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[T16-O-2] 東京低地の沖積層の層相変化・埋没段丘礫層の分布に伴う地盤震動特性の変化:1923年関東地震の被害との関連
キーワード:地盤震動特性、沖積層、埋没段丘礫層、東京低地
最近,首都圏の地下浅部の地質層序・堆積相の研究が進み,2021年に産総研の演者らのグループが公開した東京都区部の3次元地質地盤図(都市域の地質地盤図「東京都区部」)では,膨大な量のボーリングデータを使用して,東京低地の沖積層の層相分布や沖積層基底の形状を極めて詳細に明らかにしている.今回演者らは,この3次元地質地盤図で示された地質構成をもとに東京低地の地盤を類型化し,それぞれの地盤について常時微動観測を行うことで,地盤類型区分に対応した地盤震動特性の把握を試みたので報告する.
東京低地の沖積層は下位の七号地層と上位の有楽町層に区分されることが多い(東京都土木技術研究所,1969など).このうち七号地層は,主に河川成の礫層及び砂層・泥層からなり,層相の側方変化が著しい(小松原ほか,2022).一方,上位の有楽町層は主に内湾成の極めて軟らかい泥層を主体とする.また沖積層基底に相当する埋没地形は,幅の狭い溝状の谷底部(埋没谷底)と埋没平坦面1〜4(標高の高い順)に区分される(小松原ほか,2021).
本研究ではまず東京低地を東西に横断する上野–小岩測線にて常時微動観測を行った,この測線は,埋没谷底を軸とし,その右岸側の埋没平坦面2及び埋没平坦面1,左岸側の埋没平坦面1を横断する.常時微動観測を実施した結果,埋没谷底や埋没平坦面2に相当する地域ではいずれも1 Hz付近にピークをもつH/Vスペクトルが得られた(中澤ほか,2023).このうち沖積層がやや薄い(層厚約30 m)埋没平坦面2相当地域では,沖積層が厚い(層厚約60 m)埋没谷底に相当する地域よりも,1 Hzのピークがより明瞭に現れた.埋没平坦面2相当地域の1 Hzのピークは埋没段丘礫層と沖積層(有楽町層相当)の境界深度に由来するが,1 Hzのピークが明瞭なのは両者の地層の物性のコントラストが極めて大きいことが要因として考えられる.一方で,埋没谷底に相当する地域では,1 Hzのピークは埋没段丘礫層上面とほぼ同深度の七号地層と有楽町層の境界深度に由来するが,七号地層は砂泥互層からなるため,七号地層と有楽町層の両者の物性コントラストは埋没平坦面2相当地域のそれよりも小さく,ピークも幅の広いなだらかな山状になったものと考えられる.一般に木造家屋は1 Hz付近の揺れにより倒壊しやすいとされるが(境,2009),この測線では沖積層が厚い埋没谷底相当域よりも,むしろ沖積層が薄い埋没平坦面2相当域のほうが1 Hz付近の周波数帯域の揺れが大きく増幅される可能性があることが示された.
次に上野–小岩測線よりも上流側の足立測線で常時微動観測を実施した.この測線は,埋没谷底とその左岸に発達する埋没平坦面2を横断する.ただし埋没谷底部分を埋積する七号地層の層相が上野–小岩測線と異なり砂層優勢であることが特徴である.この測線では,上野–小岩測線と同様に埋没平坦面2に相当する地域では1 Hz付近に明瞭なピークが認められたとともに,埋没谷底に相当する区間でも1 Hz付近に比較的明瞭なピークが認められた.これは埋没谷底部分を埋積する七号地層が砂層優勢のため,上位の軟らかい有楽町層との物性コントラストが大きくなったためと考えられる.このように東京低地の地盤震動特性は埋没段丘礫層の分布,及び沖積層の層相,特に七号地層の層相変化の影響を受け,場所により大きく変化することが明らかになった.
実際に1923年関東地震の際には,必ずしも沖積層が最も厚い(約60 m)埋没谷の軸部付近で被害が大きかったとは限らず,むしろ埋没段丘礫層が分布する埋没平坦面2に相当する区間(沖積層厚約30 m)で大きな被害があったことが知られている(諸井・武村,2002;武村,2003).また埋没谷の軸部(埋没谷底)相当域をみると,七号地層が砂泥互層からなる上野–小岩測線付近では被害が比較的少ないのに対し,現在の足立区を含むその北側で被害が多い(諸井・武村,2002)のは,上述のように七号地層が砂層優勢に変化することが影響している可能性が考えられる.
文献:
小松原ほか(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」(説明書),産総研地質調査総合センター,47–61.
小松原ほか(2022)地質学雑誌,128,29–42.
諸井・武村(2002)日本地震工学会論文集,2 (3),35–71.
