[T5-P-5] (エントリー)沖縄トラフ南部,八重山海底地溝における海洋底拡大前の海底地形とリフト構造の関係
キーワード:背弧海盆、沖縄トラフ、リフト帯、正断層、琉球弧
1.はじめに
地球表面のおよそ5%は背弧海盆由来のものであるといわれているが,その発達メカニズムについて,特に形成初期段階での力学的な特徴は詳しくは分かっていない.沖縄トラフは背弧拡大の初期段階であり(Sibuet et al., 1998),世界でほぼ唯一海洋底拡大する直前の状態を研究することができる背弧海盆である.沖縄トラフ南部,特に八重山海底地溝周辺では,反射法地震探査データの解析により,海底地溝底直下の深さ1 kmほどに下部からの貫入構造が存在する可能性が指摘されている(Arai et al., 2017).リフト帯ではマグマの上方に正断層や引っ張り亀裂が形成されることが多いが(例えば,Chadwick and Embley, 1998; Gudmundsson, 2006など),Arai et al. (2017)の反射断面では貫入構造の真上には断層は認められていない.そこで,本研究ではより詳細な海底地形データも合わせて,貫入構造の直上の断層を再検討した.さらに,八重山海底地溝周辺の断層マッピングを通して,リフティングにかかわる力学特性について検討を行った.
2.使用データおよび解析方法
本研究では,2021年に実施された白鳳丸KH-21-3航海(大坪ほか, 2021)で得られた海底地形データと反射法地震探査データと,JAMSTEC, 産総研(Misawa et al., 2020), およびGEBCOの海底地形データを使用した.八重山海底地溝周辺の地形データからGMT (Generic Mapping Tools; Wessel et al. 2019)を使用して海底地形図の作成を行った.作成した地形図を用いて,海底面上で断層地形と考えられるリニアメントの分布を確認し,リニアメント部分に認められる地形の高低差(段差)の走向と段差間の水平間隔を計測した.また,正断層の水平間隔と断層の到達する深さの関係(Soliva et al., 2006)と,八重山海底地溝を横断する反射断面から,海底地溝周辺の断層の到達する深さを検討した.
3.結果および議論
海底地形図から確認できた段差は合計157であり,これらの段差は八重山海底地溝に沿って認められた.段差の数は八重山海底地溝の北側と南側で大きな差異は認められなかった.これらの段差を6つのグループ(八重山海底地溝の北側3地域および南側3地域)に分類して比較したところ,西部,中央部,東部でそれぞれの卓越する走向は異なり,かつ,八重山海底地溝の北側と南側では類似していることが分かった.八重山海底地溝中央部を南北に横断する反射断面(C1測線; Arai et al., 2017と同一測線)に注目すると,海底面の段差の下に正断層が認められる.つまり,海底地形図で認められる八重山海底地溝周辺の段差は正断層によるものである.一方,八重山海底地溝底の海底面には断層は認められなかった.C1測線の反射断面では正断層の下端は海底面から深さおよそ2〜3 kmまでは認めることができた.また, 海底地形データとSoliva et al. (2006)の式を用いて,八重山海底地溝周辺の18箇所で正断層の下端の深さを計測したところ,海底面下から最大2.42 km,最小0.85 kmであった.正断層の下端の深さについて,反射断面より求められた結果とSoliva et al. (2006)の式より導かれた計算結果は大きくは矛盾しない.本発表では,Soliva et al. (2006)の式から求められた八重山海底地溝周辺の正断層が到達する深さとArai et al. (2017)の貫入構造の描像の関係を紹介する.
引用文献: Arai, R., et al., 2017, J. Geophys. Res., 122, 622–641; Chadwick Jr., W. W., Embley, R.W., 1998, J. Geophys. Res., 103, 9807–9825; Gudmundsson, A., 2006, Earth-Science Reviews, 79, 1–31; Misawa, A., et al., 2020, Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL090161; 大坪ほか, 2021, JpGU2021, SCG45-07; Sibuet, J.C., et al., 1998, J. Geophys. Res., 103, 30245–30267; Soliva, R., et al., 2006, J. Geophys. Res., 111, B01402; Wessel, P., et al., 2019, G-cubed, 20, 5556–5564.
