日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T9[トピック]マグマソースからマグマ供給システムまで【EDI】

[3poster14-22] T9[トピック]マグマソースからマグマ供給システムまで【EDI】

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 T9_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T9-P-5] LA-ICP-MS による10万年より若い火山岩のU−Th放射非平衡年代測定とその応用:三瓶火山の例

*岩野 英樹1,5、仁木 創太1、坂田 周平2、浅沼 尚4、折橋 裕二3、平田 岳史1、檀原 徹5 (1. 東京大学附属地殻化学実験施設、2. 東京大学地震研究所、3. 弘前大学、4. 京都大学、5. (株)京都フィッション・トラック)

キーワード:U−Th 放射非平衡、年代測定、ジルコン、アパタイト、三瓶火山、LA-ICP-MS

近年、第四紀年代測定分野において、ウラン系列の中間生成物であるトリウム230(半減期7.5万年)を利用した238U−230Th放射非平衡年代測定法(以下U−Th法と略す)が再注目されている。この手法は1960年代に開発され[1] [2]、鉱物結晶化時に生じるトリウム230とウラン238間の放射非平衡を活用し、その同位体比(230Th/238U)とマグマの初生的なトリウムとウラン比(Th/U)を精確に決定することで鉱物結晶化後の時間情報を抽出する年代測定である。同法はウラン含有鉱物であるジルコン、アパタイト、イルメナイト、モナザイトなどに適用でき、またその実質的な年代適用範囲は数千年前から30万年前である。すなわち、後期更新世以後の地質試料に適用可能な炭素14 (14C) 年代測定法とその他(ジルコンU−PbやサニディンAr/Ar法)の手法間年代空白(5万年前から10万年前の適用年代範囲が重ならない期間)を埋めることができる。直近のU−Th年代報告例として、阿蘇4火砕流(86.4±1.1ka, イルメナイト) [3] 、三瓶木次軽石(105±6ka、ジルコン) [4]や洞爺火砕流(113.5±5ka、ジルコン+モナザイト) [4]がある。Niki et al.(2022)は、U−Th法の最大のハードルである微量230Thの正確な分析のために、コリジョンセルを搭載した四重極型ICP質量分析計を用い、質量数230に対するスペクトル干渉除去技術を新たに開発した。彼らは、ジルコン を対象とした時の230Thに対して干渉となる232ThのテーリングおよびZr2O3+に代表される多原子イオンを従来のICP―MS法の1/100まで低減し、その正確な分析を実施可能とした。また、従来法の一つである二次イオン質量分析法(SIMS)と比較して分析処理能力が20倍以上の高速化を達成している。著者らはさらに、NikiほかのLA―ICP―MSシステムを用い、マグマ内での結晶化年代(U−Th)に加え、火山噴出年代も同時に決定する、ジルコンU−Th放射非平衡およびフィッショントラック(FT)ダブル年代測定法の開拓を目指し実験を開始した。本講演では、島根県三瓶火山の噴出物の中の3つの火山灰:三瓶木次テフラ(噴出年代105ka)、三瓶大田テフラ(70ka)、三瓶池田テフラ(40ka)のジルコン年代測定結果を報告する。これらの噴出年代は比較的よく決まっている[5]。まず年代測定の基礎実験として、 Nikiほかで構築したLA−ICP−MS U―Th年代分析条件でU定量を行い、既存のU定量法(熱中性子誘導トラック法)の値と一致することを確認した。また、複数の年代標準ジルコンについてFT年代測定も行い、その結果が標準年代と一致することを確かめた。このことから既存のU−Th分析条件でのダブル年代測定が実行可能と判断した。現在までに三瓶火山の年代結果として、三瓶木次ジルコン(101粒)からU―Th年代(114±4ka, k=2)とFT年代(113±26ka, k=2)を得た。また、三瓶池田ジルコンについては予察的ながらU―Th年代(60ka)を推定した。しかしながら、三瓶火山のテフラには明らかな外来結晶が観察されることから、U―ThおよびF T両年代の観点から合理的に外来結晶を除外する必要がある。その上でジルコン結晶化年代と冷却年代(=噴出年代)の差を検討し、火山噴火以前のマグマプロセスに迫りたい。著者らはさらに、ウラン含有鉱物の中でもマグマ内の晶出期が 比較的早く、様々な火山岩に広く含まれるアパタイトU−Thに着目している。三瓶池田テフラのアパタイトを用いて、アパタイトU−Th、ジルコンU−Th、ジルコンF Tの年代結果比較とその意義を議論したい 。 [1] Kigoshi K. (1967) Science 156, 932―934. [2]福岡孝昭(1996)地質ニュース, 502号, 7-13. [3] Keller F. (2022) Geostandards and Geoanalytical Research. 46, 465-475 https://doi.org/10.1111/ggr.12447. [4] Niki S., Kosugi S., Iwano H., Danhara T. and Hirata T. (2022) Geostandards and Geoanalytical Research. doi: 10.1111/ggr.12458. [5]産業技術総合研究所地質調査総合センター、オープンファイル 23)三瓶山火山.