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[T16-O-1] 時代の違う谷埋め軟弱層の比較:埼玉県南東部の沖積層と更新統下総層群木下層
キーワード:大宮台地、鴻沼低地、沖積層、木下層、平均S波速度
最終氷期以降の海面上昇に伴い,最終氷期に刻まれた谷を埋めるようにして形成された沖積層は,一般に非常に軟弱な地層であり,地震動を増幅するなどのリスク要因となることが知られている(海津,2019).関東地方南部では沖積層よりも1サイクル古い谷埋め堆積物である最終間氷期(MIS5e)の下総層群木下層が分布しており,台地を形成する更新統にもかかわらず軟弱な地層として注目されている(中澤ほか,2019).年代は異なるがいずれも軟弱層として認識されている沖積層と木下層について,埼玉県さいたま市の鴻沼低地において両者を連続的に採取したボーリングコア試料が得られたのでその特徴を比較した.
鴻沼低地は大宮台地を刻む小規模な低地である.下流は荒川沿いの荒川低地に合流し,荒川低地はさらに東京都東部の広い沖積低地である東京低地に合流し,東京湾に接続する.一方,この付近の大宮台地南西部には,大宮台地の伸長方向に斜交するようにMIS5eの下総層群木下層下部が分布している(中澤・遠藤,2002).木下層は泥層主体で谷埋め状に分布する木下層下部と,砂泥細互層を主体とし大宮台地に広く分布する木下層上部とに分けられる.木下層下部は谷埋め形状を呈すること,最下部に陸成層を伴い海成泥層を主体とすることなど沖積層と同様の特徴を持つ.
2023年1月に埼玉県さいたま市の鴻沼低地で45 mのボーリングコアGS-SSN-1を採取し,堆積相の記載,各種物性の測定を行った.またボーリング孔でPS検層,密度検層,温度検層を行った.予想される地層分布,堆積相,14C年代値に基づき,GS-SSN-1の最上部2.5 mは盛土,その下の深度20.18 mまでが沖積層,さらに下位の深度37.25 mまでが木下層下部(以下木下層)と推定された.木下層は基底から上位へ礫層(厚さ約5.7 m),上方細粒化する礫質砂層(2.2 m),貝化石に富む泥層(9.2 m)からなる.沖積層は基底の礫層〜礫質砂層(0.9 m),泥炭層(0.9 m),塊状泥層(12.9 m),泥炭〜腐植質砂層(3.0 m)からなる.
木下層と沖積層の主体をなす泥層について比較すると,いずれも塊状で4φより大きい粒子が1%以下と非常に泥質であり,水分含有量は45%前後であった.目視での観察では,木下層は小型の貝化石を含み色調は暗オリーブ灰,沖積層には貝化石は見られず全体に植物片が散在し,色調はオリーブ黒であった.色調は木下層のほうがやや緑がかっている.これらの泥層の密度は木下層が1.5〜2.0 g/cm3で下位ほど大きく,沖積層は1.5〜1.7 g/cm3でほぼ一定である.S波速度はそれぞれ130〜230 m/s,60〜130 m/sであった.木下層のS波速度は密度変化を反映して下位ほど高いが沖積層とほぼ変わらない値を示し,一部は東京低地の沖積層(小松原ほか,2020)よりも低い値を示す.沖積層のS波速度も非常に低く,東京低地の沖積層の半分以下の速度を示す層準もあった.
今回の調査地点を含む鴻沼低地は集水域が小さく、大宮台地内にとどまっている.荒川や利根川のように集水域の大きい河川が作った沖積低地では,最終氷期の下刻谷の底に厚い基底礫層を伴うが,鴻沼低地は集水域が台地内に限定されるため,台地を形成する更新統からのリワークに由来するごく薄い礫層を伴うのみである.厚い礫層を伴わず,軟弱な沖積層と木下層が直に接しているため,鴻沼低地の工学的基盤は沖積層の基底ではなく,その下位の木下層の基底まで下がっていると推定される.従って平均S波速度も非常に低いはずである.
鴻沼低地以外でも(1)集水域の小さい谷底低地が(2)最終間氷期の谷埋め堆積物分布域を横切っているという条件を満たす地域では,2つの時代の軟弱層が癒着して分布する可能性が高い.そのような地域では,鴻沼低地と同様に平均S波速度は沖積層の厚さから推定されるよりも非常に低くなり,また例えば圧密沈下などの地盤リスクも局地的に大きいことが予想される.
