日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

[2oral401-10] T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第4会場 (共北25:吉田南総合館北棟)

座長:内田 泰蔵(高知大学)、田代 圭吾(京都大学)

09:00 〜 09:15

[T13-O-1] ロックエバル分析による短時間地質温度計の可能性

*山本 由弦1、小林 唯乃1、関山 優希1、吉本 剛瑠1、千代延 俊2、Bowden Stephen3 (1. 神戸大学、2. 秋田大学、3. Unversity of Aberdeen)

キーワード:摩擦発熱、断層

地質学が貢献する地震防災・減災に向けて、ある断層が引き起こす地震の最大ポテンシャルを評価することが重要である。そのためには、過去の事象を記録している地震断層からも動力学パラメータを抽出することが求められる。近年注目されているのが、「断層に記録された温度異常」である。断層の摩擦発熱は、断層のすべり速度と量を示す。しかしながら、過去に活動した地震断層から発熱量を正確に抽出することは困難である。定量的に検討可能な地質温度計として従来から広く用いられてきたのは、ビトリナイト反射率である。ケロジェンの一種で高分子化合物であるビトリナイトは、温度上昇あるいはその温度継続時間とともに、芳香族環の秩序性が増加し、反射率が増加する。問題となるのは、(1)その現象が短時間でも実現するのか不明であること(反応速度論の問題)、そして(2)石油生成領域から外れる高温領域(>300℃)は温度実測との比較実績がなく、データを外挿していることである(摩擦発熱に期待される高温領域における指標信頼性の問題)。現状は、短時間温度上昇を記録する温度指標の確立と検証が求められている。本研究は、堆積物中のケロジェンが、被熱温度に応じて遊離炭化水素を排出する反応に注目し、ロックエバル分析を用いた短時間地質温度計の可能性について現状を報告する。 本研究は、静岡県東部から山梨県南部に分布する上部中新統の富士川層群において、小規模な閃緑岩脈(幅<1.5 m)周辺の泥質岩を対象にロックエバル分析を実施した。またそこから採取した泥質岩と標準物質を用いた室内加熱試料に対しても、分析を実施した。これらから、ロックエバル分析を用いた短時間地質温度計の可能性を検討した。 対象とする閃緑岩脈は、富士川層群の砂泥礫岩互層と約〜40度斜交して貫入しており、ほぼ垂直の傾斜を示す。5枚の泥質岩単層を設定し、岩脈の伸びに対して直交方向に距離を測定しつつ連続的にサンプリングを行った。その結果、S2量は、岩脈近傍で極端に減少するものの、その中で距離との相関は認められなかった。また、当初期待していたTmax値については、岩脈との距離相関が得られなかった。ケロジェンの熟成には微生物の働きが貢献していると考えられているが、短時間加熱にはTmaxが反映されないことが明らかになった。一方、S2量の極端な減少は、本来ロックエバル内のオーブンで分解されるべき炭化水素が、火成岩貫入に伴う被熱異常で「事前に」分解してしまったことを意味する。我々が北海道渡島半島で検討した石英斑岩周辺の堆積岩からは、岩脈に向かって減少していくS2量が確認されており、高い全炭素量を含む堆積岩であれば、S2量が温度計として使用できる可能性は残っている。 一方、residual organic carbonの一部である、S4CO2は、5層準いずれも岩脈近傍で明瞭な減少を示した。距離を岩脈の厚さで規格化した場合、0.5または1よりも外側では10-12 mg CO2/grockで均質であるが、その内側では約10.00-0.05 mg CO2/grockを示した。興味深いことに、岩脈に向かうS4CO2の減少は、前述のS2のそれと両立しないことが確かめられた。すなわち、熱源に向かうS4CO2の減少が確認されるのは、岩脈周辺のS2量が極端に少ない(<0.1 mg/grock)場合にのみ確認された。 上記の天然試料の計測結果を、実験室内の短時間加熱実験で再現できるか、検証を実施した。2種類の試料(①富士川の岩脈から十分に離れた泥質岩で、S4CO2量は10-12 mg CO2/grock、②ロックエバルのキャリブレーション用標準試料IFP16000)を準備し、有酸素および無酸素下の2通りの加熱方法で、300℃で103、104、105、106秒の加熱をし、それら試料を分析した。その結果、加熱時間の増加とともに無酸素条件の加熱ではS2量の段階的な減少が、有酸素下のそれではS4CO2量の段階的減少が認められた。 これらの結果は、2つの可能性を示している。1つめは、加熱条件の違いによって、S2もしくはS4CO2量が短時間被熱の温度計として有用である可能性である。もう1つは、2指標を比較することによって、その被熱イベントが酸化・還元環境下であったかを示しうる点である。たとえば、酸化条件下で起こる加熱は、間隙水の存在や地震発生時に水素が発生する減少と関連している可能性がある。 さらに、本手法は従来の指標と比べて実験室内で再現できるという明確なアドバンテージも確かめられた。当日は、加熱時間を固定して温度を変化させた実験の結果も発表する予定である。