日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T10[トピック]文化地質学【EDI】

[3oral601-10] T10[トピック]文化地質学【EDI】

2023年9月19日(火) 08:45 〜 12:00 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:髙橋 直樹(千葉県立中央博物館)、坂本 昌弥(九州ルーテル学院大学)、大友 幸子(山形大学)

10:15 〜 10:30

[T10-O-16] 『榊原の貝石山』『柳谷の貝石山』の三重県天然記念物指定の経緯と現状

*栗原 行人1、中川 良平2 (1. 三重大学教育学部、2. 三重県総合博物館)

キーワード:天然記念物、中新世、一志層群、化石産地

三重県津市西部に分布する下部中新統・一志層群は貝化石を産出することで古くから有名である.『榊原の貝石山』および『柳谷の貝石山』はいずれも一志層群大井層の化石産地であり,それぞれ昭和12年12月27日,昭和16年2月13日に三重県天然記念物に指定された.これらは化石産地が天然記念物に指定された例としては,全国的に見ても最初期のものである.本研究では,これらがどのような経緯で天然記念物に指定されたかを検討した.まず,天然記念物指定にあたっては,県の審議会などで審議されたはずであり,その当時の文書があれば指定の経緯がわかるはずであるが,三重県の公文書には該当するものがなかった.したがって,指定の経緯を正確に理解することはできない.しかし,『榊原の貝石山』については,三重県(1940)『三重県知事指定史跡名勝天然記念物』の中の松山外治郎による文章からその概要をうかがい知ることができる.それによると,昭和11年に榊原に豪華な温泉場が開発されるなどの理由で多くの観光客が榊原の貝石山を訪れ,化石採集した結果,崖の表面には化石がほとんど見られないようになってしまった.そのため,化石採集を厳禁にして保存につとめ,その価値を一般に知らしめる必要があると述べられている.産出する化石としては,以下が挙げられている.Nuculaオオキララガイの類,Arcaアカガイの類,Ostreaカキの類,Pectenホタテガイの類,Carditaトマヤガイの類,Cardiumトリガイの類,Tellinaサラガイの類,Solenマテガイの類,Dentaliumツノガイの類,Patelloidaコウダカアオガイの類,Turritellaキリガイダマシの類,Naticaエゾタマガイの類,Volutaヒタチオビの類,Bullaナツメガイの類.また,榊原村提出の写真として,Fulgoraria, Macoma, Periplomaらしき化石が掲載されている.しかし,三重県に県立博物館が設置されたのは1953年で,当時の標本は保存されていないようである.以上をまとめると,『榊原の貝石山』および『柳谷の貝石山』は県の天然記念物に指定されているものの,当時はいずれも基本となる古生物学的研究が十分になされず,現在でも未解明な点が多い.今後,産出する化石の詳しい研究が望まれる.