[T9-P-4] (エントリー)伊豆衝突帯甲斐駒ヶ岳岩体へのジルコンメルト包有物地質圧力計の適用:角閃石Al地質圧力計との比較
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
キーワード:地質圧力計、メルト包有物、花崗岩類、ジルコン、甲斐駒ヶ岳岩体
はじめに 花崗岩質マグマの固結深度は、造山帯の構造発達史から個々の花崗岩体のマグマ過程まで、広い範囲にわたる地質現象の理解に欠かせない基本情報である。花崗岩体に記録された圧力情報を得るために角閃石Al圧力計が広く用いられているが、角閃石を含まない花崗岩類には適用できない等の問題点が指摘されている。そこでTaniwaki et al. (2023, Lithos)では、花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコンのメルト包有物組成を用いた圧力検討法を提案した。本研究では、中新世甲斐駒ヶ岳岩体を対象に、メルト組成を用いた圧力検討および当岩体について既報の角閃石圧力計の結果との比較検討を行った。
実験試料・実験手法 伊豆衝突帯に分布する甲斐駒ヶ岳岩体を対象とし、ジルコンメルト包有物圧力計の検討を行った。Watanabe et al. (2020, JMPS)は当岩体内の8試料について角閃石Al圧力計(Mutch et al., 2016, CMP)および角閃石Ti温度計(Femenias et al., 2006, Am Min)を適用し、花崗岩質メルトの含水ソリダス曲線に近い温度圧力条件を示す3試料を岩体固結時の圧力(240〜220 MPa)を記録したものと解釈し、岩体の定置深度を約9〜8 kmと見積もった。なお、この定置深度はSueoka et al. (2017, JGR)によって報告された熱年代学的手法から見積もられた地殻削剥量と整合的である。
実験試料は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・普通角閃石から構成される角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、副成分鉱物としてジルコン・燐灰石・磁鉄鉱・イルメナイト・褐簾石を含む。Watanabe et al. (2020, JMPS)は、本試料について角閃石温度圧力計を適用したところ、花崗岩質メルトの含水ソリダスより有意に高い温度圧力条件(729 ℃, 300 MPa)が得られたことから、岩体固結時よりも高温高圧条件を記録したものと解釈した。また、本試料からジルコンを分離し、内部構造をSEM-EDSにより観察したところ、微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。
メルト包有物の均質化実験はTaniwaki et al. (2023, Lithos)にしたがい、実験圧力を0.3 GPa、実験温度を780℃と設定して行った。実験後の試料は室温まで急冷させ、SEM-EDSで観察・組成分析を行った。また、H2O含水量の見積もりは下司ほか(2017)にしたがった。
結果 EDS分析から、メルト包有物は花崗岩質の組成を持ち、ジルコンを分離した試料の全岩化学組成(68 wt % SiO2)よりSiO2含有量が高い(70〜83 wt %)。ハーカー図上では、メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する。さらに、メルト包有物の含水量は0.3~10.1 wt %と見積もられた。
考察 Taniwaki et al. (2023, Lithos)は、中新世御内花崗岩質岩体のジルコンメルト包有物について、全岩化学組成トレンドと異なる組成を持つものはメルトともにアルカリ長石や石英などの微細結晶を捕獲した可能性を指摘した。本研究においても同様にメルト組成を検討し、8つのメルト包有物分析値のうち、メルト組成を代表していると考えられる3つの組成を以下の議論に用いる。甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成および含水量を用いて圧力を検討したところ、rhyolite-MELTS圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)からは124、53、52 MPaの圧力がそれぞれ見積もられた。これらのメルト組成から見積もられた圧力は、本試料の角閃石Al圧力計の結果(約300 MPa)よりも有意に低い。一方で、同様の3つの組成についてDERP圧力計(Wilke et al., 2017, JPet)からは265、166、263 MPaの圧力が見積もられた。これらの平均値(231 MPa)は本試料の角閃石Al圧力計の結果(300 MPa)よりやや低いが、Watanabe et al. (2020)により解釈された岩体固結圧力(240〜220 MPa)と調和的である。
