日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T5[トピック]テクトニクス

[3poster01-13] T5[トピック]テクトニクス

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 T5_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T5-P-9] 湯ノ岳断層の破砕帯性状:福島県浜通りの地震による活動部と非活動部の比較

*酒井 亨1,2、高木 秀雄1 (1. 早稲田大学、2. 電源開発株式会社)

キーワード:湯ノ岳断層、福島県浜通りの地震、活断層、断層破砕帯、複合面構造

【はじめに】
 2011年4月11日に発生した福島県浜通りの地震(以下,4.11浜通り地震)により,いわき市に発達する湯ノ岳断層に地表変状が生じた.この地表変状は北西‒南東走向で高角南西傾斜の正断層であり,最大鉛直変位は0.8 m,全長15 kmにおよぶ地表地震断層である(Toda and Tsutsumi,2013).この地表地震断層の北西端はいわき市官沢地区に位置するが,湯ノ岳断層はさらに西方の入遠野ダム北露頭まで延長される(酒井・高木,2023).著者らは4.11浜通り地震の活動部と非活動部の破砕帯性状を比較し,それらの違いを明らかにするとともに,湯ノ岳断層の破砕帯形成史の解明を目指し調査を進めている.
 4.11浜通り地震の活動部は中野北露頭と官沢露頭,非活動部は入遠野ダム北露頭を対象とし,露頭記載に加え,最新活動面を含む試料から作製した研磨片・薄片を観察した.以下に結果を記す.なお,断層岩類の原岩の緑色片岩は御斎所変成岩に属する.
【中野北露頭】
 いわき市中野地区の北方に位置し,北西と南東の2つの壁面で観察される.4.11浜通り地震で活動した断層面(最新活動面)は北西‒南東走向で高角南西傾斜を示し連続性が良く,基盤上面に0.3~0.5 mの変位を与えている.上盤には中新世の堆積岩類と緑色片岩を原岩とする破砕帯,下盤には緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は2~4 mであり,断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイトから構成される.断層ガウジは最新活動面に沿って幅1~5 cmで認められる.また,露頭では上盤の断層角礫内に逆断層(北落ち)の複合面構造が見られる.研磨片・薄片では断層ガウジ内に右ずれ正断層(南落ち),その周囲の断層角礫に右ずれ逆断層(北落ち)の複合面構造が形成されている.
【官沢露頭】
 いわき市官沢地区に位置する.4.11浜通り地震で活動した断層面(最新活動面)は北西‒南東走向で高角南西傾斜を示し連続性が良く,基盤上面に0.2~0.3 mの変位を与えている.上盤には中新世の堆積岩類と緑色片岩を原岩とする破砕帯,下盤には緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は3~4 mであり,断層ガウジ,断層角礫,ウルトラカタクレーサイト,カタクレーサイトから構成される.最新活動面は幅10~20 cmのウルトラカタクレーサイトと幅0.3~2 cmの断層ガウジの境界に位置する.露頭では上盤の断層角礫内に逆断層(北落ち),研磨片・薄片では断層ガウジとその周囲の断層角礫内に左ずれ正断層(南落ち)の複合面構造が発達する.
【入遠野ダム北露頭】
 入遠野ダムの北方に位置し,北西と南東の2つの壁面が露出する.最新活動面の姿勢は鉛直に近く,走向は北西‒南東~東‒西を示し湾曲する.なお,上載層である現世の河川堆積物に変状は認められない.上盤と下盤の両方に緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は0.05~4 mであり膨縮が激しく,分岐・収斂する複数の小断層が認められる.破砕帯は断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイトから構成されるが,北西壁面と南東壁面で様相が異なり,前者では断層角礫,後者ではカタクレーサイトが主に見られる.なお,断層ガウジは最新活動面に沿って幅1~20 cmで認められる.研磨片・薄片では断層ガウジ内に左ずれ北落ち,その周囲の断層角礫内には左ずれ南落ちの複合面構造が発達する.
【まとめ】
 非活動部は活動部よりも最新活動面は湾曲し,複数の小断層が形成されており,破砕帯は膨縮する.これは露頭スケールにおける断層の端部性状(Kim et al.,2004)と解釈される.また,活動部は正断層(南落ち.中新世の堆積作用)→逆断層(北落ち.中野北露頭では右ずれ成分を伴う)→正断層(南落ち.4.11浜通り地震による最新活動を含む.中野北露頭では右ずれ成分,官沢露頭では左ずれ成分を伴う),非活動部は左ずれ南落ち→左ずれ北落ち(最新活動)の運動履歴が推定される.以上から湯ノ岳断層全体では①左ずれ正断層(南落ち.中新世の堆積作用)→②逆断層(北落ち.活動部は右ずれ成分,非活動部は左ずれ成分を伴う)→③正断層(南落ち.4.11浜通り地震を含む)の履歴が推定され,活動部は①~③,非活動部は①・②の運動ステージを経験したと考えられる.
【引用文献】
Kim, Y.-S., Peacock, D. C. P. and Sanderson, D. J.,2004,J. Struct. Geol.,26,503‒517.
酒井亨・高木秀雄,2023,JpGU Meeting 2023,SSS13-P10.
Toda, S. and Tsutsumi, H.,2013,Bull. Seismol. Soc. Am.,103,1584‒1602.