日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

[2oral501-11] T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第5会場 (共北27:吉田南総合館北棟)

座長:野々垣 進(産総研 地質調査総合センター)、中澤 努(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

10:45 〜 11:00

[T16-O-7] (エントリー)トンネル内で盤ぶくれを引き起こす泥質岩の最高経験温度

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*【ECS】関山 優希1、望月 一磨2、今井 啓文2、上野 光2、山本 由弦1 (1. 神戸大学、2. 独立行政法人鉄道・運輸機構)

キーワード:盤ぶくれ、ビトリナイト反射率、ロックエバル、スメクタイト

道路や鉄道のトンネル内では路面に押し出し変位(盤ぶくれ)が生じ、トンネル安全性や安定性および使用性を確保するための対策工事が頻繁に実施され、費用面だけでなく維持管理や対策工事による社会への影響が近年顕在化してきた。盤ぶくれは、吸水膨潤(Swelling)と押し出し(Squeezing)とに区分され、前者は膨潤特性を持つ粘土鉱物の一種であるスメクタイトが吸水、膨潤することによって発現すると考えられている。このことから、盤ぶくれ発生リスクの評価指標としてXRDによるスメクタイト含有量の定量測定値が用いられてきたが、より簡易な測定でかつ正確な評価指標の利用が急務であった。 本研究は、含有されるスメクタイトが経験温度上昇に伴いイライト(非膨張性)へと変化する性質を利用し、簡易的な温度計測手法を用いて盤ぶくれの発生リスクを定量的に評価した。測定手法として、ロックエバルTmax(℃)とビトリナイト反射率RO(%)を用いて、地層の最高経験温度T(℃)を検討した。測定には①Aトンネル(北海道)、②Bトンネル(北海道)、③Cトンネル(北海道)、④加賀トンネル・樋山トンネル(石川―福井県)、⑤久山トンネル(長崎県)の古第三紀~新第三紀の泥質岩(計80試料)を用いた。 温度計測の結果、①では、Tmax = 420-435 (℃)、RO = 0.43-0.59 (%)。②では、Tmax = 406-418 (℃)、RO = 0.57-0.60 (%)。③では、Tmax = 412-441 (℃)、RO = 0.77 (%)。④では、Tmax = 418-443 (℃)、RO = 0.43-0.59 (%)。⑤では、Tmax = 438-450 (℃)、RO = 0.69-0.87 (%)となった。このTmax(℃)とRO(%)をT(℃)に換算すると、①T = 96-130 (℃)、②T = 47-137 (℃)、③T = 71-141 (℃)、④T = 90-144 (℃)、⑤T = 135-161 (℃)となる。最高経験温度T (℃)とスメクタイト含有量を比較すると、③の中でもT = 135-141 (℃)地点では、スメクタイト含有量10 (%)、④中のT = 135-141 (℃)地点では、スメクタイト含有量2 (%)、⑤T = 135-161 (℃)地点では、スメクタイト含有量0 (%)とそれぞれ低い値を取る。これらの結果は、スメクタイト-イライト混合層において、続成作用によってイライトが80 %に達する温度が140℃と考えられている(井上, 1986)ことと矛盾しない。また、③中のT = 71-118 (℃)地点では、スメクタイト含有量が0-50 (%)と広範に分布しており、④中のT = 90-124 (℃)地点では、スメクタイト含有量が13-22 (%)と比較的高い値を取る。このことから、地層の最高経験温度が高い地点では、スメクタイトのイライト化が進行して含有量が低いことが確認できた。一方温度が低い地点では、スメクタイト含有量は温度以外の影響によって様々であるものの、一定量残存していることが確認できた。以上の検討から、地層の最高経験温度が高い地点では、吸水膨潤型盤ぶくれのリスクが低いこと、温度が低くスメクタイト含有量が多い地点では同リスクの評価が可能である。