地球表面のおよそ5%は背弧海盆由来のものであるといわれているが,その発達メカニズムについて,特に形成初期段階での力学的な特徴は詳しくは分かっていない.沖縄トラフは背弧拡大の初期段階であり(Sibuet et al., 1998),世界でほぼ唯一海洋底拡大する直前の状態を研究することができる背弧海盆である.沖縄トラフ南部,特に八重山海底地溝周辺では,反射法地震探査データの解析により,海底地溝底直下の深さ1 kmほどに下部からの貫入構造が存在する可能性が指摘されている(Arai et al., 2017).リフト帯ではマグマの上方に正断層や引っ張り亀裂が形成されることが多いが(例えば,Chadwick and Embley, 1998; Gudmundsson, 2006など),Arai et al. (2017)の反射断面では貫入構造の真上には断層は認められていない.そこで,本研究ではより詳細な海底地形データも合わせて,貫入構造の直上の断層を再検討した.さらに,八重山海底地溝周辺の断層マッピングを通して,リフティングにかかわる力学特性について検討を行った.
2.使用データおよび解析方法
本研究では,2021年に実施された白鳳丸KH-21-3航海(大坪ほか, 2021)で得られた海底地形データと反射法地震探査データと,JAMSTEC, 産総研(Misawa et al., 2020), およびGEBCOの海底地形データを使用した.八重山海底地溝周辺の地形データからGMT (Generic Mapping Tools; Wessel et al. 2019)を使用して海底地形図の作成を行った.作成した地形図を用いて,海底面上で断層地形と考えられるリニアメントの分布を確認し,リニアメント部分に認められる地形の高低差(段差)の走向と段差間の水平間隔を計測した.また,正断層の水平間隔と断層の到達する深さの関係(Soliva et al., 2006)と,八重山海底地溝を横断する反射断面から,海底地溝周辺の断層の到達する深さを検討した.
3.結果および議論
海底地形図から確認できた段差は合計157であり,これらの段差は八重山海底地溝に沿って認められた.段差の数は八重山海底地溝の北側と南側で大きな差異は認められなかった.これらの段差を6つのグループ(八重山海底地溝の北側3地域および南側3地域)に分類して比較したところ,西部,中央部,東部でそれぞれの卓越する走向は異なり,かつ,八重山海底地溝の北側と南側では類似していることが分かった.八重山海底地溝中央部を南北に横断する反射断面(C1測線; Arai et al., 2017と同一測線)に注目すると,海底面の段差の下に正断層が認められる.つまり,海底地形図で認められる八重山海底地溝周辺の段差は正断層によるものである.一方,八重山海底地溝底の海底面には断層は認められなかった.C1測線の反射断面では正断層の下端は海底面から深さおよそ2〜3 kmまでは認めることができた.また, 海底地形データとSoliva et al. (2006)の式を用いて,八重山海底地溝周辺の18箇所で正断層の下端の深さを計測したところ,海底面下から最大2.42 km,最小0.85 kmであった.正断層の下端の深さについて,反射断面より求められた結果とSoliva et al. (2006)の式より導かれた計算結果は大きくは矛盾しない.本発表では,Soliva et al. (2006)の式から求められた八重山海底地溝周辺の正断層が到達する深さとArai et al. (2017)の貫入構造の描像の関係を紹介する.
引用文献: Arai, R., et al., 2017, J. Geophys. Res., 122, 622–641; Chadwick Jr., W. W., Embley, R.W., 1998, J. Geophys. Res., 103, 9807–9825; Gudmundsson, A., 2006, Earth-Science Reviews, 79, 1–31; Misawa, A., et al., 2020, Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL090161; 大坪ほか, 2021, JpGU2021, SCG45-07; Sibuet, J.C., et al., 1998, J. Geophys. Res., 103, 30245–30267; Soliva, R., et al., 2006, J. Geophys. Res., 111, B01402; Wessel, P., et al., 2019, G-cubed, 20, 5556–5564.