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[T9-O-6] 葛根田地熱地域のアクティブな接触変成温度履歴と熱モデリング:地殻浅部マグマー熱水系の熱輸送メカニズム
キーワード:接触変成帯、マグマー熱水系、熱モデリング、シリカシーリング、超臨界地熱貯留層
地殻浅部におけるマグマ―熱水系の熱履歴と熱輸送メカニズムは,地殻内部の流体・エネルギー収支や地震発生,エネルギー資源の推定に重要である.しかしながら,従来,マグマ貫入による地殻への熱的な影響は接触変成帯における温度拡散として記述されることが多く,マグマ貫入による流体挙動と熱輸送メカニズムへの影響はよくわかっていない.本研究では,0.1 Maの極めて若い花崗岩を熱源としたアクティブな接触変成帯である葛根田地熱地域を対象として,現在および過去の詳細な温度構造を明らかにし,1次元熱輸送モデルによる解析から地殻浅部マグマ―熱水系における熱輸送メカニズムの変遷を制約した.
葛根田地熱地域は仙岩火山地域に位置し,0.1 Maの極めて若い花崗岩を熱源とした地熱地域である(e.g., Doi et al., 1998).当地域のWD-1a坑井は,深度約3800mで500℃に達し,黒雲母,菫青石,紅柱石,直閃石,カミントン閃石など各種の変成鉱物が確認される.黒雲母および菫青石のアイソグラッドは3次元的に葛根田花崗岩の表面に平行に分布しており,深度約1500 m以深には花崗岩を熱源とした接触変成帯が分布している.
本研究ではWD-1a近傍のWell-20で採取されたカッティングス試料の深度約1500–2800 mにおいて黒雲母および緑泥石の化学組成を求めた.黒雲母温度計(Henry et al., 2005)および緑泥石温度計(Bourdelle et al., 2013)を適用し,各鉱物に記録されている温度を求めた.なお,花崗岩/基盤岩境界は深度約2800 mに位置する.
得られた温度プロファイルをマグマ対流,および熱水対流を考慮した1次元熱輸送モデルにより解析した.下記に示す熱輸送メカニズムの異なる次の5つのモデルを検討した.(1) 熱伝導モデル, (2) 熱伝導+マグマ対流モデル, (3) 熱伝導+貯留層対流モデル, (4) 熱伝導+マグマ対流+貯留層対流モデル, (5)熱伝導+亜臨界および超臨界貯留層対流+熱伝導帯モデル.
黒雲母に記録された温度は,約760℃(深度2850 m)から約630℃(深度1700 m)と浅部に向けて徐々に低下し,接触変成時の温度を示した.緑泥石に記録された温度は,深度2850–1530 mで370–265℃程度で系統的に変化し,WD-1aで観測された坑井温度(Ikeuchi et al., 1998)やWell-20の流体包有物の最低均質化温度と良い相関を示した.
熱輸送メカニズムとして熱伝導だけを仮定したモデル(1)および貯留層対流を追加したモデル(3)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの温度(~1000℃)と基盤岩の温度(~140℃)の平均以下となるため,境界で観測された黒雲母の温度(760℃)を説明することが出来なかった.
マグマ溜まり内の対流を考慮したモデル(2)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの対流下限温度(~840℃)とソリダス(760℃)の間に固定され,境界付近の黒雲母温度を再現できる.しかしながら,浅部での高い黒雲母温度(630℃@深度1700 m)は再現できなかった. マグマ対流と貯留層の対流を考慮したモデル(4)では,モデル(1–3)よりより効率的に浅部へと熱が伝わるが,浅部での高い黒雲母温度を再現することは出来なかった.マグマ対流,亜臨界および超臨界貯留層における対流および,亜臨界/超臨界境界での熱伝導帯を考慮したモデル(5)では,熱伝導帯がヒートキャップとして機能し,浅部での高い黒雲母温度(630℃@1700m)を再現することができた.
深度2850 mから1700 mにおける760–630℃の高い黒雲母温度は,花崗岩からの単純な熱伝導では説明することができない.マグマ溜まり内部での活発な対流による花崗岩/基盤境界への効率的な熱輸送と,貯留層内での熱水対流による浅部への熱輸送の両方が必要である.さらに,石英の溶解度が極小値となる380–550℃付近で形成されるシリカシーリング帯(Saishu et al., 2014)は,亜臨界/超臨界を隔てる熱伝導帯としてヒートキャップの役割を果たし,浅部の超臨界貯留層の効率的な加熱に寄与していたと考えられる.
