[T9-P-1] (エントリー)西南日本島根県奥出雲町高田付近に分布する高田花崗閃緑岩のマグマ過程
キーワード:メタアルミナス花崗岩、ジルコンU-Pb年代、高田花崗閃緑岩、山陰バソリス、西南日本弧
西南日本内帯の山陰帯には, 白亜紀~古第三紀の花崗岩類が広く分布して山陰バソリスを形成している.花崗岩バソリスは花崗岩質地殻の形成に欠かせないものであるが,特にメタアルミナス型の花崗岩類はより苦鉄質な岩石に由来することから,花崗岩質地殻の成長に重要である(例えば,Wedepohl, 1995).山陰バソリスにもメタアルミナス型の花崗岩類がいくつか産するが,その火成活動には不明な点が多い.本研究では,山陰バソリスのメタアルミナス型花崗岩のうち,バソリス中央部の高田花崗閃緑岩を研究対象としてそのマグマ過程を検討した. 本発表では,高田花崗閃緑岩とそれに付随する花崗岩類についての地質調査, 岩石記載,全岩化学分析,Sr同位体比分析,およびジルコンU-Pb年代測定の結果を中心に報告する.
高田花崗閃緑岩の岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩,中~粗粒普通角閃石含有黒雲母花崗閃緑岩,および粗粒斑状黒雲母花崗岩に区分され,それぞれは東-西方向に伸長して北から南に向かって帯状配列している.高田花崗閃緑岩の内部には小木石英閃緑岩(主に細粒の石英閃緑岩)および下久野花崗岩(優白質黒雲母花崗岩)も見られる.小木石英閃緑岩は高田花崗閃緑岩と広範囲でミングリングの産状を示し,一方,下久野花崗岩はこれらを一部で混染しながら貫いている.顕微鏡下における高田花崗閃緑岩は,斜長石に汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯を示すものや中心部が著しく変質したコアを有するものがあり,普通角閃石には針状のものもある.斜長石の著しい変質や針状角閃石は組成ギャップと温度差のあるマグマ混合を意味し,これは小木石英閃緑岩とのミングリングによる組織と解釈できる.このことは薬師寺ほか(2012)にも記述が有る.一方,汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯は,高田花崗閃緑岩に化学組成が似る花崗岩質マグマの混合があった可能性を示唆する.下久野花崗岩にはマグマミキシングやミングリングを示唆する組織は確認されず,既存報告にも記載はない(薬師寺ほか,2012).高田花崗閃緑岩の全岩化学分析はハーカー図において主・微量成分がブロードなトレンドを形成する.そして,小木石英閃緑岩とはトレンドが異なる.また両者はRb-Srアイソクロンプロットにおいて分析点が分散し,アイソクロンを形成しない.このことも両者のミングリングや,高田花崗閃緑岩体内における花崗岩マグマの複数のマグマミキシングを示唆する.
高田花崗閃緑岩および下久野花崗岩についてはジルコンのU-Pb年代測定を行った.両者ともに約65~60 Maの幅広い年代値を示して,60 Maにピークが認められた.高田花崗閃緑岩の年代値に関しては,上記の野外地質,岩石記載,全岩化学分析の結果を考慮すると,小木石英閃緑岩とのミングリングを含めた複数回の花崗岩質マグマの混合を経験したことが考えられる.一方,下久野花崗岩については,野外の産状,鏡下の特徴,比較的に均質な化学組成(薬師寺ほか,2012)から,65Ma以降の古いジルコン(高田花崗閃緑岩もしくは小木石英閃緑岩)の混入と,約60Maのマグマからの結晶粒子と考えられる.このことは,薬師寺ほか(2012)が下久野花崗岩より約61 Ma のRb-Sr全岩アイソクロン年代を得ていることと矛盾しない.
以上のような高田花崗閃緑岩の火成活動を山陰バソリスの形成史と比較すると,バソリス形成の最も盛んな68~53 Ma頃(山陰帯火成活動では因美新期に相当)においてもっとも早期に活動した岩体と位置付けられ,メタアルミナス組成を有し,かつ複数の花崗岩マグマが関与するやや特殊な活動史を持つものと言える.
[参考文献]
岩田ほか, 2013, 地質学雑誌, 119, 3, 190-204
薬師寺ほか, 2012, 地質学雑誌, 118, 1, 20-38
Wedepohl, K. H., 1995, Geol. Rundsch, 80, 207-223.
高田花崗閃緑岩の岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩,中~粗粒普通角閃石含有黒雲母花崗閃緑岩,および粗粒斑状黒雲母花崗岩に区分され,それぞれは東-西方向に伸長して北から南に向かって帯状配列している.高田花崗閃緑岩の内部には小木石英閃緑岩(主に細粒の石英閃緑岩)および下久野花崗岩(優白質黒雲母花崗岩)も見られる.小木石英閃緑岩は高田花崗閃緑岩と広範囲でミングリングの産状を示し,一方,下久野花崗岩はこれらを一部で混染しながら貫いている.顕微鏡下における高田花崗閃緑岩は,斜長石に汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯を示すものや中心部が著しく変質したコアを有するものがあり,普通角閃石には針状のものもある.斜長石の著しい変質や針状角閃石は組成ギャップと温度差のあるマグマ混合を意味し,これは小木石英閃緑岩とのミングリングによる組織と解釈できる.このことは薬師寺ほか(2012)にも記述が有る.一方,汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯は,高田花崗閃緑岩に化学組成が似る花崗岩質マグマの混合があった可能性を示唆する.下久野花崗岩にはマグマミキシングやミングリングを示唆する組織は確認されず,既存報告にも記載はない(薬師寺ほか,2012).高田花崗閃緑岩の全岩化学分析はハーカー図において主・微量成分がブロードなトレンドを形成する.そして,小木石英閃緑岩とはトレンドが異なる.また両者はRb-Srアイソクロンプロットにおいて分析点が分散し,アイソクロンを形成しない.このことも両者のミングリングや,高田花崗閃緑岩体内における花崗岩マグマの複数のマグマミキシングを示唆する.
高田花崗閃緑岩および下久野花崗岩についてはジルコンのU-Pb年代測定を行った.両者ともに約65~60 Maの幅広い年代値を示して,60 Maにピークが認められた.高田花崗閃緑岩の年代値に関しては,上記の野外地質,岩石記載,全岩化学分析の結果を考慮すると,小木石英閃緑岩とのミングリングを含めた複数回の花崗岩質マグマの混合を経験したことが考えられる.一方,下久野花崗岩については,野外の産状,鏡下の特徴,比較的に均質な化学組成(薬師寺ほか,2012)から,65Ma以降の古いジルコン(高田花崗閃緑岩もしくは小木石英閃緑岩)の混入と,約60Maのマグマからの結晶粒子と考えられる.このことは,薬師寺ほか(2012)が下久野花崗岩より約61 Ma のRb-Sr全岩アイソクロン年代を得ていることと矛盾しない.
以上のような高田花崗閃緑岩の火成活動を山陰バソリスの形成史と比較すると,バソリス形成の最も盛んな68~53 Ma頃(山陰帯火成活動では因美新期に相当)においてもっとも早期に活動した岩体と位置付けられ,メタアルミナス組成を有し,かつ複数の花崗岩マグマが関与するやや特殊な活動史を持つものと言える.
[参考文献]
岩田ほか, 2013, 地質学雑誌, 119, 3, 190-204
薬師寺ほか, 2012, 地質学雑誌, 118, 1, 20-38
Wedepohl, K. H., 1995, Geol. Rundsch, 80, 207-223.