[T9-P-6] (エントリー)山口県東部,ジュラ紀付加体玖珂層群を貫く土生花崗閃緑岩の定置過程とマンガン鉱床の形成
キーワード:玖珂層群、土生花崗閃緑岩
【はじめに】山口県東部玖珂層群には後期白亜紀の火成活動に伴う花崗岩類が分布している.これら花崗岩類は東アジア東縁に発達した白亜紀の間欠的な大規模火成活動(magmatic flare ups)期に対応し,ジュラ紀付加体の玖珂層群を貫く.また,成因的な関係は不明であるが,周囲にはMnやW鉱床が分布する.本発表で対象とする土生花崗閃緑岩は,これまでSr同位体比組成(大和田ほか,1995;Tsuboi and Suzuki , 2002)や角閃石K–Ar年代(104 Ma;柚原ほか,1999),モナズ石CHIME年代(90 Ma; Suzuki and Adachi, 1998)の研究が報告されているが,分布や岩相の特徴以外,鉱物・全岩化学組成を踏まえたマグマ過程の研究が行われてない.本研究は,土生花崗閃緑岩の岩石記載学的特徴について検討し,マグマの定置過程について議論した後,Mn鉱床との関係について検討する. 【地質概要】土生花崗閃緑岩は東西約5km,南北約4kmの岩体である.母岩の玖珂層群は弱変成作用を被り,その片理面はゆるく北へ傾斜している.本岩体は構造的上位に角閃石を含む優黒質相(角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩),下位に角閃石を欠く優白質相(黒雲母花崗閃緑岩~花崗岩)が分布し,大部分は優白質相が占める.優黒質相中には暗色包有物がしばしば含まれる. 優白質相は,自形~半自形の黒雲母,半自形の斜長石,他形の石英,カリ長石から構成される.一方,優黒質相は角閃石を含み苦鉄質鉱物に富むが,基本的な特徴は優白質相と類似する.優黒質相の角閃石は,しばしば黒雲母を包有することから,黒雲母の晶出は角閃石と同時期もしくはそれ以前と考えられる.また優白質相と優黒質相の両者には汚濁帯の伴う斜長石が観察され,このような産状は,固結しつつある優白質相に優黒質相が貫入し,両マグマの接触部でマグマ混交したことを示唆する. 【マグマ組成変化と定置条件】斜長石のアノーサイト組成(An)は,優白質相と優黒質相でそれぞれAn25-30,An40-45で組成頻度分布に2つのピークが認められる.角閃石圧力計と黒雲母圧力計を用いて優黒質相と優白質相の定置圧力条件を求めるとそれぞれ2-3kbarで,母岩の変成圧力条件と調和的であったまたジルコン飽和温度計を用いて,両岩相の温度条件を見積もると,優黒質相で約750℃,優白質相は750-700℃であった. 全岩化学組成は,両岩相で一連のトレンドを形成し,Sr–Nd同位体初生値(104 Maで補正)を考慮すると,分化の進んだ優白質相は上昇過程で周囲の泥質岩を取り込み,同化したことを示唆する. 【定置過程】産状,岩石組織および鉱物化学組成から見て,土生花崗閃緑岩は優白質相と優黒質相がマグマ同士で共存していたことを示唆する.土生花崗閃緑岩は優白質相が主岩相として岩体の大部分を占める.岩石化学的特徴から,優黒質相のマグマから分化した優白質相が上昇しつつ地殻物質を同化して,上部地殻(深度5〜6 km)に定置したと考えられる.定置後,固結直前の優白質相マグマ溜まりに優黒質相のマグマが貫入し,優白質相を加熱して一部でマグマ混合を引き起こした.この時,優黒質相は液体に近く,固結しつつある優白質相よりも低密度だったため,優白質相の上位に定置したと推察される.一方,岩体の周囲には多数のMn鉱床が分布する.これらは,岩体の近傍でバラ輝石やざくろ石を産する珪酸マンガン型鉱床,岩体から離れ場所で菱マンガン鉱を産する炭酸マンガン型鉱床が距離に応じて分布する.岩体からの距離とMn鉱床の種類から,土生花崗閃緑岩を熱源としたMn鉱床の形成が示唆される. 【引用文献】 大和田ほか, 1995, 岩鉱, 90, 358-364. 高見ほか, 1993,地質学雑誌,99,545-563. Tsuboi and Suzuki, 2002, Chemical Geology, 199, 189–198. 柚原ほか,1999, 地質学論集, 53, 323-331. Suzuki and Adachi, 1998, Journal Metamorphic Geology, 19,23-37.