中澤ほか(2023)地質学雑誌,129,263–270.
武村(2003)日本地震工学会論文集,3 (1),1–36.
東京都土木技術研究所(1969)東京都地盤地質図(23区内)—東京都地質図集2—.
境(2009)日本地震工学会誌,9, 12–19.
都市域の地質地盤図ウェブサイト https://gbank.gsj.jp/urbangeol/
東京低地の沖積層は下位の七号地層と上位の有楽町層に区分されることが多い(東京都土木技術研究所,1969など).このうち七号地層は,主に河川成の礫層及び砂層・泥層からなり,層相の側方変化が著しい(小松原ほか,2022).一方,上位の有楽町層は主に内湾成の極めて軟らかい泥層を主体とする.また沖積層基底に相当する埋没地形は,幅の狭い溝状の谷底部(埋没谷底)と埋没平坦面1〜4(標高の高い順)に区分される(小松原ほか,2021).
本研究ではまず東京低地を東西に横断する上野–小岩測線にて常時微動観測を行った,この測線は,埋没谷底を軸とし,その右岸側の埋没平坦面2及び埋没平坦面1,左岸側の埋没平坦面1を横断する.常時微動観測を実施した結果,埋没谷底や埋没平坦面2に相当する地域ではいずれも1 Hz付近にピークをもつH/Vスペクトルが得られた(中澤ほか,2023).このうち沖積層がやや薄い(層厚約30 m)埋没平坦面2相当地域では,沖積層が厚い(層厚約60 m)埋没谷底に相当する地域よりも,1 Hzのピークがより明瞭に現れた.埋没平坦面2相当地域の1 Hzのピークは埋没段丘礫層と沖積層(有楽町層相当)の境界深度に由来するが,1 Hzのピークが明瞭なのは両者の地層の物性のコントラストが極めて大きいことが要因として考えられる.一方で,埋没谷底に相当する地域では,1 Hzのピークは埋没段丘礫層上面とほぼ同深度の七号地層と有楽町層の境界深度に由来するが,七号地層は砂泥互層からなるため,七号地層と有楽町層の両者の物性コントラストは埋没平坦面2相当地域のそれよりも小さく,ピークも幅の広いなだらかな山状になったものと考えられる.一般に木造家屋は1 Hz付近の揺れにより倒壊しやすいとされるが(境,2009),この測線では沖積層が厚い埋没谷底相当域よりも,むしろ沖積層が薄い埋没平坦面2相当域のほうが1 Hz付近の周波数帯域の揺れが大きく増幅される可能性があることが示された.
次に上野–小岩測線よりも上流側の足立測線で常時微動観測を実施した.この測線は,埋没谷底とその左岸に発達する埋没平坦面2を横断する.ただし埋没谷底部分を埋積する七号地層の層相が上野–小岩測線と異なり砂層優勢であることが特徴である.この測線では,上野–小岩測線と同様に埋没平坦面2に相当する地域では1 Hz付近に明瞭なピークが認められたとともに,埋没谷底に相当する区間でも1 Hz付近に比較的明瞭なピークが認められた.これは埋没谷底部分を埋積する七号地層が砂層優勢のため,上位の軟らかい有楽町層との物性コントラストが大きくなったためと考えられる.このように東京低地の地盤震動特性は埋没段丘礫層の分布,及び沖積層の層相,特に七号地層の層相変化の影響を受け,場所により大きく変化することが明らかになった.
実際に1923年関東地震の際には,必ずしも沖積層が最も厚い(約60 m)埋没谷の軸部付近で被害が大きかったとは限らず,むしろ埋没段丘礫層が分布する埋没平坦面2に相当する区間(沖積層厚約30 m)で大きな被害があったことが知られている(諸井・武村,2002;武村,2003).また埋没谷の軸部(埋没谷底)相当域をみると,七号地層が砂泥互層からなる上野–小岩測線付近では被害が比較的少ないのに対し,現在の足立区を含むその北側で被害が多い(諸井・武村,2002)のは,上述のように七号地層が砂層優勢に変化することが影響している可能性が考えられる.
文献:
小松原ほか(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」(説明書),産総研地質調査総合センター,47–61.
小松原ほか(2022)地質学雑誌,128,29–42.
諸井・武村(2002)日本地震工学会論文集,2 (3),35–71.
中澤ほか(2023)地質学雑誌,129,263–270.
武村(2003)日本地震工学会論文集,3 (1),1–36.
東京都土木技術研究所(1969)東京都地盤地質図(23区内)—東京都地質図集2—.
境(2009)日本地震工学会誌,9, 12–19.
都市域の地質地盤図ウェブサイト https://gbank.gsj.jp/urbangeol/