引用文献
Bourdelle et al. (2013) Contribution to Mineralogy and Petrology, 165, 723–735.
Doi et al. (1998) Geothermics, 27, 663–690.
Henry et al. (2005) American Mineralogist, 90, 316–328.
Ikeuchi et al. (1998) Geothermics, 27, 591–607.
Saishu et al. (2014) Terra Nova, 26, 253–259.
葛根田地熱地域は仙岩火山地域に位置し,0.1 Maの極めて若い花崗岩を熱源とした地熱地域である(e.g., Doi et al., 1998).当地域のWD-1a坑井は,深度約3800mで500℃に達し,黒雲母,菫青石,紅柱石,直閃石,カミントン閃石など各種の変成鉱物が確認される.黒雲母および菫青石のアイソグラッドは3次元的に葛根田花崗岩の表面に平行に分布しており,深度約1500 m以深には花崗岩を熱源とした接触変成帯が分布している.
本研究ではWD-1a近傍のWell-20で採取されたカッティングス試料の深度約1500–2800 mにおいて黒雲母および緑泥石の化学組成を求めた.黒雲母温度計(Henry et al., 2005)および緑泥石温度計(Bourdelle et al., 2013)を適用し,各鉱物に記録されている温度を求めた.なお,花崗岩/基盤岩境界は深度約2800 mに位置する.
得られた温度プロファイルをマグマ対流,および熱水対流を考慮した1次元熱輸送モデルにより解析した.下記に示す熱輸送メカニズムの異なる次の5つのモデルを検討した.(1) 熱伝導モデル, (2) 熱伝導+マグマ対流モデル, (3) 熱伝導+貯留層対流モデル, (4) 熱伝導+マグマ対流+貯留層対流モデル, (5)熱伝導+亜臨界および超臨界貯留層対流+熱伝導帯モデル.
黒雲母に記録された温度は,約760℃(深度2850 m)から約630℃(深度1700 m)と浅部に向けて徐々に低下し,接触変成時の温度を示した.緑泥石に記録された温度は,深度2850–1530 mで370–265℃程度で系統的に変化し,WD-1aで観測された坑井温度(Ikeuchi et al., 1998)やWell-20の流体包有物の最低均質化温度と良い相関を示した.
熱輸送メカニズムとして熱伝導だけを仮定したモデル(1)および貯留層対流を追加したモデル(3)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの温度(~1000℃)と基盤岩の温度(~140℃)の平均以下となるため,境界で観測された黒雲母の温度(760℃)を説明することが出来なかった.
マグマ溜まり内の対流を考慮したモデル(2)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの対流下限温度(~840℃)とソリダス(760℃)の間に固定され,境界付近の黒雲母温度を再現できる.しかしながら,浅部での高い黒雲母温度(630℃@深度1700 m)は再現できなかった. マグマ対流と貯留層の対流を考慮したモデル(4)では,モデル(1–3)よりより効率的に浅部へと熱が伝わるが,浅部での高い黒雲母温度を再現することは出来なかった.マグマ対流,亜臨界および超臨界貯留層における対流および,亜臨界/超臨界境界での熱伝導帯を考慮したモデル(5)では,熱伝導帯がヒートキャップとして機能し,浅部での高い黒雲母温度(630℃@1700m)を再現することができた.
深度2850 mから1700 mにおける760–630℃の高い黒雲母温度は,花崗岩からの単純な熱伝導では説明することができない.マグマ溜まり内部での活発な対流による花崗岩/基盤境界への効率的な熱輸送と,貯留層内での熱水対流による浅部への熱輸送の両方が必要である.さらに,石英の溶解度が極小値となる380–550℃付近で形成されるシリカシーリング帯(Saishu et al., 2014)は,亜臨界/超臨界を隔てる熱伝導帯としてヒートキャップの役割を果たし,浅部の超臨界貯留層の効率的な加熱に寄与していたと考えられる.
引用文献
Bourdelle et al. (2013) Contribution to Mineralogy and Petrology, 165, 723–735.
Doi et al. (1998) Geothermics, 27, 663–690.
Henry et al. (2005) American Mineralogist, 90, 316–328.
Ikeuchi et al. (1998) Geothermics, 27, 591–607.
Saishu et al. (2014) Terra Nova, 26, 253–259.