薄片観察から、角閃石は自形〜半自形でマグマの固結過程の初期から結晶化していたものと考えられる。一方で、ジルコンは一部に角閃石の周縁部に包有されているものがあるが、多くは黒雲母の周縁部に包有されるものや、主成分鉱物の粒間に認められる。さらに、メルト包有物のSiO2含有量が高いことから、マグマ固結直前の粒間の残液がジルコン結晶成長時に取り込まれたことが示唆される。したがって、当試料についての角閃石Al圧力計とジルコンメルト包有物圧力計との不一致は、角閃石とジルコンの結晶化時期の違いを反映したものと考えられる。
実験試料・実験手法 伊豆衝突帯に分布する甲斐駒ヶ岳岩体を対象とし、ジルコンメルト包有物圧力計の検討を行った。Watanabe et al. (2020, JMPS)は当岩体内の8試料について角閃石Al圧力計(Mutch et al., 2016, CMP)および角閃石Ti温度計(Femenias et al., 2006, Am Min)を適用し、花崗岩質メルトの含水ソリダス曲線に近い温度圧力条件を示す3試料を岩体固結時の圧力(240〜220 MPa)を記録したものと解釈し、岩体の定置深度を約9〜8 kmと見積もった。なお、この定置深度はSueoka et al. (2017, JGR)によって報告された熱年代学的手法から見積もられた地殻削剥量と整合的である。
実験試料は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・普通角閃石から構成される角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、副成分鉱物としてジルコン・燐灰石・磁鉄鉱・イルメナイト・褐簾石を含む。Watanabe et al. (2020, JMPS)は、本試料について角閃石温度圧力計を適用したところ、花崗岩質メルトの含水ソリダスより有意に高い温度圧力条件(729 ℃, 300 MPa)が得られたことから、岩体固結時よりも高温高圧条件を記録したものと解釈した。また、本試料からジルコンを分離し、内部構造をSEM-EDSにより観察したところ、微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。
メルト包有物の均質化実験はTaniwaki et al. (2023, Lithos)にしたがい、実験圧力を0.3 GPa、実験温度を780℃と設定して行った。実験後の試料は室温まで急冷させ、SEM-EDSで観察・組成分析を行った。また、H2O含水量の見積もりは下司ほか(2017)にしたがった。
結果 EDS分析から、メルト包有物は花崗岩質の組成を持ち、ジルコンを分離した試料の全岩化学組成(68 wt % SiO2)よりSiO2含有量が高い(70〜83 wt %)。ハーカー図上では、メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する。さらに、メルト包有物の含水量は0.3~10.1 wt %と見積もられた。
考察 Taniwaki et al. (2023, Lithos)は、中新世御内花崗岩質岩体のジルコンメルト包有物について、全岩化学組成トレンドと異なる組成を持つものはメルトともにアルカリ長石や石英などの微細結晶を捕獲した可能性を指摘した。本研究においても同様にメルト組成を検討し、8つのメルト包有物分析値のうち、メルト組成を代表していると考えられる3つの組成を以下の議論に用いる。甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成および含水量を用いて圧力を検討したところ、rhyolite-MELTS圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)からは124、53、52 MPaの圧力がそれぞれ見積もられた。これらのメルト組成から見積もられた圧力は、本試料の角閃石Al圧力計の結果(約300 MPa)よりも有意に低い。一方で、同様の3つの組成についてDERP圧力計(Wilke et al., 2017, JPet)からは265、166、263 MPaの圧力が見積もられた。これらの平均値(231 MPa)は本試料の角閃石Al圧力計の結果(300 MPa)よりやや低いが、Watanabe et al. (2020)により解釈された岩体固結圧力(240〜220 MPa)と調和的である。
薄片観察から、角閃石は自形〜半自形でマグマの固結過程の初期から結晶化していたものと考えられる。一方で、ジルコンは一部に角閃石の周縁部に包有されているものがあるが、多くは黒雲母の周縁部に包有されるものや、主成分鉱物の粒間に認められる。さらに、メルト包有物のSiO2含有量が高いことから、マグマ固結直前の粒間の残液がジルコン結晶成長時に取り込まれたことが示唆される。したがって、当試料についての角閃石Al圧力計とジルコンメルト包有物圧力計との不一致は、角閃石とジルコンの結晶化時期の違いを反映したものと考えられる。