日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G-2.ジェネラル サブセッション環境地質・第四紀地質・岩石鉱物火山

[2oral601-11] G-2.ジェネラル サブセッション環境地質・第四紀地質・岩石鉱物火山

2023年9月18日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:吉田 剛(千葉県環境研究センター)、長橋 良隆(福島大学)、竹下 欣宏(信州大学教育学部)、宇野 正起(東北大学)

11:15 〜 11:30

[G2-O-9] 大黒海山ROV調査による溶融硫黄湖における黄鉄鉱の分布の解明

*【ECS】沢田 輝1,2、Chong Chen2、岩本 久則3、高井 研2 (1. 富山大学、2. 海洋研究開発機構、3. 日本海洋事業株式会社)

キーワード:溶融硫黄、マリアナ弧、海底火山、熱水噴出孔

陸上火山の噴気域および海底火山の熱水噴出域では多量の自然硫黄が生じ、時として高温によって溶融した自然硫黄が滞留して溶融硫黄湖を成すか、または溶岩のように流下することがある。溶融硫黄は純粋に近い組成のものは固化すると黄色を呈するが、しばしば直径数十マイクロメートル以下程度の黄鉄鉱の微粒子を含んでおり、このようなものが固化すると灰色を呈する。黄鉄鉱は硫黄よりも比重が大きく、溶融硫黄湖の中では沈降し下部により多く存在すると考えられてきた(Takano et al., 1994)。大黒海山はマリアナ島弧北部に位置する玄武岩質から安山岩質の海底火山で、山頂の水深は約320 m、比高約700 mである。2004年から数回の無人潜水機(ROV)調査が行われており、山頂付近の熱水噴出孔に溶融硫黄が存在することが確認されている。大黒海山の溶融硫黄は過去2回のROV調査により採集されており、1つは2006年にROV Jason II(ウッズホール海洋研究所)が鉄の棒に缶を溶接したものを溶融硫黄に約1mの深さまで差し込んで採集された試料(de Ronde et al., 2015)で、もう1つは2016年にROV SuBastian(シュミット海洋研究所)が溶融硫黄上を航行中に偶然爆発的な噴出が起きてROV本体に付着した試料であった(Bobbitt, 2016)。いずれの溶融硫黄も多量の微細な黄鉄鉱を含み灰色を呈していた。また、溶融硫黄を保持する熱水噴出孔の周囲には直径数mmから数cmの灰色の球状硫黄が多数見られ、火山ガス等の放出に伴う飛沫によって形成される様子が観察されている。2023年3月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査船かいめいの研究航海KM23-05において、ROVを大黒海山中央火口丘内部にある溶融硫黄湖に着底させ、表面約7cmの深さまでバスケット等を差し込んで採集した。溶融硫黄湖の表面は薄く固化した硫黄に覆われ、火山砕屑物が点在し、さらにユノハナガニなどの生物が多数生息していた。採集された溶融硫黄は鮮やかな黄色を呈し、黄鉄鉱はごく少量しか見られなかった。溶融硫黄湖からROVが離底すると、多数の黄色い球状硫黄が噴出する様子が確認された。一方、大黒海山の北方約100kmの日光海山においても溶融硫黄が確認されており、2006年にROVで深さ20cm程度を掬い取ってサンプリングされている(de Ronde et al., 2015)。このときに採集された溶融硫黄は黄鉄鉱に乏しい黄色部分と黄鉄鉱に富む灰色部分がおおよそ半分ずつあり、これらがマーブル模様状に混ざったものであった。ROVを駆使したこれらの溶融硫黄の直接サンプリングによって、黄鉄鉱に富む溶融硫黄は深さ10cmオーダー以深から存在することが明らかになった。静的な状態にある溶融硫黄湖では黄鉄鉱に富む硫黄は沈殿して成層しているが、火山ガスの放出が活発な状態では深部から黄鉄鉱に富む硫黄が飛散していると考えられる。

Takano et al. (1994). Geochemical Journal, 28, 199– 216.
de Ronde et al. (2015). In Rouwet et al. (Eds.), Volcanic lakes. pp. 261– 288. Springer.
Bobbitt (2016). Falkor Cruise Report, FK161129, 1– 308.