09:30 〜 09:45
[T15-O-9] 秋吉台若竹山周辺におけるドリーネの形状的特徴:数値地形モデルデータを用いた検討
キーワード:秋吉台、ドリーネ、数値地形モデル、GIS、画像解析
はじめに
日本最大のカルスト台地である秋吉台(東西15 km,南北8 km)には,多数の溶食ドリーネが分布している.秋吉台のドリーネについては,室 (1975)による10個のドリーネに対するCvijić式形状分類やMatsushi et al. (2010)による5個の地形断面が報告されているが,ドリーネは一般的地形図で示される縮尺よりも小規模なものが多いため,定量的調査は少ない状況にある.しかし,近年の技術進歩により,UAV写真測量等で詳細な地形情報が容易に得られるようになった.この発表では,秋吉台の地形地質に係る現況調査(美祢市教育委員会)において得られた数値地形モデルデータを用いて,曽根原 (2022)および曽根原 (2023, 投稿中)が検討したドリーネの形状的特徴について報告する.
対象
対象地は秋吉台南部の若竹山(標高253.4 m)を含む北東-南西約1.0 km,北西-南東約0.8 kmの範囲である.標高は230–270 m程度であり,地形面区分では若竹面に該当する. 数値地形モデルデータは,2020年3月5日(山焼きの11日後)に撮影されたUAV連続写真(813枚,OL率約80%,SL率約70%,解像度約3.5 cm/px)から作成されたDTMデータ(約0.16 mメッシュの標高データ)と,それらを用いて作成したドリーネ形状のShapeファイルからなり,美祢市教育委員会より借用した.解析対象としたドリーネは全238個である.
方法
GISソフトQGISを用いた解析(寸法の計測: Fig. 1)および画像解析ソフトImageJを用いた解析(寸法・形状記述子の計測)の2つを実施した.
結果:深さと形状の関係
溶食が進むにつれドリーネが深くなることを想定し,ドリーネの深さと各諸元の散布図を作成して検討したところ,以下の傾向が認められた.
a. ドリーネ底面の平面形状は,浅いと円形度(circularity),真円度(roundness)および面積包絡度(solidity)のバリエーションが大きいが,深くなるにつれ,円形度は0.65~0.85,真円度は0.5~0.8(=アスペクト比1.25~2),面積包絡度は0.88~0.95程度の値に収束する.
b. ドリーネの断面形状は,深くなるにつれ,「皿型」(ドリーネ底面の平均半径/深さ:10前後)から「すり鉢型」(同:1未満)を呈するようになる.
考察:ドリーネの形状変化モデル(案)
ドリーネの深さが溶食程度を反映すると仮定した場合,深さと断面形状(寸法の比)の関係は,ドリーネの成長過程の検討材料になると期待される.深さ(Dp)と底面平均半径/深さ(Rf/Dp)の形状モデル(回帰曲線Rf/Dp = 5.2694Dp-0.722, 決定係数R² = 0.6434, データ数N = 238を外挿)および深さ(Dp)と外縁平均半径/深さの比(Rr/Dp)の形状モデル(Rr/Dp = 8.8984Dp-0.457, R² = 0.6599, N = 90を外挿)をFig. 2に示す.深さを溶食程度の指標(敢えて縦軸表示)として捉えた場合,溶食が進むにつれて外縁(集水域)が大きく広がるのに対し,底面(表流水の収束域)の拡大は顕著ではない.このことから,秋吉台の溶食ドリーネの形成過程として,一度形成された表流水の収束域(地下への排水口)に周囲から表流水が流れ込むことで,周囲が次第に溶食され集水域が拡大するとともに,収束域が深くなる(標高が低下する)という過程が示唆される.この形状は,Péntek et al. (2007)による4つのタイプ分類のうち縁辺部拡大型(doline widening at rim)に相当するものと考えられる.
文献
Matsushi, Y. et al., 2010, Evolution of solution dolines inferred from cosmogenic 36Cl in calcite. Geology, 38, 1039‒1042.
室 良雄, 1975, 秋吉台のドリーネ形態. 地理科学, 23, 45‒49.
Péntek, K. et al., 2007, A morphometric classification of solution dolines. Zeitschrift für Geomorphologie N.F., 51, 19‒30.
曽根原崇文, 2022, 秋吉台若竹山周辺におけるドリーネの形状的特徴の予察研究. 地質技術, no. 12, 19‒31.
