史科学専攻、2. 北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:藻類バイオマーカー、IODP、基礎生産、陸原流入

[はじめに]中期中新世の約15Ma以降に生物源シリカの堆積場が大西洋から太平洋に移ったと考えられていて、シリカスイッチもしくはオパールシフトと呼ばれる(Cortese et al., 2004)。太平洋における新第三紀以降の海洋基礎生産の変動の解明は長時間スケールの炭素循環などを議論する上で重要である。本研究で対象とするアラスカ湾は北部北太平洋高緯度地域に位置しており、外洋域は高栄養塩低生産(HNLC)海域として知られているが、沿岸域は春季から夏季にかけて珪藻を主体とする藻類ブルームが発生する海域であることが報告されている(Addison et al., 2012)。珪藻は藻類の中でも特に鉄分やシリカをはじめとする栄養塩の要求量が多く、これらの供給源としての陸源物質の供給が議論されている(e.g., Hopwood et al., 2015)。本研究ではアラスカ湾の堆積物のバイオマーカー分析を行い、後期中新世以降における海洋基礎生産と陸源物質供給の年代変動の復元と、それらの関係性について検討する。
[試料と分析方法] 試料は、2013年の国際深海掘削計画(IODP) Exp. 341航海でアラスカ湾外洋部U1417サイト(56° 57.5’N, 147°6.5’W)から採取された深海掘削堆積物コアを用いた。堆積物コアは中新世から完新世までの年代であり、5つの岩相層序ユニットに区分され、Unit 1とUnit 5は各々さらに2つ、10の(サブ)ユニットに細分される。Unit 1は珪藻軟泥を含む泥層、Unit 5は生物源シリカ軟泥のユニットを挟む。また、前期更新世のUnit 3では氷河性の、中新世~鮮新世に堆積したUnit 5には非氷河性のダイアミクトが見られる暗灰色から緑灰色の泥から構成される。凍結乾燥処理した堆積物試料を有機溶媒で抽出した後に、シリカゲルカラムによって無極性〜極性成分に分画した。すべての極性画分をGC-MSおよびGC-FIDを用いてバイオマーカー分析を行った。
[結果と考察]U1417コアにおいてハプト藻起源の長鎖アルケノン、珪藻・真正眼点藻などに由来する長鎖アルキルジオール、珪藻起源の炭素数25(C25)高分枝鎖イソプレノイド(HBI)アルカン、渦鞭毛藻起源のDinosterolなど様々なステロイドが検出された。これら藻類バイオマーカーの濃度およびMass accumulation rate (MAR)から過去1000万年間の藻類ごとの海洋表層における基礎生産変動を復元した。一方で、U1417コアから植物由来テルペノイドや木材腐朽菌由来と考えられるペリレン、陸上植物由来ステロールなども検出され、陸源物質が有意に供給されていることを確認した。藻類および陸源バイオマーカーの濃度変動を比較・検討したところ、それらの変動はよく同調することがわかった。これは、陸源物質の供給と湾内における生産に関連性があり、陸源物質の供給が潜在的に生物生産を制御しているということを示唆すると考えられる。

引用文献
Addison et al. (2012) Paleoceanography, 27, PA1206.
Cortese et al. (2004) Earth and Planetary Science Letters, 224, 509-527.
Hopwood et al. (2015) Biogeochemistry, 124, 1-11