一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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日本老年学会合同ポスターセッション

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日本老年学会合同ポスターセッション

2023年6月16日(金) 16:30 〜 17:30 合同ポスター会場 (1階 G2)

座長:
戸原 玄(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)
白野 美和(日本歯科大学新潟病院訪問歯科口腔ケア科)

[GP4-3] 現在歯数と歯周炎の交互作用が海馬形態と認知機能に与える影響
ー大迫研究における縦断MRI解析ー

○山口 哲史1、村上 任尚1,2、小宮山 貴将1、大井 孝1,3、三好 慶忠1、山田 唱1、関 大蔵1、大久保 孝義4、服部 佳功1 (1. 東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野、2. 東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室、3. 石巻赤十字病院歯科、4. 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)

【目的】
 歯数減少と歯周炎がアルツハイマー病(AD)のリスク因子である可能性が示唆されているが,ADのバイオマーカーである海馬萎縮との関連については縦断研究によって否定的な結果が報告されている。我々は,重度歯周炎の患者では歯数が多いほど口腔内の炎症が増大することで,逆に脳萎縮を惹起する可能性があり,歯数と歯周炎の相互関係をモデル化して脳形態への影響を同時に解析する必要があると考えた。本研究は,地域一般住民を対象に,ベースライン時の歯数と歯周炎の状況およびその交互作用について,4年間の海馬容積変化率および認知機能変化との関連を解析することを目的とした。
【方法】
 岩手県花巻市大迫在住の55歳以上の一般住民を対象とした大迫研究の一部として実施した。脳MRIを4年間隔で2回以上撮像し,選択基準を満たした170名のデータを用いた。歯周ポケット深さ(Probing depth:PD)は現在歯全てを対象に4点で計測し,各歯の最も深いPDの平均を「平均PD」とした。MRIから算出した海馬体積の年間対称パーセント変化率(Annual Symmetric percent change:ASPC)を左右それぞれに従属変数とし,独立変数として年齢等の補正項目と共に,モデルの適合が最良となる閾値によって平均PDを2値化した変数と現在歯数の交互作用項を含むモデルで重回帰分析を行った。また,同じモデルにおいて,従属変数を認知機能の指標であるMMSEの年間変化に置き換えた解析を実施した。有意水準は5%とした。
【結果と考察】
 左海馬ASPCが従属変数のモデルは,平均PDの閾値が3.2mmの場合に適合が最良となり,歯数と平均PD大群の交互作用は有意となった(右海馬は非有意)。歯数の偏回帰係数は,平均PD小群で0.034(P=0.039),平均PD大群で-0.032(P=0.024)だった。歯周炎が軽度の場合は歯数が少ないほど左海馬の萎縮速度が速く歯周炎が重度の場合は歯数が多いほど萎縮速度が速いことが示唆された。MMSEの年間変化を従属変数としたモデルでも,歯数の偏回帰係数は平均PD小群で有意に正(B=0.017, P=0.049)となり,歯周炎が軽度の場合には歯数が少ないほど認知機能の低下速度が速いことが示唆された。
(COI開示:なし)
(東北メディカル・メガバンク機構倫理委員会承認番号:2021-4-004)