日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

[2oral501-11] T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第5会場 (共北27:吉田南総合館北棟)

座長:野々垣 進(産総研 地質調査総合センター)、中澤 努(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

11:30 〜 11:45

[T16-O-10] 2021年熱海土石流災害の発生原因の究明のための地球科学的研究(その2)

*北村 晃寿1 (1. 静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻・防災総合センター)

キーワード:熱海土砂災害、盛土

2021年7月3日に,静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川源頭部にあった盛土の崩壊で土石流が発生し,死者28人,全・半壊家屋64棟の被害をもたらした.崩落した盛土の体積は約55,500 m3と推定されている.盛土は,2009年6月期前の盛土層,褐色盛土層,黒色盛土層の順に重なり,褐色盛土層よりも黒色盛土層のほうが低所にある(木村,2021, 深田地質研究所年報,22,185–202).未崩落の黒色盛土層と土石流堆積物の分析から,崩壊した部分は主に黒色盛土層であることが判明したので,盛土崩壊の原因の検討には,黒色盛土層の組成と構造の復元が最重要となる(北村ほか,静大地研報, 49, 97–104). 黒色盛土層は非常に不淘汰な堆積物で,人工物(神奈川県二宮町指定ごみ袋など),現世と完新世の沿岸性貝類(北村, 2022,第四紀研究,61, 109–117),放散虫化石を含むチャート岩片(北村ほか, 静大地研報, 49, 73–86),鮮新世末期―前期更新世の海成層由来の軟質泥岩礫(北村ほか, 第四紀研究, 61, 143-155)を含む.1950年代以降の核実験や原子力発電所の事故で大気中に放出された137Csを含み,泥質物の全硫黄濃度は0.06-0.4 %である(北村ほか, 静大地研報, 50, 39–63).含泥率は10-35%で,砂サイズの粒子組成は,石英,長石,輝石を主とする(北村ほか, 静大地研報, 49, 73–86). 構造的には,未崩落の黒色盛土層から複数枚の淘汰の良い砂層(層厚<19 cm)が発見されたので,黒色盛土層内にも同様の高透水性層があった可能性が高い(北村・山下, 静大地研報, 50, 1–6).静岡県(2022, 第4回逢初川土石流の発生原因調査検証委員会)が報告した2019年の盛土最下端の複数の小崩落地形は,空洞の存在を示し,これは高透水性層に斜面地中水が集中し,部分的にパイプなどの空洞が形成されたものと推定される. 以上のことから,盛土の崩壊過程は次のように推定される.2012年頃までに盛土は崩壊前の規模になっており,その後の10年間に,盛土内に空洞が形成され,盛土内への地下水・地表水の供給速度が増加していった.そして,2021年7月1~3日の豪雨で,高透水性層に地下水が集中し,排水システムの許容量超過による間隙水圧の上昇で盛土の最下端が崩壊し,第0波の土石流が発生した.この盛土崩壊で高透水性層が遮断され,新たな間隙水圧上昇が起き,再び盛土崩壊で土石流が発生することが繰り返した.