文献:
中澤・遠藤(2002)大宮地域の地質.産総研地質調査総合センター.
中澤ほか(2019)地質学雑誌,125,367-385.
小松原ほか(2020)堆積学研究,79,3-14.
小松原(2022)日本地質学会第129年学術大会講演要旨,T13-O-3.
海津(2019)沖積低地-土地条件と自然災害リスク-.古今書院.
鴻沼低地は大宮台地を刻む小規模な低地である.下流は荒川沿いの荒川低地に合流し,荒川低地はさらに東京都東部の広い沖積低地である東京低地に合流し,東京湾に接続する.一方,この付近の大宮台地南西部には,大宮台地の伸長方向に斜交するようにMIS5eの下総層群木下層下部が分布している(中澤・遠藤,2002).木下層は泥層主体で谷埋め状に分布する木下層下部と,砂泥細互層を主体とし大宮台地に広く分布する木下層上部とに分けられる.木下層下部は谷埋め形状を呈すること,最下部に陸成層を伴い海成泥層を主体とすることなど沖積層と同様の特徴を持つ.
2023年1月に埼玉県さいたま市の鴻沼低地で45 mのボーリングコアGS-SSN-1を採取し,堆積相の記載,各種物性の測定を行った.またボーリング孔でPS検層,密度検層,温度検層を行った.予想される地層分布,堆積相,14C年代値に基づき,GS-SSN-1の最上部2.5 mは盛土,その下の深度20.18 mまでが沖積層,さらに下位の深度37.25 mまでが木下層下部(以下木下層)と推定された.木下層は基底から上位へ礫層(厚さ約5.7 m),上方細粒化する礫質砂層(2.2 m),貝化石に富む泥層(9.2 m)からなる.沖積層は基底の礫層〜礫質砂層(0.9 m),泥炭層(0.9 m),塊状泥層(12.9 m),泥炭〜腐植質砂層(3.0 m)からなる.
木下層と沖積層の主体をなす泥層について比較すると,いずれも塊状で4φより大きい粒子が1%以下と非常に泥質であり,水分含有量は45%前後であった.目視での観察では,木下層は小型の貝化石を含み色調は暗オリーブ灰,沖積層には貝化石は見られず全体に植物片が散在し,色調はオリーブ黒であった.色調は木下層のほうがやや緑がかっている.これらの泥層の密度は木下層が1.5〜2.0 g/cm3で下位ほど大きく,沖積層は1.5〜1.7 g/cm3でほぼ一定である.S波速度はそれぞれ130〜230 m/s,60〜130 m/sであった.木下層のS波速度は密度変化を反映して下位ほど高いが沖積層とほぼ変わらない値を示し,一部は東京低地の沖積層(小松原ほか,2020)よりも低い値を示す.沖積層のS波速度も非常に低く,東京低地の沖積層の半分以下の速度を示す層準もあった.
今回の調査地点を含む鴻沼低地は集水域が小さく、大宮台地内にとどまっている.荒川や利根川のように集水域の大きい河川が作った沖積低地では,最終氷期の下刻谷の底に厚い基底礫層を伴うが,鴻沼低地は集水域が台地内に限定されるため,台地を形成する更新統からのリワークに由来するごく薄い礫層を伴うのみである.厚い礫層を伴わず,軟弱な沖積層と木下層が直に接しているため,鴻沼低地の工学的基盤は沖積層の基底ではなく,その下位の木下層の基底まで下がっていると推定される.従って平均S波速度も非常に低いはずである.
鴻沼低地以外でも(1)集水域の小さい谷底低地が(2)最終間氷期の谷埋め堆積物分布域を横切っているという条件を満たす地域では,2つの時代の軟弱層が癒着して分布する可能性が高い.そのような地域では,鴻沼低地と同様に平均S波速度は沖積層の厚さから推定されるよりも非常に低くなり,また例えば圧密沈下などの地盤リスクも局地的に大きいことが予想される.
文献:
中澤・遠藤(2002)大宮地域の地質.産総研地質調査総合センター.
中澤ほか(2019)地質学雑誌,125,367-385.
小松原ほか(2020)堆積学研究,79,3-14.
小松原(2022)日本地質学会第129年学術大会講演要旨,T13-O-3.
海津(2019)沖積低地-土地条件と自然災害リスク-.古今書院.