日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

[2oral501-11] T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第5会場 (共北27:吉田南総合館北棟)

座長:野々垣 進(産総研 地質調査総合センター)、中澤 努(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

09:30 〜 09:45

[T16-O-3] 関東平野中央部大宮台地における更新統下総層群の層序および層相変化の検討

*【ECS】米岡 佳弥1、坂田 健太郎1、中澤 努1、中里 裕臣1 (1. 産総研地調)

キーワード:更新統、下総層群、テフラ、カミングトン閃石、薮層

関東平野には更新統下総層群が広く分布しており,首都圏の浅部地盤を構成している.下総層群の各層は基本的に1回の海水準変動に対応した陸成層–海成層の堆積サイクルからなるが,側方への層相変化も著しく,例えばMIS 7cに堆積した清川層は下総台地北部で層相が海成砂層から陸成泥層主体へと大きく変化することが知られる[1].このような層相変化は.地質汚染リスクにも大きく影響を与えているとされる[2].都市化が著しく進んだ首都圏の地下浅部に分布する下総層群ついては,持続的な地下水利用や地震災害リスク評価の観点からも砂層・泥層の層相分布・層相変化様式を適切に把握することが極めて重要である. 発表者らは関東平野中央部における下総層群の層序構築および層相変化様式の検討のため,大宮台地北部の埼玉県北本市石戸で新規ボーリング調査(GS-KM-1)を行った.本発表では大宮地域の更新統下総層群の層序と層相変化の検討結果について報告する. GS-KM-1コアの下総層群相当層は大きく4つの層準に分けられる(下位からA層,B層,C層,D層).A層は下部の海成の砂層と上部の陸成の泥層からなり,上部泥層の基底には層厚7 cmのテフラ層(KM1-43.38テフラ)が挟在する.KM1-43.38テフラの重鉱物はカミングトン閃石を主体とし,その屈折率はn2 = 1.660–1.665 (モード値:1.663)であることから,KM1-43.38テフラはGS-UR-1コア(さいたま市浦和区)の薮層中部に挟在するNo. 8テフラ[3]に対比される.よってGS-KM-1コアのA層は薮層に相当すると考えられる.その上位のB層は下部の河川成の砂層と上部の陸成の泥層,またC層は下部の河川成の砂層と上部の陸成の泥層からなる.B層,C層にも特徴的なテフラが挟在するが対比は未検討である.最上位のD層は河川成の砂層を主体とし,ローム層に覆われることから大宮層と考えられる. ここで重要なのは,浦和GS-UR-1コアでは薮層の海成層の下半部(薮層中部;MIS 9)に挟在するとされるNo.8テフラが,北本GS-KM-1コアでは海成層とその上位の陸成層の境界付近に挟在することである.これは内陸側である北本GS-KM-1地点が浦和GS-UR-1地点よりも早い時点で海域から陸域に移行したことを意味している.つまり層相と時間面が大きく斜交することが示された. このように首都圏の下総層群は,広域にみると同じ地層でも側方に層相が大きく変化する.1回のサイクルの海水準変動においても,内陸側では相対的に陸域環境に置かれる時間が長くなることで,結果として大宮台地では北部へ海成砂層の減少と陸成泥層の増加が認められた.砂層・泥層を側方に対比・追跡する際には,層相と時間面が大きく斜交することを念頭に置き,テフラ・花粉化石を用いて対比を慎重に検討することが必要である.

[1] 米岡ほか(2022)日本地質学会第129年学術大会講演要旨,T13-O-8;[2] 高嶋ほか(2017)第27回環境地質学シンポジウム論文集,31–34;[3] 中澤・中里(2005)地質学雑誌,111,87–93