曽根原崇文, 2023, 秋吉台若竹山周辺におけるドリーネの深さ,底面寸法および形状記述子. 地質技術, no. 13, 投稿中.
日本最大のカルスト台地である秋吉台(東西15 km,南北8 km)には,多数の溶食ドリーネが分布している.秋吉台のドリーネについては,室 (1975)による10個のドリーネに対するCvijić式形状分類やMatsushi et al. (2010)による5個の地形断面が報告されているが,ドリーネは一般的地形図で示される縮尺よりも小規模なものが多いため,定量的調査は少ない状況にある.しかし,近年の技術進歩により,UAV写真測量等で詳細な地形情報が容易に得られるようになった.この発表では,秋吉台の地形地質に係る現況調査(美祢市教育委員会)において得られた数値地形モデルデータを用いて,曽根原 (2022)および曽根原 (2023, 投稿中)が検討したドリーネの形状的特徴について報告する.
対象
対象地は秋吉台南部の若竹山(標高253.4 m)を含む北東-南西約1.0 km,北西-南東約0.8 kmの範囲である.標高は230–270 m程度であり,地形面区分では若竹面に該当する. 数値地形モデルデータは,2020年3月5日(山焼きの11日後)に撮影されたUAV連続写真(813枚,OL率約80%,SL率約70%,解像度約3.5 cm/px)から作成されたDTMデータ(約0.16 mメッシュの標高データ)と,それらを用いて作成したドリーネ形状のShapeファイルからなり,美祢市教育委員会より借用した.解析対象としたドリーネは全238個である.
方法
GISソフトQGISを用いた解析(寸法の計測: Fig. 1)および画像解析ソフトImageJを用いた解析(寸法・形状記述子の計測)の2つを実施した.
結果:深さと形状の関係
溶食が進むにつれドリーネが深くなることを想定し,ドリーネの深さと各諸元の散布図を作成して検討したところ,以下の傾向が認められた.
a. ドリーネ底面の平面形状は,浅いと円形度(circularity),真円度(roundness)および面積包絡度(solidity)のバリエーションが大きいが,深くなるにつれ,円形度は0.65~0.85,真円度は0.5~0.8(=アスペクト比1.25~2),面積包絡度は0.88~0.95程度の値に収束する.
b. ドリーネの断面形状は,深くなるにつれ,「皿型」(ドリーネ底面の平均半径/深さ:10前後)から「すり鉢型」(同:1未満)を呈するようになる.
考察:ドリーネの形状変化モデル(案)
ドリーネの深さが溶食程度を反映すると仮定した場合,深さと断面形状(寸法の比)の関係は,ドリーネの成長過程の検討材料になると期待される.深さ(Dp)と底面平均半径/深さ(Rf/Dp)の形状モデル(回帰曲線Rf/Dp = 5.2694Dp-0.722, 決定係数R² = 0.6434, データ数N = 238を外挿)および深さ(Dp)と外縁平均半径/深さの比(Rr/Dp)の形状モデル(Rr/Dp = 8.8984Dp-0.457, R² = 0.6599, N = 90を外挿)をFig. 2に示す.深さを溶食程度の指標(敢えて縦軸表示)として捉えた場合,溶食が進むにつれて外縁(集水域)が大きく広がるのに対し,底面(表流水の収束域)の拡大は顕著ではない.このことから,秋吉台の溶食ドリーネの形成過程として,一度形成された表流水の収束域(地下への排水口)に周囲から表流水が流れ込むことで,周囲が次第に溶食され集水域が拡大するとともに,収束域が深くなる(標高が低下する)という過程が示唆される.この形状は,Péntek et al. (2007)による4つのタイプ分類のうち縁辺部拡大型(doline widening at rim)に相当するものと考えられる.
文献
Matsushi, Y. et al., 2010, Evolution of solution dolines inferred from cosmogenic 36Cl in calcite. Geology, 38, 1039‒1042.
室 良雄, 1975, 秋吉台のドリーネ形態. 地理科学, 23, 45‒49.
Péntek, K. et al., 2007, A morphometric classification of solution dolines. Zeitschrift für Geomorphologie N.F., 51, 19‒30.
曽根原崇文, 2022, 秋吉台若竹山周辺におけるドリーネの形状的特徴の予察研究. 地質技術, no. 12, 19‒31.
曽根原崇文, 2023, 秋吉台若竹山周辺におけるドリーネの深さ,底面寸法および形状記述子. 地質技術, no. 13, 投稿中.