日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T10[トピック]文化地質学【EDI】

[3oral601-10] T10[トピック]文化地質学【EDI】

2023年9月19日(火) 08:45 〜 12:00 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:髙橋 直樹(千葉県立中央博物館)、坂本 昌弥(九州ルーテル学院大学)、大友 幸子(山形大学)

10:45 〜 11:00

[T10-O-18] 山陰海岸ジオパーク京丹後エリア、日本海拡大期のジオツーリズム

*森野 善広1 (1. パシフィックコンサルタンツ株式会社)

キーワード:ジオツーリズム、日本海形成、京丹後エリア

1. はじめに
 京都府北部日本海に面する京丹後市は、山陰海岸ジオパークエリアにあり、「丹後王国1300年」や「京丹後七姫伝説」など古くからの歴史や伝承を観光資源として活用している地域である。これらの文化・観光資源と地質資源との融合によるジオツーリズムとして、「細川ガラシャ」の“隠棲の地”である京丹後市弥栄町味土野地区に向けたツーリズムを展開する。
2. 地質概要
 山陰海岸ジオパークは、「日本海形成に伴う多様な地形・地質・風土と人々の暮らし」をテーマとし、そこで形成された様々な地質が分布するが、それらの形成過程を一定のエリアで系統的に見ることのできる場所は限られている。京丹後市内陸エリアでは、ジオパークのテーマの中で日本海形成における「大陸の時代」とそれに引き続く「日本列島形成の時代」に関する地質が分布している。対象地域の弥栄町等楽寺~味土野ルートでは、延長約4kmのルートにおいて大陸の時代(花崗岩類)から火山活動の時代(安山岩類)を経て、湖・海の時代(堆積岩類:礫岩、砂岩、泥岩、緑色凝灰岩など)の地質を連続的に見ることができ、日本海拡大を“観る”ジオツーリズムコースとして適している(図1 なお、このルートは丹後天橋立大江山国定公園内である)。
3. ツーリズム構成資源とジオストーリー
1) 地質資源(日本海拡大期の地質)(古橋,1982)
① 宮津花崗岩
② 北但層群高柳層(等楽寺層;礫岩(含ウラン))、八鹿層(安山岩溶岩、火山砕屑岩ほか)、豊岡層(陸成・湖成・海成の礫岩・砂岩・泥岩・凝灰岩)
ジオストーリー:大陸の時代の花崗岩の直上に日本海形成に関わる火山活動があり、さらに湖から海域への環境変遷が見られる(主な地質資源;不整合、亜炭層、植物化石、緑色凝灰岩など)。
2) 自然・景観資源
① 湿地の水生植物群落(フトヒルムシロ、ヘラオモダカ、カンガレイ、ガマなど)
② 味土野大滝
ジオストーリー:日本海に流れ込む宇川は、最上流の堆積岩地域を源流とし、安山岩の急崖を流下する過程で湿地や滝などの水辺環境が形成されている。
3) 文化資源
① 細川ガラシャ隠棲の地(明智光秀の娘、細川忠興の妻、名物ガラシャ蕎麦)
② 吉津の穴地蔵伝承
③ 廃村跡(畑集落、吉津集落)
ジオストーリー:高地の地すべり様地形や堆積岩分布域のなだらかな地形上に発達した集落であるが、昭和38年の豪雪(三八豪雪)の影響で、吉津集落は昭和41年(1976年)に集団離村で廃村となる。
4. まとめと課題
 山陰海岸ジオパークにおいて、京丹後七姫伝説細川ガラシャ隠棲の地をめぐるツーリズムコース案として、弥栄町等楽寺~味土野ルートを展開した。このルートは日本海拡大期の地質形成過程を、順を追って観ることができるほか、この地域の暮らしの移り変わりとしての集落の消滅や、流水が作り出す水辺環境(湿地の貴重な水生植物や滝)を見渡すことができる。また、ツーリズムルートの延長として金剛童子山登山(弥栄平野を一望)に繋げることができる。課題として、国定公園内における林道の整備・補修(積雪や豪雨による被災)や露頭の保全・修復が挙げられる。
 本発表で示したジオツーリズムコースは、京都府立峰山高等学校の地学実習のフィールドでした。当時ご指導いただいた故古橋喜博先生に感謝申し上げます。

引用文献:古橋喜博,1982,探求の科学学習による地学教育の実践. 地学教育と科学運動11,39-58.