日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T5[トピック]テクトニクス

[3poster01-13] T5[トピック]テクトニクス

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 T5_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T5-P-6] (エントリー)天草の始新統を切る低角正断層と始新世伸張テクトニクス

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*【ECS】牛丸 健太郎1、山路 敦1 (1. 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:グラーベン、東シナ海、九州、炭田古第三系

古第三紀には,日本列島の周辺で大規模なテクトニクスがいくつも起こったとされる.例えば,海嶺沈み込み[1],三波川帯の上昇[2, 3],MTLの正断層・左横ずれ運動[4]が挙げられる.しかし,古第三系が日本列島陸上に少ないために,これらのテクトニクスは十分理解されていない.鍵となる始新統は瀬戸内海沿岸に点在するが、薄い地層がわずかに残るのみで、それらから読み出せる情報は乏しい.ところが天草の始新統は層厚が約3 km以上あって[5],始新世頃の様子を読み出せる可能性がある.始新世のeustacyの振幅はせいぜい101 mのオーダーだから[6],それだけ厚い地層が堆積するには何らかのテクトニックな沈降が必要である.しかし,天草の始新世テクトニクスについて,はっきりした議論がなされてこなかった.また,天草では中新世以降のテクトニクスが分かってきているので[7,8],古第三紀のそれを若い変形から識別できる可能性がある.

これまで筆者らは,天草の構造発達史を解明するため天草下島北西部でマッピングを進めてきた.その結果,始新統の地質図規模の構造として,1) NE系の正断層,2) 低角正断層,3) NW-SE系正断層・横ずれ断層,4) NE-SW方向の軸を持つ褶曲を認定した.このうち,3), 4)は中期中新世以降に形成した構造である[7, 8].本発表では,始新世テクトニクスの記録の可能性がある1), 2)の正断層群について報告・議論する.

調査範囲において地質図規模のNE-SW系正断層群を認定した.これらの断層はNW-SE系断層群に切られていることから,中期中新世以前の構造である.4地点の断層露頭で条線を観察した結果,傾斜滑りに近い正断層であることが分かった.それぞれの正断層の変位量は概ね200 m以下であったが,変位量が約1300 mに及ぶ正断層も存在した.また,調査範囲において2条の地質図規模の低角断層を認定した.一方は,白亜系と始新統の境界をなし,断層露頭を1地点で確認した.断層破砕帯の内部構造はtop-to-the-NWの正断層運動を示した.もう一方は地層の分布から推定した断層である.推定された断層面を始新統が水平になるように傾動補正すると,リストリックな正断層になることから,褶曲前に形成した正断層だと解釈した.ただし,これらの正断層に向かって地層が厚くなる傾向は確認できていない.

天草の始新統から堆積同時テクトニクスの直接の証拠は得られていないが,以下の事実は始新統がNE-SW方向のグラーベンを埋積したことを示唆する.まず,天草の始新統にみられる最も古い構造がNE-SW系正断層および低角正断層であることが分かった,これらの断層の活動時期の制約は弱いが,低角断層もあり伸長歪み量が大きいことから堆積盆形成時の断層の可能性がある.また,天草の始新統は東または南東に向かって厚くなる傾向がある[9].さらに,始新統中の石炭層が天草西部のみに限られることから,堆積時は西側ほど陸に近かったと考えられる[10].これらことは,天草の南東側にNE-SW走向の大規模な正断層があり,地層が南東に傾動しながら堆積したと考えれば説明できる.天草南東側のグラーベン境界断層としては,臼杵-八代構造線が考えられる.

天草周辺海域の始新世のテクトニックセッティングも上記の描像を支持する.天草西方沖の天草灘や五島灘では始新統がグラーベンを埋積しており[11],東シナ海でも暁新世~始新世にNE-SW方向のグラーベンが多数形成している[12].天草の始新世堆積盆は,これら東シナ海から続くグラーベン群の一部であろう.

1, Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett., 42, 1732–1740; 2, 矢部, 1963, 地学雑, 72, 110–114; 3, 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 4, Kubota et al. 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. 5, 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書; 6, Simmons et al. 2020, The Geological Time Scale 2020, pp1087–1140 ; 7, Ushimaru & Yamaji, 2023, JSG., 173, 104894; 8, 牛丸・山路, 2023, JpGU2023, SGL23-P09; 9, Miki & Suzukawa, 1980, Sci. Rep. Fac. Sci., Kyushu Univ., 13, 285–293; 10, Miki, 1975, Mem. Fac. Sci., Kyushu Univ., 23, 165–209; 11, Itoh et al., 1999, Island Arc, 8, 56–65; 12, Cukur et al., 2011, Mar. Geophys. Res., 32, 363–381.