日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T12[トピック]地球史【EDI】

[2oral312-19] T12[トピック]地球史【EDI】

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:30 口頭第3会場 (4共30:吉田南4号館)

座長:冨松 由希(九州大学)、桑野 太輔(千葉大学)

15:45 〜 16:00

[T12-O-15] 北部ベトナム に分布する上部デボン系のケルワッサーイベント

*小松 俊文1、川島 大稀2、森 晃太郎3、児子 修司4、山田 敏弘5、グエン ダック フォン6、フン ザン ディン7 (1. 熊本大学先端科学研究部、2. (株)建設技術研究所、3. 熊本大学大学院自然科学研究科、4. 広島大学総合科学部、5. 北海道大学大学院理学研究院、6. ベトナム地質科学鉱物資源研究所、7. ベトナム国立自然博物館)

キーワード:後期デボン紀、ケルワッサー事変、コノドント、テンタキュリトイド、大量絶滅

北部ベトナムハーザン省の北部には,下部〜中部デボン系のシーファイ層と上部デボン系~石炭系のトックタット層が分布している.本研究の主な調査地域は,Komatsu et al. (2018)で報告されたシーファイ峠(Si Phai Pass)地域とマーピーレン(Ma Pi Len)地域,シャウホー(Seo Ho)地域で,調査対象であるトックタット層の下部は,マールと石灰岩の薄互層,層状石灰岩,石灰角礫岩からなり,マーピーレン地域やシャウホー地域では珪質石灰岩と石灰岩,頁岩,チャートからなるシーファイ層をトックタット層が整合に覆っている.
 本研究ではこれらの地域で地質調査を行い,コノドント生層序と安定炭素同位体比層序を明らかにした上で,フラニアン・ファメニアン境界(F-F境界)や5大大量絶滅の一つとして知られている上部・下部ケルワッサー事変層を特定することを研究の目的とした.
 これら3つの調査地域では,保存状態の良いコノドントやテンタキュリトイドが多産し,その他にオストラコーダや小型の腕足類などが産出した.シーファイ峠やシャウホー地域では,5属26種ほどのコノドント化石を同定して,国際的に用いられているPa. rhenana帯,Pa. linguiformis帯(フラニアン階最上部),Pa. triangularis帯(ファメニアン階最下部)を区分することができ,マーピーレン地域では,Pa. rhenana帯,Pa. linguiformis帯,Pa. delicatula帯を識別することができた.上部ケルワッサー事変に相当するフラニアン・ファメニアン境界は,Pa. linguiformis帯とPa. triangularis帯の境界あるいはPa. linguiformis帯とPa. delicatula帯の境界に相当する.なお,シャウホー地域では,Pa. rhenana帯を下部のPa. rhenana nasuta亜帯,上部のPa. rhenana rhenana亜帯の2つに,Pa. triangularis帯を下部のPa. triangularis亜帯と中部のPa. delicatula platys亜帯,上部のPa. minuta minuta亜帯の3つに区分する事ができた.
 ケルワッサー事変を含む層準では,安定炭素同位体比の顕著な正のシフトが報告されており,下部ケルワッサー事変はPa. rhenana帯の正のシフトと一致し,上部ケルワッサー事変はフラニアン・ファメニアン境界,すなわちPa. linguiformis帯とPa. triangularis帯の境界あるいはPa. linguiformis帯とPa. delicatula帯の境界で生じた正のシフトと一致する.これらの正のシフトは,シーファイ峠地域とマーピーレン地域で顕著であるが,シャウホー地域の下部ケルワッサー事変に相当する正のシフトは今後も検討する必要がある.
 ケルワッサー事変に伴って世界各地から報告されている黒色頁岩については,マーピーレン地域とシャウホー地域で確認されている.これらの黒色頁岩は,有機物に富み,平行葉理が発達しているが,層厚については地域差があり,シーファイ峠地域では有機物に富む黒色頁岩層を確認する事ができなかった.なお,シャウホー地域のPa. rhenana帯とこれよりも下位の層準では複数の黒色頁岩層が発達しており,ファルシオバリス事変などのイベントが記録されている可能性もある.
 テンタキュリトイドについては,HomoctenusStyliolina,Viriatellina,Nowakiaなどを中心とする6属7種を識別した.シーファイ層やトックタット層最下部のテンタキュリトイドは,一般的に厚さ数㎜~1㎝ほどの層状あるいはレンズ状の貝殻密集層(shell concentration)を形成している.このような貝殻密集層は,下部ケルワッサー事変層の4mほど下位の層準で見られなくなるが,HomoctenusStyliolinaなどのいくつかの種は,Pa. triangularis帯よりも上位のPa.crepida帯からも散在的に産出する.

引用文献  Komatsu et al. (2018)Island Arc, e12281.