日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2poster01-25] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T2_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T2-P-24] 西彼杵変成岩類に見られる変形構造の重複関係

*重野 未来1、森 康1、井上 和男2 (1. 北九州市立自然史・歴史博物館、2. 長野県建設事務所)

キーワード:西彼杵変成岩、変形構造、変形史

変成岩の発達過程や上昇過程を明らかにする上で、変形構造の実態を明らかにすることは重要である。
 九州北西部の西彼杵変成岩類は、中〜西部では主に泥質砂質片岩からなり、塩基性片岩を挟み、露頭規模の褶曲構造が発達している。蛇紋岩類はヒスイ輝石岩、オンファス輝石岩のような構造岩塊とともに点在する。また、東部には砂質片岩、石英片岩が分布し、東部では東傾斜である(西山, 1989)。
 西彼杵半島中部で片岩類の片理面の構造は、北部の北東-南西方向から南東に屈曲しており、小褶曲の軸方向が大まかにはNE-SW、NW-SE、NS方向のものが見られる(服部他, 1993)。片理面と小褶曲の重複関係、顕微鏡下の微小構造の観察から、三重町(重野・卯田, 1993; 1995)および中部神浦〜雪浦(井上・卯田, 1995)にて変形史を編んだ。本地域ではその後、石英包有物を含むヒスイ輝石岩(Shigeno et al., 2005)、超高圧変成岩類(Nishiyama et al., 2020)の新知見が得られた。また、Miyazaki et al.(2019)は、本地域の泥質片岩のフェンジャイトK-Ar年代、ジルコンU-Pb年代から変成作用の継続時間を見積もり、西彼杵変成岩類は北から上昇したことを示した。また、高地ほか(2011)は本地域中部の泥質砂質片岩の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定により80-86Maの堆積年代を報告した。炭質物ラマン地質温度計による本地域の泥質片岩の変成温度は440–520℃であり、北西部がやや低温、南東部がやや高温の傾向を示す温度構造が明らかになった(Mori et al., 2019)。
 本発表では、これまでの調査と並行して集めた、半島南部を含めた構造データの変形構造解析、多方向の薄片の顕微鏡観察をおこない、各地域での変形構造の重複関係と分布に着目して対比を試み、変形史を再検討し、大構造や温度構造との関係を考察する。

方法
 調査地域の露頭や試料で観察される褶曲は、褶曲軸の方向は大まかにNW-SE、EW、NS、NE-SWの4つの方向を示すものがある。露頭や採取試料において観察される変形構造(片理面、褶曲、鉱物線構造など)の前後関係を調査した。これらの褶曲軸と片理面のステレオ投影結果と、野外や試料の観察結果と合わせて、それらの分布をまとめた。

結果
 野外および試料観察から褶曲軸がNW-SE、NE-SWの褶曲が広範囲に見られ、2つの褶曲のステレオ投影結果が多くの地域で得られた。また、片理面のステレオ投影法から、褶曲軸がNS、NE-SWの2つの褶曲が示された。薄片や試料観察においても、主にこの3方向の褶曲が本地域の泥質片岩の組織に多く見られる。野外観察により、褶曲軸がNW-SEの褶曲の後に、NS方向の褶曲を形づくる片理面の重複が観察された。
 褶曲構造の分布から、褶曲軸方向の異なる4種類の褶曲のうち、EW、NW-SE、NE-SWの3種類が観察される地域が、西海岸と中軸部でNW-SE方向に点在することがわかった。その中には超高圧変成岩、ヒスイ輝石岩の産出する地域、炭質物ラマン地質温度計結果による温度構造の高温部が含まれる。中軸部の分布域付近の東側に、SE傾斜を示す区域がNS方向に分布する。

 以上のように、予想よりも複雑な重複関係や分布状況が、野外調査および顕微鏡観察により明らかになった。超高圧変成岩を含むなど特異な性質を持つ西彼杵変成岩類の発達過程や上昇過程を考えるため、変形構造の重複関係をさらに明らかにする必要がある。

引用文献
服部仁・井上英二・松井和典(1993)神浦地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 地質調査所, 126p.
井上・卯田(1995) 日本地質学会要旨.
高地ほか(2011)地学雑誌120(1)30-39.
Miyazaki et al.(2019)Contributions to Mineralogy and Petrology, 115, 174: 1-19.
Mori, Y., Shigeno, M., Miyazaki, K., Nishiyama, T. (2019). Jour Mineral Petrol Sci, 114, 170–177.
西山忠男(1989)地質学論集, 33, 237–257.
Nishiyama et al.(2020)Scientific Reports 10(1). doi.org/10.1038/s41598-020-68599-7.
重野・卯田(1993; 1995)日本地質学会要旨.
Shigeno, M., Mori, Y., Nishiyama, T. (2005). Jour Mineral Petrol Sci, 100:237–246.